教育ニ関スル戦時非常措置方策
閣議決定年
昭和18年10月12日 閣議決定
収載資料:資料日本現代教育史 4 宮原誠一ほか編 三省堂 1974.3 pp.334-336 当館請求記号:FB14-90
第一 方針
現時局ニ対処スル国内態勢強化方策ノ一環トシテ学校教育ニ関スル戦時非常措置ヲ講ジ施策ノ目標ヲ悠久ナル国運ノ発展ヲ考ヘツツ当面ノ戦争遂行力ノ増強ヲ図ルノ一事ニ集中スルモノトス
第二 措置
一 学校教育ノ全般ニ亘リ決戦下ニ対処スベキ行学一体ノ本義ニ徹シ教育内容ノ徹底的刷新ト能率化トヲ図リ国防訓練ノ強化勤労動員ノ積極且ツ徹底的実施ノ為学校ニ関シ左ノ措置ヲ講ズ
(一)国民学校 義務教育八年制ノ実施ハ当分ノ内之ヲ延期ス
(二)青年学校 工場事業場ニ於テ生産ニ従事スル生徒ニ付テハ教室内ニ於ケル授業ハ極力之ヲ縮減スルト共ニ職場ノ実情ニ即シテ生産ノ増強、戦力ノ増進ニ資スル如ク刷新改善ス
(三)中等学校
(イ)昭和十九年ヨリ四学年修了者ニモ上級学校入学ノ資格ヲ付与シ昭和二十年三月ヨリ中等学校四年制施行期ヲ繰上ゲ実施ス
(ロ)昭和十九年度ニ於ケル中学校及高等女学校ノ入学定員ハ全国ヲ通シ概ネ前年度ノ入学定員ヲ超エシメズ工業学校、農業学校、女子商業学校ハ之ヲ拡充ス
(ハ)男子商業学校ニ就テハ昭和十九年度ニ於テ工業学校、農業学校、女子商業学校ニ転換スルモノヲ除キ之ヲ整理縮小ス
(四)高等学校
(イ)高等学校ニ付テハ徴兵適齢ニ達セザル者ノ入営延期ノ措置ヲ受クル者等ニ対スル授業ハ之ヲ継続ス
(ロ)昭和十九年度ノ入学定員ハ文科ニ在リテハ全国ヲ通ジ概ネ従前ノ三分ノーヲ超エシメズ、理科ニ在リテハ所要ノ拡充ヲ行フ
(五)大学及専門学校
(イ)大学及専門学校ニ付テハ徴兵適齢ニ達セザル者、入営延期ノ措置ヲ受クル者等ニ対スル授業ハ之ヲ継続ス
(ロ)理科系大学及専門学校ハ之ヲ整備拡充スルト共ニ文科系大学及専門学校ノ理科系ヘノ転換ヲ図ル
(ハ)文科系大学及専門学校ニ付テハ徴集猶予ノ停止ニ伴フ授業上ノ関係並ニ防空上ノ見地ニ基キ必要アルトキハ適当ナル箇所へ移転整理ヲ行フ
私立ノ文科系大学及専門学校ニ対シテハ其ノ教育内容ノ整備改善ヲ図ルト共ニ相当数ノ大学ハ之ヲ専門学校ニ転換セシメ専門学校今後ノ入学定員ハ概ネ従前ノ二分ノ一程度タラシムルヤウ之ガ統合整理ヲ行フ
(ニ)女子専門学校ハ前項ノ整理ノ目標ノ外トシ其ノ教育内容ニ付テハ男子ノ職場ニ代ルベキ職業教育ヲ施スガ為ニ所要ノ改正ヲ行フ
(六)各種学校
(イ)男子ニ付テハ専検指定学校及特ニ指定スルモノノ外之ヲ整埋ス
(ロ)女子ニ付テハ専検指定学校ノ外戦時国民生活確保上緊要ナルモノ及職業輔導上必要ナルモノヲ除キ之ヲ整理ス
二 教員ノ確保ヲ図ル為概ネ左ノ措置ヲ講ズ
(イ)教員養成諸学校ニ付テハ其ノ授業ヲ継続ス
(ロ)教員養成諸学校卒業者ニ付テハ従前別段ノ定ナキ者ニ在リテモ一定年限ノ就職義務ヲ課ス
(ハ)現役ノ軍人及嘗テ官吏タリシ者其ノ他学識アル者ヲ教育者トシテ採用スルノ方途ヲ講ズルト共ニ技術者其ノ他実務担当者ニ付広クソノ協力ヲ得ル如ク措置ス
(ニ)教員養成諸学校ニ所要ノ拡充ヲ図ル
三 教育実践ノ一環トシテ学徒ノ戦時勤労動員ヲ高度ニ強化シ在学期間中一年ニ付概ネ三分ノ一相当期間ニ於テ之ヲ実施ス
四 在学中徴集セラレタル者ノ卒業資格賦与ニ付テハ、特別ノ取扱ヲ考慮ス
五 在学中徴集セラレタル者ノ除隊後ノ復学ニ付テハ、特別ノ便宜ヲ図ルト共ニ統合整理セラレタル学校ノ旧在学者アル場合ニ於テハ臨時ニ必要ナル施設ヲ講ズ
六 学校ノ統合整理ニ伴フ教職員ノ措置ニ関シテハ総合的ニ之ガ再配置ヲ図リ転換スル学校其ノ他必要ナル部面ノ所要ニ充当シ特ニ大学、専門学校教職員ニ付テハ可及的其ノ研究ヲ継続シ得ル如ク措置ス
七 本要綱実施ノ為必要アルトキハ学校及学科ノ廃止、授業ノ停止、定員ノ減少、学校ノ移転等ヲ命ジ得ル如ク法制上必要ナル措置ヲ講ズ
八 学校ノ整理、転換、移転等ヲ命ジタル場合ハ政府ニ於テ之ガ補助其ノ他必要ナル方途ヲ講ズ
尚特ニ私立ノ理科系大学及専門学校ノ場合ニ在リテハ其ノ学校ノ経理上必要アリト認メタルトキハ政府ニ於テ経常費ニ付適当ナル補助ヲ為スモノトス