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決戦非常措置要綱

昭和19年2月25日 閣議決定

収載資料:軍需省関係資料 第8巻 軍需省関係政策資料 1997 pp.95-102 当館請求記号:AZ-675-G30

決戦ノ現段階ニ即応シ国民即戦士ノ覚悟ニ徹シ国ヲ挙ゲテ精進刻苦其ノ総力ヲ直接戦力増強ノ一点ニ集中シ当面ノ各緊要施策ノ急速徹底ヲ図ルノ外先ツ左ノ非常措置ヲ講ズ
一、学徒動員体制ノ徹底
(1)原則トシテ中等学校程度以上ノ学生生徒ハ総テ今後一年、常時之ヲ勤労其ノ他非常任務ニ出動セシメ得ル組織的態勢ニ置キ必要ニ応ジ随時活発ナル動員ヲ実施ス
(2)理科系ノモノハ其ノ専門ニ応ジ概ネ之ヲ軍関係工場病院等ノ職場ニ配置シテ勤労ニ従事セシム
(3)学校校舎ハ必要アル場合ハ軍需工場化シ又ハ之ヲ軍用、非常倉庫用、非常病院用、避難住宅用其ノ他緊要ノ用途ニ之ヲ転用ス
二、国民勤労体制ノ刷新
職業転換、適正配置並ニ勤労管理特ニ学徒、女子及応徴者等ニ関スル受入体制ノ急速ナル刷新強化ヲ図ルト共ニ家庭ノ根軸タル者ヲ除ク女子ノ女子挺身隊強制加入ノ途ヲ拓キ且之ニ即応シテ官庁側ノ指導、斡旋、保護ノ充実ニ遺憾ナカラシム
右ニ関連シ速ニ動員機構ヲ整備シ特ニ軍動員トノ関係ノ緊密化ヲ図ル
三、防空体制ノ強化
(1)重要工場ニ付キ能フ限リノ防空施設ヲ行フト共ニ工場防空組織ヲ完備スル等工場防空ノ急速ナル強化ヲ図ル
(2)空襲被害極限等ニ付テノ準備訓練ヲ徹底ス
(3)空襲ニ依ル物的被害ノ修理復旧、食糧配給ノ確保、救護、空襲時用簡易住宅ノ建設等空襲時ノ善後措置ニ関スル準備ノ急速完成ヲ図ル
(4)一般疎開ノ実施ヲ強度ニ促進スルト共ニ第二次官庁疎開、脆弱木造官庁建物ノ移転除却、統制会又ハ団体建物及地方会社出張所、社交倶楽部等ノ整理ヲ行フ
(5)養老院、精神病院、刑務所(生産ニ影響ナキモノ)等ハ極力速ニ地方ニ疎開又ハ整理セシム
(6)空襲被害ニ備ヘ近府県農村又ハ小都市所在ノ親戚、知人ノ許ニ最少限必要ノ衣類身廻品ヲ預託スルコトヲ徹底セシム
(7)前各項ノ外防空並ニ疎開ニ付急速徹底セル各般ノ措置ヲ講ズ
四、簡素生活徹底ノ覚悟ト食糧配給ノ改善整備
(1)時局突破ノ為ニハ国民生活ヲ徹底的ニ簡素化シ第一線将兵ノ困苦欠乏ヲ想ヒ如何ナル生活ニモ耐フルノ覚悟ヲ固メシム
(2)大都市ニ於ケル当面食糧ノ配給ノ改善特ニ少年等ニ対スルモノニ付格段ノ措置ヲ講ズ
(3)藷類ノ乾燥、魚類ノ塩漬等食糧ノ加工貯蔵ヲ徹底ス
五、空地利用ノ徹底
家庭、隣組、学校生徒、青少年団、壮年団、産業報国会其ノ他ヲ動員シ特ニ大都市ニ於ケル公園、庭園、花卉園等ハ勿論、校庭、工場周辺空地其ノ他ノ空閑地ハ徹底的ニ之ヲ食糧作物ニ利用セシム
六、製造禁止品目ノ拡大ト規格統一ノ徹底
製造禁止品ノ範囲ヲ拡大スルト共ニ規格ノ統一ヲ徹底ス
七、高級享楽ノ停止
高級料理店待合ハ之ヲ休業セシメ、又高級興行歓楽場等ハ一時之ヲ閉鎖シ其ノ施設ハ必要ニ応ジ之ヲ他ニ利用スルト共ニ其ノ関係者ハ時局ニ即応シテ之ガ活用ヲ図ル
八、重点輸送ノ強化
旅行ヲ徹底的ニ制限シ、線路ノ転用ヲ強化シ、以テ戦力増強並ニ防空疎開ニ必要ナル輸送ヲ強化ス
九、海運力ノ刷新強化
海運行政ノ刷新強化ヲ行フト共ニ船舶建造ノ急速増加ト船舶運航効率ノ画期的向上トヲ図リ以テ海運力ノ徹底的増強ヲ図ル
一〇、平時的又ハ長期計画的事務及事業ノ停止
官庁、公共団体其ノ他ノ標記事務及事業ハ差当リ一年間ハ全部之ヲ停止シ又ハ保存ニ必要ナル最少限度ノ範囲ニ縮少シ、其ノ職員ハ他ノ緊要事務ニ之ヲ充当ス
尚右ニ即応シ原則トシテ差当リ一年間官庁新規営繕工事ハ之ヲ休止シ又諮問的委員会ノ停止等ヲ行フモノトス
一一、中央監督事務ノ地方委任
中央各官庁ノ許認可等監督的事務ハ差当リ一年間原則トシテ総テ之ヲ夫々ノ地方官庁又ハ官吏ニ委任シ、要スレバ予メ大綱ヲ準則的ニ指示シ又ハ事後報告ヲ徴スルモノトス
一二、裁判検察ノ迅速化
裁判検察ノ迅速化ヲ徹底シ特ニ時局犯罪ニ対スル迅速処理ノ方途ヲ講ズ
一三、保有物資ノ積極的活用
広ク官公署、会社、家庭等ニ於ケル保有物資ノ積極的ナル活用供出ヲ図ル(之ガ為例ヘバ各官公署、会社等ニ於ケル物資ノ保存年限等ヲ極度ニ短縮ス)
一四、信賞必罰ノ徹底ト査察ノ強化
官吏、公務員其ノ他時局産業関係者等ニ付信賞必罰ヲ敏活徹底的ニ行フト共ニ行政ノ全般ニ亘リ強力ナル査察ヲ実施ス
一五、国民運動ノ展開
皇国隆替ノ岐路ニ際シ挙国必勝ノ信念ニ徹底シ国民総動員体制ヲ強化シ真ニ其ノ総力ヲ竭シテ戦力増強、食糧増産等夫々ノ職域ニ邁進スルト共ニ時局突破ノ為国民生活ヲ徹底的ニ簡素化シ凡ユル忍耐ヲ覚悟スルノ真摯熱烈ナル国民運動ヲ展開ス
一六、国民指導啓発
時局ノ真相ヲ国民特ニ指導階級ニ大胆率直ニ周知セシメ、之ガ奮起ヲ図ルト共ニ徹底セル敵愾心昂揚ノ方途ヲ講ズ
一七、官庁休日ヲ縮減シ常時執務ノ態勢ヲ確立ス