戦災地復興計画基本方針

昭和20年12月30日 閣議決定

収載資料:戦災復興誌 第3巻 建設省編 都市計画協会 1958 pp.1-4 当館請求記号:318.2-Ke119s

今次ノ戦災ハ被害殆ンド全国ニ跨リ都市、聚落ヲ通ジ其ノ焼失区域ハ1億6干万坪ニ及ブ、之ニ対スル復興計画ハ産業ノ立地、都市農村ノ人口配分等ニ関スル合理的方策ニ依リ過大都市ノ抑制並ニ地方中小都市ノ振興ヲ図ルヲ目途トシ各都市又ハ聚落ノ性格ト其ノ将来ノ発展ニ即応シテ樹立セラルベク計画ニ属スル事業ハ永年長期ニ亘リ継続シテ施行スルノ外ナキモ之ガ基礎トナルベキ土地整理事業ハ性質上出来得ル限リ急速ニ之ヲ実施スベキモノトス
1、復興計画区域
戦災地ノ復興計画ヲ実施スル区域ハ都市又ハ聚落ノ相当部分ニ損害ヲ蒙リタル戦災地ノ主要罹災地域及之ト関連スル地域トス
2、復興計画ノ目標
戦災地ノ復興計画ニ於テハ産業ノ立地、人口ノ配分等ニ関スル方策ニ依リ規定セラルル都市聚落ノ性格ト規模トヲ基礎トシ都市聚落ノ能率、保健及防災ヲ主眼トシテ決定セラルベク兼ネテ国民生活ノ向上ト地方的美観ノ発揚ヲ企図シ地方ノ気候、風土慣習等ニ即応セル特色アル都市聚落ヲ建設センコトヲ目標トス
3、土地利用計画
(1) 都市、聚落ノ能率、保健及防災ニ対スル充分ナル考慮ノ下ニ工業、商業其ノ他ノ業務及住居ニ充テラルベキ土地ノ配分ヲ計画的ニ決定スルコト
(2) 土地利用ニ関スル計画ノ実現ヲ確保スル為地域及地区ニ関シテハ出来得ル限リ精密ニ指定シ且特ニ其ノ専用制ヲ高度化スルコト
(3) 特殊ノ目的ノ為ニ設ケラルル地区ニシテ其ノ従来ノ配置ガ不適当ナルモノハ此ノ際之ガ変更、合併ヲ行ウコト
(4) 官公衙、学校、停車場、郵便、電信電話局舎、市場、墓地其ノ他都市聚落構成上ノ主要営造物ニ付テハ適正ナル配置ヲ為スト共ニ罹災ノ施設又ハ営造物ニシテ共ノ位置ヲ変更スルヲ適当トスルモノハ之ヲ他ニ移転セシムルコト
4、主要施設
(1) 街路
イ、街路網ハ都市聚落ノ性格、規模並ニ土地利用計画ニ即応シ之ヲ構成スルト共ニ街路ノ構想ニ於テハ将来ノ自動車交通及建築ノ様式、規模ニ適応セシムルコトヲ期シ兼ネテ防災、保健及美観ニ資スルコト
ロ、主要幹線街路ノ幅員ハ中小都市ニ於テ36米以上、大都市ニ於テハ50米以上、其ノ他ノ幹線街路ハ中小都市ニ於テハ25米以上、大都市ニ於テハ36米以上、補助幹線街路ハ15米以上トシ止ムヲ得ザル場合ト雖モ8米ヲ下ラズ区画街路ハ6米以上トスルコト
ハ、必要ノ個所ニハ幅員50米乃至100米ノ広路又ハ広場ヲ配置シ利用上防災及美観ノ構成ヲ兼ネシムルコト
ニ、地下鉄道、軌道、乗合自動車等ノ整備ヲ予想セラルル場合ニ於テハ街路ハ之ニ即応スル系統幅員ヲ有セシムルコト
(2) 緑地
イ、公園運動場、公園道路其ノ他ノ緑地ハ都市、聚落ノ性格及土地利用計画ニ応ジ系統的ニ配置セラルルコト
ロ、緑地ノ総面積ハ市街地面積ノ10%以上ヲ目途トシテ整備セラルルコト
ハ、必要ニ応ジ市街外周ニ於ケル農地、山林、原野、河川等空地ノ保存ヲ図ル為緑地帯ヲ指定シ其ノ他ノ緑地ト相俟ツテ市街地ヘノ楔入ヲ図ルコト
(3) 港湾、運河、飛行場
将来ノ産業ノ立地及地方ノ発展ヲ予想シ之ニ相応スル鉄道、軌道、港湾及ビ運河ヲ整備スルト共ニ主要ナル都市ニ於テハ飛行場、軌道、地下鉄道等ヲ計画スルコト
(4) 其ノ他
市街地ノ整備ニ伴イ電線等ハ原則トシテ之ヲ地下ニ移設シ必要ナル水道、下水道ノ改良新設ヲ行イ水利施設ノ拡充ヲ期スルノ外必要ニ応ジ塵芥及汚物ノ処理場、火葬場、屠場等ヲ整備シ主要都市ニ於テハ蔬菜、鮮魚介等ノ市場ノ整備ヲ図ルコト
5、土地整理
(1) 街路公園其ノ他ノ公共用地等ノ提供及市街地ノ利用増進ヲ目的トシテ罹災区域ノ全体ニ亘リ急速ニ土地整備ヲ実施スルコト
(2) 土地整理ノ方法ハ土地区画整理又ハ買収ニ依ルコトトシ必要ニ応ジテ地券ノ発行等ノ方法ヲ考慮スルコ卜
(3) 土地区画整理ニ於テハ名勝地、旧蹟地、古墳墓地等ヲ除クノ外関係土地ノ全部ヲ整理施行地区ニ編入スルコト
(4) 移転スベキ罹災ノ施設又ハ営造物ノ跡地、兵舎其ノ他軍用地跡地ハ官公衙、街路、公園其ノ他公共用地ニ充ツルモノノ外之ヲ市街宅地卜為スコト
(5) 土地区画整理施行ノ結果宅地面積ノ減少スルモノニ対シテハ其ノ減少ノ一部ハ之ヲ無償ヲ以テ提供セシムルコト
(6) 市街地ノ密住ヲ避ケ、堅牢建築物ノ建築ヲ促進スル為土地区画整理ニ於テハ過小画地ノ整理ヲ行ウコトトシ整理ノ施行ヲ容易ナラシムル為必要ニ応ジ小ナル敷地ニ対シテハ地積ヲ増シテ換地ヲ交付シ特ニ大ナル敷地ニ付テハ其ノ減歩ヲ大ナラシムルコト
(7) 土地区画整理ノ施行ヲ容易ナラシムル為公共団体代行機関等ヲシテ住宅敷地造成事業ヲ経営セシムルコト
6、疎開跡地ニ対スル措置
(1) 土地区画整理施行区域内ノ建物疎開跡地ニシテ公共団体ニ於テ未ダ買収シアラザルモノニ付テハ区画整理事業ノ施行ヲ容易ナラシムル為関係公共団体ヲシテ之ヲ買収セシムルコト
(2) 建物疎開跡地ニシテ区画整理施行区域外ニアルモノ及戦災地ニ非ザル都市ニアルモノハ都市計画上必要アルモノニ限リ関係公共団体ヲシテ之ヲ買収セシメ其ノ経費ニ付テハ国庫ヨリ補助金ヲ交付スルコト
7、建築
(1) 市街地ノ不燃、保健及防災ヲ強化シ戦災地ニ関スル復興計画ニ即応シテ市街地建築物ノ構造設備ニ関スル監督ヲ強化シ併セテ之ガ指導ヲ行ウコト
(2) 都心部及防火帯ニ属スル地区ニ於テハ堅牢建築物以外ノ建築物ヲ禁止スルコト
(3) 其ノ他ノ地区ニ於テモ堅牢建築物以外ノ建築物ハ其ノ配置及構造ニ関スル条件ヲ厳格ニシ出来得ル限リ之ガ耐火性ヲ高ムルコト
(4) 建築物敷地内ノ空地ヲ確保スル為建蔽率ニ関スル制限ヲ強化スルコト
(5) 堅牢建築物ノ建築ヲ促進スル為之ガ有効ナル助成ノ方途ヲ講ズルト共ニ堅牢建築物ノ建築上ノ必要ニ基ク同一街廓内ノ土地ノ収用ノ制度ヲ設クルコト
8、事業ノ執行
復興計画ハ政府ニ於テ計画ヲ統制シ其ノ立案ニ当リテハ出来得ル限リ地方ノ創意ヲ反映助長セシムルヲ主眼トシ之ニ基キテ施行スベキ事業ハ成ルベク市町村長(東京都ノ区ノ存スル区域ニ付テハ東京都長官)ヲシテ之ヲ執行セシメ市町村長ニ於テ執行スルコト困難ナルモノハ府県知事ヲシテ執行セシムルコト
9、復興計画事業費
(1) 復興計画事業ノ費用ハ公共団体ノ負担トスルモ公共団体ノ財政ニ於テ負担ニ堪エザル部分ニ付テハ国庫ヨリ補助スルコト
(2) 公共団体ニ於テ負担スル費用ニ付テハ其ノ一部ヲ罹災区域外ノ住民ヲシテ負担セシムルコトヲ得ルコト
(3) 公共団体ノ負担スル費用ニ充テシムル為政府ハ低利資金ノ融通ヲナシ且其ノ利子等ノ補給ヲ為スコト