脱税その他租税犯罪に対する処罰の厳正な適用について
閣議決定年
昭和23年7月30日 閣議決定
収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 p.1131 当館請求記号:DG15-19
脱税その他租税犯罪に対する処罰の厳正な適用及び促進について
脱税による税金の減収は、財政の健全な運用を危うくし、日本経済の立直りを停滞させ国民生活を一層不安定にさせる結果となるわけであるから、悪質な脱税者に対しては、この際税法に定めてある懲役罰金等の刑罰の訴追をもって厳に臨むこととし、これによって他面一般納税者の納税道義の昂揚を期待し、ひいて、納税成績の一段の飛躍向上を図ることは、現下の急務と認められる。特に、所得税、法人税等の直接税については、従来久しく処罰の実例に乏しかったが最近における税制改革により民主的な申告納税制度に改められ納税者の自覚と責任とにおいて税法に定められた税金を納税者が自発的に納める建前となり、納税の実が挙がるか挙がらないかは納税者の遵法観念納税道義の如何にかかることとなったので、税制の民主化を促進するためにも、租税負担を免れようとする悪質違反者に対しては厳にその責任を追及する必要がある。
租税罰則適用の強化及び促進については昭和二十二年以来その適切な実現について努力し来り、現に直接税の脱税についても起訴中の事件が相当数に上っているが、なお不十分なところが多いので、今後は、大体次の要領により措置し、一段とその実効を収めることとしたい。
租税罰則適用の強化及び促進方実施要領
一 最近における納税の状態に顧み、脱税者に対しては、懲役及び罰金等各税法に定める刑罰制裁を以て厳に臨むこととし、この際脱税事件の調査摘発を促進し、特に悪質な脱税者に対しては、体刑を以て臨むこととする。
二 従来は、脱税犯に対する刑罰制裁は、酒税、物品税等の間接税については実行されて来たが、今後は法人税、所得税等の直接税の脱税犯についてもその検挙に力を注ぎ厳罰方針を以て臨む。なお、会社その他の法人が脱税した場合においては、法人を罰するとともに、重役その他関係者に対しても懲役刑等を以てその責任を追及する。
三 大蔵省主税局及び各財務局の査察部においては、優秀な税務職員を相当数簡抜して国税査察官とし、機動的且つ継続的に脱税事件の調査摘発に当ることにする外、税務事務が特に輻輳している現状ではあるが、税務の重点的運営により、脱税事件の調査摘発を全面的に強化促進する。
四 悪質な脱税事件については、税務官庁において積極的に告発を行い検察庁においては、厳正且つ敏速にこれを処理する。なお、脱税事件の調査及び検察に必要な事項につき常時連絡するため法務庁及び大蔵省間並びに検察庁及び財務局、税務署間の連絡機構を設ける。
五 脱税事件の検挙及び処理を厳正且つ敏速にするため、これを専門的に担当する検察官及び検察事務官の増置その他所要の検察態勢の強化を図る。
六 納税をしないことの煽動又は強要その他の徴税を阻害するような悪質な違反行為に対しては、今回施行された国税犯則取締法及び一般刑法の規定等を適用し、この際断乎これを取り締まる。
七 租税犯に対する処罰の強化及び促進と併行して、財政経済事情の解説、租税知識の普及宣伝その他納税道義の昂揚に適当且つ有効な施設をできるだけ推進する。
八 前各項の事項に関連し、所要の予算的措置を講ずる。