本文に飛ぶ

政府資金による融資の基準となるべき産業及び交通に関する基本計画案

昭和26年5月15日 閣議了解

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第18巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1982 pp.463-465 当館請求記号:DG15-19

第一、方針
我が国民経済の合理的な循環と国民生活の漸進的向上とを確保し、併せて米国始め民主主義国家に対する経済協力体制の確立を推進するため生産力の増加と貿易の拡大を図ることを今後における経済施策の基本原則とする。
かかる観点において最も基本的に実現を要するものは電力供給量の増大と外航船腹の拡充であり、次いでこの基礎の上に各重要産業及び交通規模の拡大と設備の合理化、近代化を図る必要がある。
右の経済施策を実現するため極力民間資金を活用しつつ、対日援助見返資金、日本開発銀行資金及び農林漁業特別会計資金を最も効率的且つ重点的に投資する。この場合には、総合的資金需給の調節等を図ってインフレーションを回避するものとする。

第二、要領
以上の基本方針に基き、特に政府資金の融資の対象として適当と認められる事業の概要は左の通りである。(別表参照)
一、電力
生産増加の最大の隘路は電力の供給不足であるから、今後当分の内、毎年三五億キロワット時程度の電力供給量を増加することを目標とし、現在実施中の見返資金による開発工事の外、ロスの軽減、新規電源の開発及び自家発電の促進を行う。
二、海運
本邦輸入物資に対する外国船利用の困難性及びこれに伴う船賃の高騰に対処し、併せて外貨払の節約を図るため、極力速かに外航貨物船保有量約二〇〇万重量屯に達するようこれが増加を図る。
三、石炭
二十六年度における生産確保のためには少くとも、国内炭約四、四〇〇万屯を必要とし、更に二十八年度には、四、六〇〇万屯乃至四、八〇〇万屯程度の出炭を要する見込であるから、特に必要とされている特殊用炭及び一般高級炭を中心として石炭の増産を図ると共に極力品位の向上と価格の低下を促進するため設備の近代化を図る。
四、鉄鋼
鋼材は二十六年度以降各年、約四〇〇万屯の生産を必要とするが、特に薄板、特殊帯鋼、異型鋼等供給不足品種の増産を図ると共に一般に老朽化している生産設備の近代化を促進する。
五、非鉄金属
二十六年度以降、銅、鉛、亜鉛、ニッケル等の大部分の非鉄金属については海外から相当程度の原料鉱石又は地金の輸入を行わなければならない事情にあるので、今後極力国内資源を開発し、その増産を図る。
またアルミニュームについてはその圧延設備を近代化し価格の低下と能率の向上を図る。
六、化学
(一)硫安については、国内需要を充足しつつ、強力に要請されている輸出を可能ならしめるため二十七年度において二一七万屯の生産ができるように、二十六年度中に約三〇万屯の生産能力を拡充する。
又酸性土壌矯正等のため、重要な石灰の生産設備の合理化、増設を図る。
(二)基礎化学工業設備の合理化及び今後の化学繊維、合成繊維等の増産に即応し、原料化学工業設備の拡充及び合理化を図る。
(三)闊葉樹の活用によるパルプの製造によりパルプの不足と針葉樹不足の緩和に資する。
(四)自動車の生産増加に対応し、タイヤの急速な増産を図る。
(五)高級潤滑油の需要に応じ得るよう石油精製能力の拡充を図る。
(六)大都市におけるガス供給能力を増大し、木材及び電力不足の緩和に資する。
(七)新技術の導入により、国民健康保険上最も緊要な医薬品の増産を図る。
七、繊維
(一)主原料を豊富に国内において供給し得る合成繊維、酢酸繊維及び強力人絹の生産能力を増大し、綿花、羊毛等の輸入の節約に資する。
(二)繊維の染色加工、設備の近代化を行い繊維製品の輸出の増進に資する。
八、機械
造船、自動車、通信、軸受等の機械工業の設備の近代化によりこれが生産の増加と価格の低下を図る。
九、港湾施設
貿易量の増加に対応し、主要港の倉庫上屋、荷役機械及び艀整備を中心として港湾荷役力の増強を図る
十、農林水産、食品加工
(一)食糧供給力の増加を図るため、土地改良、干拓、魚田、漁港の修改築、共同利用施設等を促進する。
(二)森林資源の維持培養と災害の防止を図るため、林道の開設、植栽等を促進する。
(三)国民食生活の向上、農林水産物の利用の促進等を図るため食品加工業等の伸長を助長する。
十一、新技術の工業化
将来における我が国産業の発展を促進するため技術的に優秀で工業化の見込の多い研究について、工業化の意志と能力のある企業に対しては、積極的にこれを助長する。
十二、輸出産業の助長
輸出産業中、設備の増設又は近代化により輸出の増加を図り得ること確実なものについては、これが増設又は近代化を助長する。
十三、中小企業
輸出産業、基礎産業の関連産業、生活必需物資産業等として緊要な中小企業の振興を更に積極化するため、見返資金からの融資の対象とする企業の規模と融資金額の拡大を図る。
十四、その他の見返資金継続事業
見返資金により目下工事継続中の陸運、観光施設については、これが完成を期する。
十五、その他の事業
需給、技術及び資金調達の見透に応じ、将来考慮し得る事業は、セメント生産設備の増設、尿素、石油系含天然ガス合成化学設備の新設並びに私鉄の新線の建設及び電化である。
備考
一、本基本計画は、今後における情勢の推移に応じ、必要あるときは随時これを改訂するものとする。
二、二十五年度における見返り資金私企業融資計画に基き、融資を申請中であった工事については、原則として政府資金の対象とする。
三、政府資金による既存の民間融資の肩替りについては、本基本計画に準じ、別に定める。

別表
(表省略)