本文に飛ぶ

戦時国民思想確立ニ関スル基本方策要綱

昭和18年12月10日 閣議決定

収載資料:昭和社会経済史料集成 第22巻 大久保達正(他) 大東文化大学東洋所 1996.9 pp.112-115 当館請求記号:GB631-37

第一 方針
一 万邦無比ノ皇国国体ノ本義ニ徹シ政教一ニ聖旨ヲ奉体シ深ク学問思想文化ノ根源ヲ匡シ愈々忠誠奉公ノ精神ヲ昂揚振起セシム
二 大東亜戦争ノ真義ヲ会得セシメ必勝ノ信念ヲ強化シ各々其ノ職域奉公ニ邁進セシムルト共ニ戦争遂行ノ前途ニ横ハル凡有ル障碍ト困難トヲ覚悟ノ上ニ物心両方面ニ亘リ国情ニ即セル誠実真摯ナル生活ヲ営マシム
三 大東亜建設ノ重責ヲ荷フ国民タルノ識見ヲ涵養シ其ノ実践力ヲ体得セシム
四 政府ハ固ヨリ社会各層ニ於ケル指導者ハ叙上ノ点ニ関シ確乎不動ノ信念ヲ堅持シ率先垂範ノ実ヲ拳グルニ努ム

第二 要領
一 国体ノ本義ノ透徹ト教学ノ刷新振興
(一)国家万般ノ施策ハ尽忠ノ至誠ヲ最高度ニ発揚セシムルコトヲ第一義トスルコト
(二)学者、思想家ヲ動員シ皇国ノ道ノ闡明ヲ図ルコト
(三)学問、思想ニ於ケル由由主義、個人主義又ハ社会主義的思想ヲ払拭シ真ノ日本精神ニ基ク諸学ノ確立徹底ヲ図リ之ヲ教育教化ノ実際ニ浸透セシムルコト
(四)宗教及宗教活動ノ醇化昂揚ヲ図ルコト
二 戦意ノ昂揚ト必勝信念ノ強化
国民思想ノ啓発指導其ノ他各般ノ施策ニ於テ左ノ方途ノ強化徹底ヲ期スルコト
(一)戦争ノ目的ト意義ニ付之カ一層ノ徹底普及ヲ図ルコト
(二)近代戦争ノ性格ト之ニ伴フ国民生活変化ノ必然性ニ関スル認識ヲ深ムルト共二之ガ克服ノ覚悟ヲ固メシムルコト
(三)武力戦ノ局部的波瀾ニ対スル国民精神力ノ強靭性ヲ涵養スルコト
(四)戦争ノ実相ニ基キ国難来ノ感覚ヲ極力感得セシメテ之ニ対スル反撥心ト敵愾心ヲ昂揚シ国ヲ挙ゲテ国難ニ赴クノ満々タル闘志卜戦意ノ強化ヲ図ルコト
三 戦争生活ノ確立
(一)国内即戦場、国民即戦士ノ自覚ノ下ニ国民生活ニ関スル観念ノ純戦時的認識ヲ為シ之ニ基キ物心両方面ニ亘ル簡素剛健而モ正直ナル戦争生活態勢ヲ確立スルコト
(二)諸般ノ施策ヲ実施スルニ当リテハ克ク国情民風ニ即応シ民心ノ機微ヲ察シテ之ヲ行ヒ其ノ達成ヲ期スルコト
(三)戦力増強、食糧自給、戦時生活ノ確立並ニ国民道徳特ニ経済道義ノ昂揚等ニ関シ国民ノ自発的協力実践ヲ図ル為翼賛運動ヲ強化シ各種国民組織ヲ総動員シテ強力徹底セル全国民運動ヲ展開スルコト
四 大東亜建設ノ重責ヲ荷フ国民タルノ識見ノ涵養
(一)八紘為宇ノ大義ニ基ク大東亜共同宣言ノ趣旨ニ依リ大東亜建設理念ノ透徹ヲ図ルコト
(二)大東亜建設ノ重責ヲ荷フ国民タルノ自覚ヲ把持セシムルト共ニ其ノ教養ノ向上ト実践力ノ体得ニ努メシムルコト
(三)米英崇拝思想ノ残渣ヲ払拭スルト共ニ大東亜諸民族ニ対スル侮蔑搾取ノ思想ヲ芟除スルヤウ努ムルコト
五 指導者層ノ率先垂範
(一)社会各界ノ指導者層ニ対シテハ特ニ戦時意識ノ強化ヲ図ルト共ニ戦時生活ノ厳格ナル実践ニ邁進セシムルコト
(二)官公吏ノ戦時ニ於ケル職責ノ特ニ重大ナルニ鑑ミ之ガ綱紀ノ振粛ヲ図リ率先垂範ノ実ヲ拳ゲシムル為必要ナル措置ヲ講ズルコト
(三)生産ノ責任ヲ担当スル者ノ義務遂行ノ徹底ヲ図ルト共ニ之ガ褒賞ニ付適切ナル措置ヲ講ズルコト
六 思想取締
(一)共産主義運動、諜報活動、反軍思想・非合法直接行動等ノ防圧ヲ強化スルコト
(二)左ノ諸思想ハ厳ニ観察ヲ加ヘ早キニ及ンデ徹底的ナル予防取締ヲ為スコト
(イ)講和招来ヲ希求スルガ如キ思想其ノ他終戦思想
(ロ)同盟国トノ緊密ヲ疎隔スルガ如キ思想
(ハ)戦時計画経済ヲ否定シ民心ヲ惑乱スルガ如キ思想
(ニ)動機ノ如何ヲ問ハズ国政変乱ヲ目的トセル直接行動ヲ是認スルガ如キ思想
(ホ)其ノ他国民ノ戦争意志乃至戦力ヲ分裂弱化ニ導クガ如キ思想
(三)諸外国ノ宣伝謀略ニ対シ之ガ防衛取締ノ措置ヲ強化スルコト
七 朝鮮人及台湾人ノ思想指導
朝鮮人及台湾人ニ対シテハ各般ノ施策ヲ講ジテ之ガ指導ノ強化ニ努メ皇民意識ノ徹底ヲ図ルコト