民需生産再開ノ為ノ企業経理対策要綱
閣議決定年
昭和21年2月26日 閣議了解
収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.624-625 当館請求記号:DG15-19
民需生産ノ再開ハ我国当面ノ最大要務ノ一ナル処之ヲ促進スル為ニハ民需生産ノ再開ヲ阻害シ居ル各般ノ原因ヲ除却スル為各分野ニ亘ル総合的対策ヲ講ズルノ要アリ、其ノ諸対策ノ一環トシテ企業ノ経理ニ関シ左記ノ措置ヲ講ズルモノトス
記
一、資金面ニ関スル措置
(1)復興金融機構ノ創設
産業界及金融界ノ双方ニ各種ノ不安定ナル要素ガ存スル結果民生産業復興ノ為ノ資金ニシテ公衆ノ利益ノ為ニハ是非トモ必要ナルニ拘ラズ普通ノ金融機関ガ通常ノ融資トシテ金融スルコト困難ナルガ如キ事例多キ実情ニ鑑ミ経済界ノ不安定ナル暫定的期間ニ於テ専ラ斯カル場合ノ資金供給ヲ担当スベキ復興金融ノ機構ヲ創設ス、之ガ為
(イ)来ルベキ特別議会ノ協賛ヲ経テ復興金融会社法(仮称)ヲ制定シ之ニ基キ特別ノ金融機関(復興金融会社ト仮称ス)ヲ設立ス
(ロ)右復興金融会社ノ設立ニ到ル迄ノ経過的期間ニ於テハ復興金融会社設立後之ニ肩替リスルコトヲ条件トシテ現在ノ日本興業銀行ヲシテ別勘定ヲ設ケシメ復興金融ノ業務ヲ行ハシム
右復興金融ニ要スル資金ハ政府保証付興業憤券ノ発行ニ依リ之ヲ調達ス
(ハ)右復興金融ノ運営ヲ適正ナラシムル為官民ヨリ成ル復興金融委員会ヲ設置ス
(ニ)右ノ仕組ノ設定ニ伴ヒ現在ノ強制融資ノ制度ハ之ヲ廃止ス、但シ右ノ如キ復興金融ノ機構創設ニ到ル迄ノ経過的期間ニ於テハ連合軍ノ承認ヲ得テ強制融資ノ制度実情ニ即シ運営ス
(2)金融機関ノ資金融通ノ抑制
前項ノ復興金融機構ノ創設ニ依リ民生産業復興ニ必要ナル資金ニ付テハ其ノ円滑ナル供給ヲ図ル一方金融緊急措置令ノ運用其ノ他ニ依リ思惑、買溜、闇取引等ノ資金ノ融通ハ厳重ニ之ヲ抑制ス、殊ニ将来ノ貨幣価値ノ低落ヲ見越シ此ノ際出来得ル限リ借入金ニ依存セントスルガ如キ傾向ニ対シテハ厳重ニ之ヲ抑制スルト共ニ遊休隠退蔵物資ノ活用方策ト照応シ資金融通ノ面ヨリ強力ニ之ヲ支援ス
(3)軍需融資ノ処理及企業ノ補償
金融界ニ於ケル軍需融資ノ処理ハ産業界ニ於ケル軍需企業ノ損失補償及賠償ニ対スル補償ノ問題ト不可分ノ関係ヲ有スルヲ以テ産業界ニ於ケル損失額ヲ速カニ調査決定シタル上其ノ損失ヲ産業界、金融界及国家ノ三者ニ於テ公平ニ負担スルノ原則ノ下ニ軍需融資ノ処理及企業ノ補償ヲ実行ス
軍需融資ノ処理ニ付テハ軍需融資ノ肩替リヲ為スガ如キ特別ノ処理機関ノ設置ヲ要スル場合モアリ得ベキモ差当リノ処置トシテハ各金融機関ニ於テ特別勘定ヲ設ケテ之ヲ整理セシムルコトトシ各金融機関ノ軍需融資ノ処理ニ付テハ産業界ニ対スル政策トモ睨合セテ統一的方針ニ依ラシムルモノトス、尚之ガ為適当ナル委員会ヲ設置ス
(4)過剰購買力ノ活用
主トシテ過去ノ蓄積ニ基ク尨大ナル過剰購買力ノ食糧其ノ他ノ生活必需物資ヘノ集中ニ依ル価格ノ暴騰ニ対シテハ今般実施セル通貨、食糧、物資等ニ関スル一連ノ施策ヲ強力ニ推進シ「インフレーション」ノ昂進ヲ抑圧スルト共ニ進ンデ之ヲ民生産業復興ノ為ノ必要ナル資金トシテ動員活用ス
二、経理面ニ関スル措置
企業ガ終戦後不要トナリ又ハ賠償ノ対象トナリタル軍需生産ノ設備其ノ他政府ノ損失補償、戦争保険金、損失ノ繰延等ノ不安定資産及未整理借入金ヲ多額ニ有スル為民需生産ニ使用シ得ル設備資材等ヲモ有スルニ拘ラズ新ナル民需生産ヲ開始シ得ザル事例多キ実情ニ鑑ミ其ノ民需転換可能ノ設備費材等ヲ必要ナル人員ト共ニ適当ナル方法ニ依リ現在ノ企業経理ヨリ分離シ新会社ヲ設立シテ之ガ経営ニ当ラシムル措置ヲ講ジ速カニ生産ヲ開始セシムルヲ適当トス右措置ノ実施ニ当リテハ物価政策等ノ適正ナル運営ヲ期シ金融ニ付テモ亦普通ノ金融機関ヨリ通常ノ金融ヲ行ハシムルモノトス
新会社ノ分離ニ依リ不要トナレル設備等ノミヲ保有スルコトトナル旧会社ハ最少限度ノ人員ヲ以テ政府補償金ノ受入、負債ノ整理等ノ整理事務ヲ行ヒ清算ニ入ルモノトス
尚新会社ノ設立其ノ他民需産業ノ再開並ニ軍需企業等ノ整理ヲ円滑ナラシムル為商法等ノ特例ヲ設クル等ノ法制的措置ヲ講ズルモノトス
三、統制法令ニ関スル措置
現在産業資金ノ調整ヲ規定セル臨時資金調整法、会社経理統制令、銀行等資金運用令、軍需金融等特別措置法、企業整備費金措置法等ノ法令ヲ整理統合シ来ルベキ特別議会ノ協賛ヲ経テ産業資金法(仮称)ヲ制定シ「インフレーション」防止ノ為ノ資金統制ノ強化其ノ他前各項ノ措置ノ実行ニ必要ナル法律的根拠ヲ規定ス