税制改正に関する法律案要綱
閣議決定年
昭和21年7月10日 閣議決定
収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.1089-1093 当館請求記号:DG15-19
第一 方針
一 国庫収入の増加を図り、財政の強化に資するとともに、経済諸情勢等の推移に応じ、国民負担の公正を期し、徴税の簡素化を図る等のため、税制の改正を行ふこと。
二 直接税については、分類所得税の増徴に主眼を置き、特に資産所得に対して重課することとし、法人税をある程度増徴する外、地租、家屋税及び営業税をも相当増徴すること。
三 間接税中従量課税の酒税、清涼飲料税、砂糖消費税及び飴、サッカリン等に対する物品税については、最近における物価の情況に即応して課税する等のため、相当の増徴を行ふとともに、従価課税の織物消費税及び物品税についても、課税方法及び税率等を適当に改正すること。
四 最近における物価及び取引の状況にかへりみ、負担力に即応する課税を行ふ等のため、鉱区税、有価証券移転税、登録税、印紙税、骨牌税及び狩猟免許税を相当増徴すること。
五 税制をできるかぎり簡素化する等のため、配当利子特別税、外貨債特別税、建築税、特別行為税、電気瓦斯税及び広告税の課税を廃止し、なほ臨時利得税を廃止して法人の超過所得及び個人の譲渡所得に対し適当な課税を行ふ外、各種の減免税について、相当整理するとともに、賦課徴収の手続等をできるかぎり簡素適正ならしめること。
六 税制を最近における事態に即応せしめる等のため、必要な法令の廃止叉は改正を行ふこと。
第二 要領
一 所得税
(一)分類所得税
資産所得に対し重課することとし、税率を大体次のやうに改め、総税額において、二割五分程度の増徴を行ふこと。なお公社債及び預貯金の利子等に対しては、この際、課税を適正且つ簡素ならしめること。
不動産所得 百分の三十(現行百分の二十三)
配当利子所得 百分の三十(現行国債百分の十六
〃 利子百分の二十三
〃 配当百分の二十二)
事業所得 甲種及び乙種 百分の二十五(現行百分の二十一)
丙種 百分の二十(現行百分の十八)
勤労所得 百分の二十(現行百分の十八)
山林の所得、退職所得及び清算取引所得についても、相当税率の引き上げを行ふこと。
(二)総合所得税
(1)税率を大体次のやうに改めること。
一万円超百分の三十五乃至三十万円超百分の六十七(現行三千円超百分の八乃至五十万円超百分の七十四)
(2)源泉選択の税率を百分の四十五(現行百分の三十)程度に引き上げること。
(三)その他
(1)不動産等の譲渡所得に対して、分類所得税を課税し、財産税の調査期日以後に譲渡した分から適用することとし、譲渡利得に対する臨時利得税を廃止すること。
(2)配当の計算期間を暦年に改め、昭和二十二年分から、これを実施すること。
(3)総合所得税の課税について、公社債及び預金の利子等に対する三割控除を廃止し、看做配当及び払込金に充当した積立金による配当は、その十分の四を控除して総所得金額を計算することとし、いづれも昭和二十二年分から、これを実施すること。
(註)重要物産製造事業の免税等を相当整理すること。
二 法人税
(一)法人臨時利得税を廃止し、法人の各事業年度の所得を普通所得と超過所得とに区分し、大体左の程度の税率により課税すること。
(1)普通所得 百分の三十五(現行百分の三十三)
(2)超過所得
資本金額に対し八分を超え一割五分以下の金額
百分の三十
同一割五分を超え二割五分以下の金額
百分の四十
同二割五分を超える金額
百分の五十
小法人については、税率をそれぞれ百分の十程度軽減すること。
(二)法人の清算所得に対する税率を、大体次のやうに改めること。
(1)積立金又は法人税を課せられない金額から成る金額
百分の三十五(現行百分の二十六)
(2)その他の金 百分の五十(現行百分の四十八)
(三)各事業年度の資本に対する法人税が十円に満たないときは、これを十円(現行年十円)とすること。
(四)所得の計算上繰越欠損金額の控除を一年(現行三年)以内に改め、国債利子の七割控除を廃止し、又、資本金額の計算上繰越欠損金額を控除しないことに改めること。
(五)重要物産製造事業の免税は、普通所得に対する法人税に限り、これを行ふこと。
(註)政要物産製造事業の免税等を相当整理すること。
三 特別法人税
(一)各事業年度の剰余金に対する税率を、大体百分の二十五程度(現行百分の二十二)に引き上げ、清算制剰余金に対する税率についても相当程度引き上げる等の改正を行ふこと。
(二)特別法人税の課税を戦時中の臨時立法とする規定を削除すること。
四 臨時利得税
(一)法人臨時利得税を廃止して、これを法人税に統合すること。
(二)個人臨時利得税を廃止し、不動産等の譲渡所得に対しては、新たに分類所得税を課税すること。
(註)昭和二十一年分営業利得又は譲渡利得に対する臨時利得税は、これを課税すること。
五 相続税
(一)課税価格百万円以上の高額財産相続者に対する税率を相当程度引き上げること。
(二)課税最低限を引き上げ、家督相続については二万円程度(現行五千円)、遺産相続については三千円程度(現行千円)とするとともに、扶養家族控除額を三千円(現行千五百円)に引き上げる等の改正を行ふこと。
(三)年賦延納を許可する税額の限度を引き上げ、千円以上(現行三百円以上)とすること。
六 地租、家屋税及び営業税
税率を大体次のやうに改める等の改正を行ふこと。但し、家屋税については、昭和二十二年分から、これを実施すること。
地租 百分の四(現行百分の三)
家屋税 百分の三.五(現行百分の二.五)
業税 百分の二.五(現行百分の二)
七 鉱区税
面積千坪毎の税率を、採掘鉱区については二円程度(現行六十銭)、試掘鉱区については一円程度(現行三十銭)に引き上げ、砂鉱区についてもこれに準ずる税率の引き上げを行ふこと。
八 有価証券移転税
有価証券移転税の課税を復活し、税率適用区分を改め、有価証券仲買人を買受人とするもの万分の五程度、取引所の実物取引によるもの万分の十程度、その他万分の二十程度の税率により課税することとし、なほ課税範囲について適当な改正を行ふこと。
九 登録税
比例税率については、不動産の売買等に因る所有権の取得に対する税率を千分の五十程度(現行千分の四十)、会社の設立又は増資等に対する税率を千分の七程度(現行千分の六)に引き上げ、定額税率については大体二十割乃至三十割程度を引き上げる等の増徴を行ふこと。
十 酒税
清酒について一升壜詰の小売価格を一級酒四十円程度(現行二十三円)に、二級酒三十円程度(現行十五円)に、麦酒について大壜詰一本の小売価格を六円程度(現行三円)に引き上げる程度の増徴を行ふとともに、その他の酒類についても、品質に応じ税負担に差等を設けて、これに準ずる増徴を行ふこととし、総税額において十九割程度の増収を図ること。
十一 清涼飲料税
第二種サイダーの税率を一石について五百五十円(現行百六十円)に引き上げ、その他の清涼飲料についても同程度の税率引き上げを行ふこと。
十二 砂糖消費税
砂糖第二種乙(分蜜白糖)の税率を百斤について三百六十円(現行十七円五十銭)に引き上げ、その他の砂糖についても同程度の税率引き上げを行ひ、砂糖特別消費税は、これを廃止すること。
十三 織物消費税
織物に対する消費税と織物及び織物製品に対する物品税を統合し、税率を百分の四十とすること、但し、綿織物等に対する税率は百分の十程度とすること。
十四 物品税
(一)織物及び織物に対する物品税は織物消費税に統合し、その他の第一種の物品(小売課税)は、これを原則として製造課税に改め、製造課税をなすことが困難な愛玩用動物、花、はなわ等に対する課税は廃止すること。
(二)甲類物品に対する税率を百分の百(現行百分の百二十)に引き下げ、飴類、サッカリン及び蜂蜜に対しては、砂糖に準ずる程度の税率引き上げを行ふ等税率を改正すること。(なほヅルチンに対して課税すること。)
十五 遊興飲食税
定額課税の制度及びこれに伴ふ納税切符の制度を廃止すること。
十六 入場税
舞踏場に対して、第二種の場所として、新たに課税すること。
十七 骨牌税
一組について、麻雀百円(現行二十円)、その他の骨牌十円(現行三円)に引き上げる等の増徴を行ふこと。
十八 印紙税
印紙税の課税を復活し、税率を大体十割乃至二十割程度引き上げることとし、これに伴ひ免税点の引き上げ等を行ふこと。
十九 狩猟免許税
税率を、一等二百円(現行七十円)、二等百二十円(現行四十円)、三等五十円(現行十八円)程度に引き上げる等の改正を行ふこと。
二十 その他
(一)有価証券移転税、馬券税及び印紙税の課税を復活すること。
(二)配当利子特別税、外貨債特別税、建築税、特別行為税、電気瓦斯税及び広告税を廃止すること。
(註)戦時緊急措置法に基く税制の適正化に関する勅令を廃止すること。
(三)酒類業団体の民主化を図り官庁の監督事項を整理する等のため、酒類業団体法について必要な改正を行ふこと。
(四)終戦後における事態に即応させる等のため、次のやうに、法令の廃止又は改正を行ふこと。
(1)昭和十二年法律第九十四号(今次の戦争のため従軍した軍人及び軍属に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律)、日満国税徴収事務共助法、所得税法人税内外地関渉法、戦時災害国税減免法、昭和十七年法律第七十四号(所得税等の日満二重課税防止に関する法律)及び昭和十八年法律第七十二号(輸出物品に対する内国税免除又は交付金交付の停止等に関する法律)を廃止すること。
(2)間接税等の免税規定について、相当整理すること。
(3)関税法及び保税倉庫法等の関係法令についても、必要がなくなった規定の整理等を行ふこと。
(五)昭和二十三年に行ふべき土地賃貸価格の改訂を、一年延期すること。
(六)昭和二十一年十月に施行すべき所得調査委員の選挙を、一年延期すること。
(七)国税の収入金については、原則として、十銭未満の端数(現行五銭毎に満たない端数)は、これを切捨てることに改めること。
(八)戦時租税貯蓄制度を廃止すること。
二十一 臨時租税措置法の改正
(一)臨時租税措置法を租税特別措置法に改め、生産の増強、国民生活の安定その他現下緊要とする諸政策の遂行に資するため必要な租税の減免又は課税標準の計算若しくは徴収に関する特例を整備存置すること。
(二)臨時租税措置法で定められた租税の減免等の中、設備拡張等に運用せられた留保所得に対する免税その他戦争遂行上の必要に基いて定められた租税の減免等は、これを廃止すること。
税制改正による増減収見込額(二一、七、八歳入係)
(表省略)