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補償打切に因る企業整備に伴ふ労働対策(閣議請議案)

昭和21年10月2日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.816-817 当館請求記号:DG15-19

一、企業再建整備を行ふ企業に於て従業員の整理を行ふ必要あるときは、左の方針によるべきものとする。
(一)新勘定(又は第二会社)に移される従業員数は新勘定(又は第二会社)に移される事業設備の稼働見込に必要な数とすべきであるが、次のことを考慮する。
(1)近き将来予想される企業伸張に必要な従業員は此の際新勘定に移し保有する。
(2)労働時間は生産に支障なき限り基本時間実働八時間迄これを短縮しもし資材燃料其の他の条件が許すならば従業員の交替制による操業時間の延長を行ふ。
(二)旧勘定に属する設備の管理に必要な従業員は残さなければならない。
(三)右(一)及(二)以外の従業員は企業再建整備法実施後、概ね三ケ月以内に整理する。
(四)従業員の整理にあたっては、国籍、信条、社会的地位又は扶養家族の多数の故を以て差別的取扱をしてはならない。又従業員が労働組合員なること、労働組合の指導者なること、或は正当な組合活動をなしたことの故を以て解雇してはならない。
(五)会社は解雇の範囲、順序等解雇の具体的基準を文書を以て労働組合其の他従業員の総意を代表する者或は経営協議会がある場合はこれに提示して、その意見を徴しこれを出来るだけ合理的ならしめ且了解を求めるものとする。
二、中央経済再建整備委員会の委員に労働代表を加へ、企業再建整備計画にその意見を反映せしめる。
三、整備される従業員に対する賃金等の給与資金であって、自己資金等で賄へない場合には当該企業の取引金融機関から融資することとし、取引金融機関が融資することが出来ない場合には復興金融金庫が適当な担保を徴して融資するものとし、左記限度内にて行ふ。
(一)企業再建整備法実施の月までは一ケ月分の全額
(二)その翌月は一ヶ月分の三分の二の金額
(三)その翌々月は一ヶ月分の三分の一の金額
四、整理される従業員に対する退職金については左の方針による。
(一)引続き在職する従業員に対しては退職金を支払ってはならない。
(二)指定時後三ヶ月以内に退職する者の退職金は旧勘定の負担とし指定時後三ヶ月以上を経過して退職する者の退職金は指定時後三ヶ月を経過した日を基準としてその前後の勤続年月数に応じて按分し旧勘定及び新勘定の負担を定める。
(三)指定時前確定した退職金の優先支払をうける限度は一人に付一万五千円とする。
(四)指定時後退職する者の旧勘定に属する退職金の優先支払の限度は左の各号の一によって計算した額とする。但し一人につき一万五千円を限度とする。
(1)指定時現在において特別経理会社の退職金給与規定によって計算した額。
(2)指定時現在において特別経理会社が退職金給与規定を有しない場合は指定時前三ケ月間の一ヶ月平均月収額(賞与其の他の臨時的給与を除く)に勤続一年につき一ヶ月平均月収額の二分の一を加へた金額。但し大人五〇〇円、扶養家族一人につき一〇〇円の割合で計算した額を下ってはならない。
前項の計算において勤続年数が一年に満たない場合はこれを一年とし勤続年数一年以上の場合一年に満たない端数は月割計算とする。
(3)指定時現在における特別経理会社の退職金給与規定によって計算した額が前号によって計算した金額より低いときは前号によって計算した金額。
前項の退職金計算の基礎となる勤続年数の算定は一応解雇されて再雇傭された者については再雇傭の日から起算する。但し解雇の際退職金又は之に準ずる給与を支給されてゐない場合は前の勤続年数を通算する。
前項の規定は特別経理会社の退職金規程に特別の規定がある場合は適用しない。
(五)優先弁済を受ける退職金は旧勘定からこれを支払ふことを原則とするも旧勘定において支払が出来ない場合に限り特別管理人の承認を受けて会社経理応急措置法第九条の規定によって設けた新勘定の未整理支払勘定に計上した額を限度として新勘定から支払をすることが出来る。
(六)退職金支払の能力あるも資金繰上支払が困難な場合は先づ取引金融機関から借入れることとし、取引金融機関から借入が困難な場合には復興金融金庫が供給する。
(七)退職金の調達支払が出来ない企業に対しては退職者一人につき千円の割合をもって計算した金額を限度として左記により国庫から支払資金を補給する。但し企業が調達し得る金額を控除する。
(1)退職金の調達の出来ない企業は退職金補給申請書を主務大臣に提出する。
(2)主務大臣が退職金補給の要があると認めた場合は必要な金額を復興金融金庫より融資させる。