輸出振興対策要領
閣議決定年
昭和22年8月29日 閣議決定
収載資料:経済安定本部戦後経済政策資料 第24巻 総合研究開発機構(NIRA)戦後経済政策資料研究会編 日本経済評論社 1995.5 pp.436-444 当館請求記号:DC55-E831
現下わが国経済の直面する破局を食い止め経済を再建方向に導くには食糧および重要資材の輸入は絶対必須の要件であるが、これらの物資の輸入を実現するためには、先づ輸出を振興し輸入資金の獲得に全力をつくす必要がある。殊に今回の輸出入回転基金の設定及び民間貿易の再開は、わが商品を広く海外に紹介し輸出の伸張を図る絶好の機会である。
以上の要請に鑑み、国を挙げて輸出振興を図るため、次の具体的方策を緊急実施することとする。
一 加工貿易及資材対策
(1)輸出入回転基金に基づく資金の利用によって原材料の輸入を盛んにし、これを製品化し輸出する所謂加工貿易制度を確立すること。
(2)「輸出品加工工場」に対しては輸入原材料の優先割当をなすこと。
(3)加工輸出品の製造に必要な国内原材料(包装材料、燃料及電力を含む)及び金融上の便宜はこれを確保し、以って計画通りの確実な輸出実現を期すること。
(4)加工輸出品以外の輸出品用国内原材料についても食糧及び石炭用に準じ優先扱いとすること。
(5)前二項を確保するため、指定生産資材については物資需給計画における輸出用割当を明確にすると共に、非指定生産資材についても輸出品用配当を確保し得るよう所要の措置を講ずること。
(6)来朝貿易代表団取引商品用原材料については、特にその予定所要量を概算して予め割当量を決定し置き、その後の取引の実情によりこれを補正する等需給計画策定上特別の考慮をなすこと。
(7)輸出品用原材料特に輸入原材料が輸出品製造用以外の用途に流用されることを阻止するために万全の措置を講ずること。
(8)輸出品用原材料の現物入手を確保するため、輸出品用原材料の割当証明書に対して出荷の優先権をなすと共に、定期的に現物の受渡について関係業者より報告を徴することとするの外、原材料貿易公団に対しては販売業者割当証明書の発給により予め最小限の原材料を現物化せしめ置くこと。
(9)四半期毎の輸出計画を策定し輸出品用原材料割当計画の策定の基準とすること
(10)輸出品用原材料は努めて効率的に輸入資金を獲得しうる輸出品生産に配当すること
二 金融及価格対策
(1)輸出品の製造業者又は集荷業者の製造又は集荷資金の調達については貿易スタンプ手形の円滑なる運営によること。
(2)貿易公団の輸出品の買上代金については原則として全額自由支払とすること。
(3)貿易公団の所要資金は貿易資金特別会計より供給するものとし、その供給を円滑ならしめると共に貿易庁の公団に対する輸出品買上代金の支払を迅速ならしめるため、今次国会に右特別会計法改正法案を提出し同特別会計の借入金限度を拡張する等、所要の措置を講ずること。
(4)輸出品の価格についてはその国際市場価格及び品質規格、包装等の特殊性を考慮して設定するものとし、輸出検査を実施する商品については検査の結果に依り価格の差等を設くるものとすること。
輸出品の価格の設定を迅速にするため輸出物品価格審査委員会の活発な活動を期すること。
(5)輸出品の世界市場における競争力を増進するため産業合理化によって生産費の低下に努めること。
三 品質向上対策
(1)輸出品の品質を向上し粗悪品の輸出を防止するため今次国会に輸出品の検査及び取締に関する法案を提出し、輸出検査制度を強化拡充すると共に粗悪品を輸出し輸出品の声価を著しく害したものに対しては所要の制裁を課することが出来るものとすること。
(2)輸出検査は差しあたり繊維品(第二次製品を除く)等については国営としその他のものは逐次貿易公団をして輸出検査を実施せしめ検査の厳正を期すること。尚不合格となった輸出品については再検査の途を拓くこと。
(3)輸出検査と関連し国際的事情をも勘案し輸出品の規格の制定及びこれが実施に努めること。
(4)輸出品の品質向上を図るため、国立又は地方の試験所等を積極的に活用して輸出品製造の指導助長を図ること。
(5)日本貿易館及び地方貿易館を整備拡充し、優良輸出品見本の展示を盛んにすること。
(6)輸出品の商標又は記号制度を採用して輸出品の生産者等の責任を明らかにすると共に優良品生産への意欲の高揚に資すること。
四 其の他
(1)貿易行政事務を強化拡充して輸出事務の迅速化を図ること。
(2)諸外国に対する輸出を増大し此等諸国よりの輸入増加に資すると共に此等諸国との決済協定を締結し貿易尻の調整をなし得る様関係方面の特別の援助を懇請すること
(3)関係方面の協力を得て海外市場の詳密な調査研究を行い、特に各国経済使節及び民間貿易代表団との接触を密にし、市場別輸出適品の選定に努力すること。
(4)米国向輸出については従来の輸出を維持すると共に新規適品の輸出品の品質向上を図り能う限り入超尻の調整を期すること。
(5)東亜諸地域向輸出については、東亜の復興に寄与するため、これら地域への必需物資の輸出を増大すると共に、此等各国との輸出入関連協定方式の採用につき関係方面の特別の考慮を要請すること。
(6)輸出産業に必要な原材料の乏しい現状に鑑み、農産物、水産物等わが国特産品の生産及び輸出に一段の努力をなすこと。