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公共事業実施に関する件

昭和21年7月9日 閣議決定

収載資料:林道事業のあゆみ 日本林道協会 1964 pp.351-353 当館請求記号:AZ-431-102

今回の六十億の公共事業は深刻なる失業問題に対する唯一の施策であり、従って厚生省としては本公共事業の成否に対し、重大なる関心を持たざるを得ないわけであります。そこで私は本公共事業の実施について、各大臣に次の諸点につき了解を求むる次第であります。

第一 は公共事業計画の策定についてでありますが、唯今申しましたような意味に於て、本公共事業はあくまでも失業対策としての政府の重要施策であるという根本精神を貫徹して頂きたいといふのであります。従って其の事業の策定に当っては事業自体の重要性と云ふことよりは出来得る限り多数の失業者を有効に活用するといふ点に重点をおき、この趣旨に沿はないもの例へば土地、資材等の過大なる費用は本公共事業計画に計上しないことにして頂きたいと思ふのであります。

第二 は公共事業の実施地域の問題であります。公共事業の実施地域の選定に当っては、失業者の地域的分布状況を斟酌して、多数の失業者を擁してゐる地域に於て之が失業者を出来るだけ多数吸収するが如く実施することが必要であるわけであります。折角公共事業を実施しても、失業者の吸収に余り効果のない地域に於てのみ行はれるというのでは、結局失業対策としての効果は余りあがらないということになるのであります。

第三 は使用労務者の問題であります。公共事業の使用労務者数を算定する場合も、唯莫然と何万人の労務者を使用するということでなく、其の地域に於ける失業者数と十分、にらみあわせて使用労務者数のうち何割程度完全なる失業者を活用することが出来るかというある程度の概数を具体的に出して頂きたいのであります。

第四 は公共事業の実施主体の問題であります。御承知のように従来我国に於ける各種公共事業は、大小の土建業者のリレー式請負制度により実施されておるのが多いのであります。これは余り面白くない点もありますので、将来に於ける我国土建事業の近代的合理化より申しましても、亦失業対策としての実効を確保する点より申しましても、この際順次矯正しなければならない問題であります。この意味に於て本公共事業の実施主体は、現在既に行はれているものは別といたしまして、将来に於ては差支なき限り国又は地方公共団体の直営によることにして参りたいと思ふのであります。

第五 に公共事業の使用労務者は、原則として勤労署の職業紹介によることとし、特に勤労署に求職の申込をなしたる者又は失業登録をしたる失業者を優先的に使用するという建前をとることにいたしたいのであります。これは失業対策としての実効を確保する為めには、是非とも必要なことでありますので、この趣旨を各地方の末端機関にまで徹底して、地元の勤労署と密接なる連絡をとるように指導して頂きたいのであります。勿論厚生省としてはこれらの紹介斡旋については勤労署を相当強化し徹底的に指導監督して、各事業の実施に故障のないように万遺憾なきを期する所存で現に各般の準備をすすめて居る次第であります。

第六 以上は各省に於て実施される公共事業についての要望を申述べましたが、最後に各省の計画的事業の進捗状況よりして速急に吸収されない失業者又は各省の計画的事業を以てしても尚之に吸収されない、いはば落ちこぼれ的な失業者の発生することは必至と考へられるのでありまして之をどうするかという問題があるのであります。これら計画事業の網の目から洩れた失業者と雖も苟も勤労の意思を有するものは固よりのこと勤労の意思を有せざる者に対しても、勤労の意欲を昂揚せしめて勤労の機会を与へる措置を講ずることは必要なことでありますので、之に対しては次の二つのことを考へて居る次第であります。
(其の一)は簡易ないはば機動的な公共事業の実施であります。
現に大都市の勤労署に於ては、毎日相当な日傭的労務者のあぶれがみられるのでありまして、勤労署の窓口にあらはれるその時々の失業状況と、にらみ合せて臨機応変に簡易な事業に従事せしめて、これらあぶれ失業者を活用する公共事業の計画を持つことが必要であらうと思はれるのであります。この為に一定の予算を計上して参りたいと思ふのであります。
(其の二)は職業補導及授産内職施設の拡充であります。これらの事業は夫々既定予算の下に実施中でありますが、何分その数が少いのでありまして、現下の尨大な失業者に対する施設としては、余りにも貧弱といはざるを得ない実状であります。そこで今回その範囲を拡張し、その数を増加し建築工の養成、見返り物資の生産、その他地方的特産物の生産は勿論のこと広く民需品を中心とする生産的職業補導及授産内職施設を拡充し独り地方団体直営のみならず、広く民間の経営をも認め之に対して相当の応援を為して行く積りであります。

第七 に今回実施せらるる公共事業は、その規模に於ても、失業対策としての意義に於ても、極めて画期的なものでありますので公共事業の実施状況を常時把握し、これが有効適切なる運営の促進と監査を行うことが極めて緊要と考へられますので、広く民間の協力をも求め公共事業施設推進本部という如き組織を設置して参りたいと考へて居る次第であります。

第八 最後に事業と労働力との調合を計るために労務者の配置、移動等の点に付ても目下具体案を考慮中でありますが、何分共唯今は戦時中に於ける強制動員の反動期にあるので困つておる次第であるが、或程度迄の組織化はどうしても必要であると考へております。
以上公共事業の実施に関する希望を色々申述べましたが、失業対策としての実効を収むる為に特段の各省の理解と協力を要望する次第であります。又本事業の遂行に付ては凡ゆる方面に於て議会人等の積極的な協力を期待するものであります。