昭和20年度第1四半期物動実施計画要旨
閣議決定年
昭和20年4月20日 閣議決定
収載資料:国家総動員史 資料編 第2 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.1132-1159 当館請求記号:AZ-668-5
方針
戦局ノ現状ト今後ノ推移ヲ尠考シ食糧不足補填ノ為満洲糧穀類並大陸塩ノ取得ニ対シ最優先配船スルト共ニ敵ノ本土上陸ニ備ヘ最少限ノ戦備ヲ整フル為一部ノ軍需生産ヲ続行セントス
之ガ為主要主食糧等ノ配給ヲ若干規正スルト共ニ重要産業ハ概ネ前期ノ五割程度ニ稼働セシム
要領
一、海陸輸送力ノ配分
配船ニ関シテハ三月末現有船□造船計□□局判断ニ基ク月間損耗率二八%並稼行率一・三ヲ基礎トシテ算出セラレタル輸送力二六七万瓲(C船ニ準スルモノヲ含ム)ヲ三月十六日最高指導会議ノ決定ニ則リ附表第一ノ如ク配分ス
機帆船ニ関シテハ一五六万瓲ト算定セラレタル処所要燃料充足ノ見透ヨリ若干低下スル虞アルモ極力在庫動員ニヨリ之ヲ補填スルコトトシ附表第一ノ如ク主トシテ石炭輸送ニ充当ス
鉄道輸送力ニ関シテ総輸送力ヲ四、一〇〇万瓲ト判定シ 隘路区間ノ輸送力区分ヲ附表第一ノ如ク定ム
尚C船ニ関シテハ未タ損耗比較的大ナラサル現状ニ鑑ミ別途消耗七%ノ場合ノ輸送力ヲ算出シ之カ物資別配分ヲ行ヒ極力船腹ノ最大活用ヲ図リ増送分ハ増強供給力トナスモノトス
二、物資別配船方針
イ 食糧 都道府県一般配給用ニ関シテハ現行配給基準ヲ維持シ大豆国有用途及肥飼料並軍需ノ人馬糧(内容ニ付テハ尚検討ヲ要ス)ヲ充足シ且酒精原料用ヲ加算シハ四月以降端境期迄ノ要輸入量ハ二四〇万屯ナル処主トシテ大陸側ノ出荷能力、荷役力等ヲ考慮シ輸入総量ヲ一六二万屯第一、四半期一〇七万屯ト決定セラレタリ 之カ為一般配給軍需常□補給用ニ関シテハ第二、四半期ヨリ一割規正、味噌、醤油肥飼料ニ関シテハ五割規正軍需集積用馬糧等ニ関シテハ三割規正ヲ行フヲ要スル状況ナリ
但シ最近ニ於ケル輸入状況ハ配船ニ関シテハ相当ノ余裕ヲ保持セシメアルニ拘ラス計画ニ対シ相当低下シアリ今後戦局ノ推移ニ依リテハ各般ノ困難更ニ加重スヘク特ニ第二、四半期以降ノ輸入ハ至難ナル見透ナリ仍ツテ国内ニ於ケル増産対策並配給調整ニ関シテハ真ニ強力ナル施策ヲ必要トスルモノト認メラル
ロ 塩 食糧塩ノ需要ハ相当圧縮スルモ七五万屯程度ニシテ又自給製塩ハ画期的ニ増強スルモ一〇万屯ヲ出サルヘク結局年間約三〇万屯ヲ輸入ニ仰クヲ要スル状況ナルヲ以テ第一、四半期ニ於テ二〇万屯ノ輸入ヲ確保スルコトトセリ
工業塩ニ関シテハ従来一、四半期分トシテ約二〇万屯ヲ必要トシ専ラ輸入ニ依存シアルヲ以テ今期ニ於テハ二五万屯輸入シ其ノ内相当量ヲ翌期ニ繰越スルコトトス若シ第二、四半期ノ輸入激減セハ曹達類ノ生産ハ殆ント期待シ難ク工業全般ニ致命的打撃ヲ与フルニ至ルヘキヲ以テ増産ニ関シテハ食糧ト共ニ真ニ徹底セル対策ヲ講スルノ要アリ
ハ 石炭ハ産業ノ原動力ナルヲ以テ食糧関係ヲ除キ優先確保スルコトトシC船七二万屯、機帆船一四二万屯ヲ配船スルモ本州地区配炭ハ
東部 二三六万屯(対四/一九 六四%)
西部 二五五万屯(対四/一九 六五%)
ニシテ鉄道運転用並戦局ニ鑑ミ特ニ重点ヲ指向スヘキ僅少ナル部門ヲ除キ産業一般ノ稼働率ハ前期ノ概ネ五〇%程度ナリ
又従来一、四半期五〇万屯前後輸入セシ大陸ノ強粘結炭、発生炉炭、無煙炭等ハ今期ヨリ密山炭六万屯ノミトナリ製鉄鋳物用コークス化学工業等ニ及ホス影響甚大ナリ
ニ 其他物資 爾余ノ配給ハ
銑鋼 一四・二万屯
礬土頁岩 九〃
非鉄金属鉱石類 一四・四〃
コークス類 五・五〃
紙パルプ 一 万屯(別ニ機帆船一万屯)
燐鉱石 一・五〃
計 四三・六〃
ニシテ鉄鉱石、木材等ノ海運ハ皆無トナル
三、配炭方針
(イ) 戦局ノ現状ニ鑑ミ現有素材半製品等ノ戦力化ニ配炭ヲ集中スルヲ基本方針トシ戦力化ニ長期ヲ要スル鉄鋼其ノ他ノ素材生産ハ之ヲ抑制スルノ止ム無キ状況ナリ
(ロ) 海上輸送力ノ逼迫ニ対処シ鉄道輸送力ニ関シテハ運転用炭不足ノ為輸送力ヲ拘束スルガ如キコト無カラシメンコトヲ期ス
(ハ) 化学製品ガ航空機生産ノ重大隘路ナルト共ニ火薬爆薬増産ノ緊急性ニ鑑ミ化学工業ニ優先配炭ス
(ニ) 液体燃料部門ノ配炭ハ優先セシム
(ホ) 国民生活関係軽工業ハ食糧品工業ヲ除キ之ヲ圧縮ス
四、液体燃料供給力並配当要領
(イ) 供給力 日満支液体燃料緊急確保対策ノ努力目標ハ一九六万竏ナリシ処設備増強用資材ノ不足ト原料輸送ノ不如意ニ依リ一五七万竏(製品換算一三六万竏)ヲ一応確保目標トセリ
第一、四半期供給力ハ現下ノ実情ヲ査□ノ上製品換算一九・六万竏ト定ム
(ロ) 之カ配分ハAB関係九・六万竏C関係(Dヲ含ム)一〇万竏ト概定セラル、液体燃料不足ニ依リ或ハ両軍ノ作戦ヲ制肘ルコトアルヘキハ深憂ニ耐ヘサル処ナルモ一面C関係ニ於テモ前回ノ約六割最低需要ノ三分ノ一ナリ
陸上小運送用普通揮発油ノ不足ニ対シテハ代燃化ヲ更ニ強力ニ促進スルト共ニ潤滑油ノ確保ヲ図ル要アリ
機帆船用B重油ノ不足ト之ガ対策ハ既述ノ通ナルモ石炭焚曳船ノ製造ト代燃化ニハ大イニ努力スルヲ要ス
農林水関係ニ於テハ灌漑排水並脱穀調整ノ電化ヲ急速ニ推進スルト共ニ漁獲ノ減少ハ之ヲ忍ハサルヘカラズ
五、重要物資供給力
(イ) 航空機生産ニ関シテハ所要原材料配当ノ均衡保持ニハ特ニ留意セルモ既定上期生産目標ニ対シ月産約六〇%程度トナル見込ナリ
重点機械生産設備ノ疎開並地下施設ハ資材配当ヨリ見テ若干遅延若ハ規模縮少ノ止ムナキニ至ル
(ロ) 鉄鋼生産
普通鋼材 二五万屯(対四/一九 四四%)
特殊鋼鋼材 一七万屯(対四/一九 七〇%)
ニシテ航空機生産確保ノ為特殊鋼ニ重点ヲ指向ス
主要製鉄所八幡、□西ハ概ネ前期程度ニ稼働セシメ得ルモ釜石、日本鋼管、広畑ハ骸炭炉及高炉ノ約三分ノ二ハ休止スルニ至ル 尚在鮮兼二浦及清津両製鉄所ノ原料炭確保ハ目下ノ処見込□ナルモ大陸自活ノ方針ニ基キ鞍山、本溪湖トノ操業調整ヲ図ラシメントス
(ハ) アルミニウムノ生産ハ主トシテ礬土頁岩ヲ原料トシテ内鮮合シテ九千屯ナリ別ニ満洲ノ対日供給、貨幣其ノ他ノ回収品ハ約七千屯ニ スル見込ニシテ 供給力ハ一万六千屯ナリ
第二、四半期以降ノアルミニウム生産ハ最早礬土頁岩ニ依存スルヲ許サザル状況ニシテ明礬石等内地原料ニ転換スルヲ要スルモ副原料タル曹達類ノ需給ニ□関シ不安アリ之カ打開ハ急務ト認ム
(二)化学製品 アンモニヤノ増強ハ火薬爆薬並肥料増産ノ基礎ニシテ特ニ重視セルモ配炭並設備補修資材等ノ関係ニ依リ之カ具現不十分ナルハ遺憾ナリ重要品目ニ関スル前期トノ比率左ノ如シ
アンモニヤ 六五%
硝酸 六五%
爆薬原料 六〇%
硫安 六〇%
石灰窒素(対一/一九) 三〇%
六 配当
航空機生産用資材ノ確保ヲ第一優先トスルト共ニ戦局ノ現段階ニ鑑ミ軍需ノ充足ノ為ニハ前期ニ比シ一層C部門ヲ圧縮ス
C部門ニ於テハ敵ノ本土上陸企図ニ対処シ鉄道並小運送用資材ヲ優先確保シ作戦中ノ反撃機動力ノ発揮ニ遺憾ナキヲ期スルニ努メタリ
爾余ノC部門ノ配当ハ徹底的ニ圧縮セサルヲ得ス普通鋼々材ノ配当内訳並ニ各部門ニ及ホス影響等ノ枢要附表第二ノ如ク従来ノ閣議、次官会議等決定ニ基クC関係重要施策ハ僅少部分ヲ具現シ得ルニ過キサル状況ナリ(附表第三参照)
空襲ノ激化ニ伴ヒ戦災工場中復旧ヲ要スルモノヲ生スル見込ナルモC関係ニ於テハ之カ所要資材捻出ノ余地ナク全般ニ亘ル配当調整ヲ必要トスルコトアルヲ予期ス
七 物動計画ノ地方移譲
戦局ノ苛烈化ニ伴フ交通通信力ノ低下ト現地調整ヲ要スル事項ノ増加ニ勘ヘ中央物動計画ノ内容ヲ勉メテ簡素化シテ中央ニ於テハ内外地全般ヲ通スル統制運用事項ノ大綱ニ関シ基準ヲ設定スルヲ主眼トシ現地ノ実情ニ即応スル実施上ノ調整ハ挙ケテ軍需監理部等ニ逐次移譲セントス
(附表省略)