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蚕糸業復興緊急対策要綱

昭和21年8月13日 閣議決定

収載資料:蚕糸行政の展開過程 蚕糸園芸局繭糸課 1969 pp.429-435 当館請求記号:DM395-1

第一 方針
蚕糸業は現に食糧輸入の見返である輸出生糸の生産確保のため、優良生糸の増産と設備の復興に全力を挙げているのであるが、現下の世界的食料機構は、決して永続するものでなく、全世界の食料需給は漸次緩和されるものと予想せられるのであって、その際に於ては、蚕糸業の地位は愈々重要性を加へるものと考えられる。即ち第一に、わが国経済再建の基礎資材は多くを輸入に待たなければならないが、その支払手続の大宗は言うまでもなく生糸である。
第二に国土狭く且つ資源乏しく、而も人口過多の我国において、土地を最も高度に且つ能率的に利用する上からいって、桑園適地は桑園として活用するのが合理的であり、経済的である。第三に当面の異常なる食料危機と食料価格の昂騰が平静に帰し、我国農業が国際経済に密接に接触することとなった暁には、当然我国農業経営は多角化によって、その安定を期せねばならない。その場合、養蚕経営が最も有力なものであることを言を待たない。仍って政府は、昭和二十六年度における桑園面積二十七万町歩、生糸製造高二十七万三千俵を目途として、別表の如く五箇年計画を策定し、左の要領により本計画の完遂に必要な繋急の措置を講ぜんとするものである。

第二 要領
一 桑園の確保に関する措置
桑園は昭和二十六年までに二十七万町歩に拡張するよう左の措置を講ずる。
1. 桑園の登録制の実施
養蚕業者に対する助成、肥料及び食料の配給并びにその他の特典を与ふる基準を明かならしめるため、養蚕業者をしてその経営する桑園に関し、現在面積、将来の増減その他必要な事項を市町村農業団体に登録せしめること。
2. 桑園の整理転換の抑制
凡べての政府の機関又は政府の監督下にある機関及び団体は、桑樹を抜取り、桑園を荒廃せしむることを支援奨励しないこと。新聞ラジオその他による教育的方法を以て、桑樹を抜きとり、又は荒廃せしむることを抑制すること。
3. 桑園の復元促進
主として昭和十八年度以降、他の目的に転換せられた桑園は、明かに食料作物の栽培を有利とするものを除き、逐次これを復元せしむるよう措置奨励する。
4. 開拓地における養蚕の奨励
新開墾地における農業経営には、土地の状況に応じ、養蚕業を奨励すること。
二 桑苗の確保に関する措置
桑苗の復元拡張に伴うて、必要とする桑苗の供給を確保するため、その割当生産を行う外左の施設を講ずる。
1. 地方蚕業試験場における優良桑品種の育成配布施設
2. 桑苗協同組合の桑苗生産共同施設の拡充
3. 養蚕実行組合の桑苗自給施設
三 蚕糸業用資材の確保に関する措置
1. 桑苗圃及び桑苗化学肥料は、その所有量の充足に努むることとし、国内の供給力で不足する分は、特に輸入に仰ぐこと。
2. 製糸設備の急速な復旧を促進するため、鉄鋼、非鉄金属、セメント、木材等設備資材を確保すること。
3. 製糸業の完全操業を保持するため、石炭、電力、その他の運転資材を確保すること。
四 食料に関する措置
食料事情の安定を見るに至るまで、蚕糸業関係者に対し、左の措置を講ずる。
1. 養蚕農家に対しては、食料生産農家との均衡を得しめるよう食料の保有又は配給を認めることとし、来米穀年度よりこれを実施すること。
2. 桑苗生産労働者に対しては、繁忙期における農夫に準ずる食料加配を為すこととし、来米穀年度より実施すること。
3. 製糸業及び蚕業製造業(繭検定所、生糸検査所及び蚕業試験場を含む)関係労務者に対し、労務加配を行うこと。
五 価格に関する措置
繭及び生糸の価格は、本要綱による輸出生糸の生産を確保するため、最近における生産事情及び他の農産物の価格との均衡を考慮の上これを決定する。
六 指導機構の強化に関する措置
蚕糸業指導機構を整備強化して、本対象の完遂を期すると共に、優秀な蚕業技術の普及、低位水準技術の向上を図るため、技術指導網を充実する。
1. 蚕糸業関係職員の充実
中央及び地方蚕糸業関係専任職員の著しく不足する現状に鑑みて、この際大幅の増員を行うこととし、有力な蚕糸県については、重点的に施策を集注するため、特に必要な人員を配置すること。
2. 地方蚕業試験場の強化
地方蚕業試験場の指導部及び技術指導農場を設置すること。
3. 蚕業技術員の素質向上に関する施設蚕業技術員養成施設を強化し、既設技術員の再教育を行うと共に、技術員の資格の引上げ、免許制度を統一すること。
七 財政上の措置
政府は本対策の完遂を期するため、財政の許す範囲内において必要な予算的措置を講ずる。

蚕糸業復興5年計画各年度目標
1 桑園及び産繭額
(表省略)
備考 蚕業復興の緊要性に鑑み本表に掲ざる各年度の生産目標は今後の研究により、可及的繰上げ完遂を期するものである。
2 生糸製造数量及び生糸需給
(表省略)
備考1 1946年度の生糸製造高には前年度より繰越した繭より製造するものを含む。
2 製糸設備は各年度末現在。
3 国内消費は輸出絹製品分を含む。
4 輸出226,800俵は換算3,000万封度であって1951年に達成す。