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経済危機緊急対策実施要綱

昭和21年1月26日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.44-45 当館請求記号:DG15-19

食糧並ニ金融緊急措置ヲ中心トスル今次一連ノ施策ハ之ヲ以テ当面ノ危機ヲ克服スルニ止マラズ国民ノ勤労意欲ヲ振起セシメ生産流通ノ積極的振興卜国民生活ノ安定トヲ確保シ以テ新シキ日本国民経済ノ発足点タラシムルコトヲ目的トスルモノトス従ツテ之ガ実施ニ伴フ諸問題ニ対シテハ確固タル決意ノ下ニ所要ノ対策ヲ機動的ニ断行シ所期ノ効果ヲ収ムルニ遺憾ナカラシムルモノトス

一、就業対策及援護措置
(一)具体的就業計画ヲ確定シ直ニ必要ナル措置ヲ実施シ以テ国民ノ生活不安ヲ避クルト共ニ国民皆働体制ヘノ転換ヲ図ルコト
(二)已ムヲ得ザル生活困難者ニ対スル援護措置ヲ具体化スルコト
(三)以上ノ趣旨ヲ力強ク声明シ国民ニ徹底セシムルコト
二、生産及出回対策
(一)既定ノ食糧対策ヲ可急的速ニ実施シ国民ニ対シ政府ノ決意ヲ示スト共ニ食糧供給ノ見透ニ付或ル程度ノ安心感ヲ与フル如ク声明スルコト
(二)工鉱業生産再建ニ関スル具体的見透及計画(特ニ今後六ケ月位ノ期間ニ付)ヲ速ニ決定実施ニ入ルモノトシ其ノ趣旨ヲ今次対策ノ一環トシテ公表シ以テ将来ニ対スル希望ト確信トヲ国民ニ与フルコト
(三)今次対策ノ一環トシテ食糧輸入取極ノ具体化近キコトヲ或ル程度表明シ得ルヤウ連合国軍総司令部ニ懇請スルコト
(四)生鮮食糧品ノ生産及出回増進ニ関スル措置ヲ更ニ徹底スルコトトシ特ニ燃油ノ輸入増加ヲ今次対策ノ一環トシテ連合国軍総司令部ニ懇請スルコト
(五)肥料、農機具、綿製品、家庭薬等ノ農家ニ対スル供給ヲ積極且確実ニ実行シ特ニ供出ヘノ見返ヲ重視スルコト
(六)石炭ノ配給ニ当リテハ当分ノ間最優先順位ヲ以テ之ヲ肥料生産ニ振向クルコト
(七)倉庫検査ヲ可急的速ニ実行シ食糧及燃油ノ外重要生必物資、農業用物資等ニ付テモ強制買上ヲ実行スルコト
(八)金融緊急措置発動時ノ応急対策トシテ生鮮食糧品、罐詰等ノ家庭配給ヲ実行スルコト
(九)米ノ供出代金ノ支払ハ新券ニ依ルコトトシ既供出分ニ付テモ同様ニ取扱フコト
(十)正常ナル企業金融ニ付テハ金融緊急措置ノ運用上充分配意スルト共ニ尚特段ノ措置ヲ考慮スルコトトシ以テ何等不安ナカラシムル旨ヲ声明徹底スルコト
三、物価対策
(一)今次対策ノ目指ス価格賃金基準並ニ之ガ維持ノ為ノ価格統制方式ノ大綱ヲ同時ニ決定シ,速ニ之ヲ実施ニ移スコト
(二)米価ノ引上ヲ物価対策ノ一環トシテ実施スル場合ニ於テハ既供出分ニ対シテモ之ヲ適用スル旨ヲ声明スルト共ニ先ニ決定セル金納小作料ノ金額ハ之ヲ改訂スルコト
(三)各省ノ所管ニ属スル賃金ノ改訂ニ付テハ予メ厚生省及大蔵省卜緊密ナル連絡ヲ遂ゲ其ノ統一ヲ図ルコト
四、金融対策
(一)今次対策ノ趣旨ヲ国民ニ遺憾ナク徹底セシムルト共ニ金融緊急措置ノ運用上ニ於テモ其ノ趣旨ヲ充分配意スルコト
(二)封鎖期間ノ長短ニ付テハ経済的社会的影響ヲ考慮ノ上当初ヨリ之ヲ確定公表スルコトトシ概ネ七、八月頃迄ヲ目途トスルコト
(三)新券トノ引換ノ時期ハ之ヲ可急的繰上グルヤウ努力スルコト
(四)金融緊急措置ノ運用ニ当リテハ正常ナル生活資金、企業資金、選挙費用、療養、教育資金等ニ付不安ナカラシムルヤウ取扱ヒ尚引揚邦人及戦災者ニ付テハ特別ノ考慮ヲ払フコト
(五)旧券預入期間ハ僻地ニ付テハ適宜之ガ延長ヲ認ムルコト
(六)金融緊急措置ノ発動当初ニ於テ運転資金払出ノ停止スルガ如キコトナキヤウ特ニ配意スルコト
五、発表並ニ民間協力ノ確保
(一)今次対策ノ意義ニ顧ミ之ガ発表並ニ民間協力確保等ノ事項ニ付テハ内閣総理大臣陣頭ニ立チ関係大臣ノ談話其ノ他ノ方法ヲ並行且同時ニ行フコト
(二)政党、言論機関等ノ協力確保ニ関シテハ主トシテ内閣書記官長中心トナリ各省ト協カシテ特段ノ努カヲ為スコト
(付記)
連合国軍総司令部ヘノ説明ニ当リテハ本要綱ノ趣旨ニ依リ之ヲ為シ政府ノ真摯且真剣ナル決意ト理解ヲ得ルニ努ムルト共ニ能フ限リ今次対策ニ関シ同司令部ノ支持的態度ヲ期待シ得ルヤウ懇請スルコト