農地法案要綱・農地法施行法案要綱
閣議決定年
昭和27年2月29日 閣議決定
収載資料:農地改革資料集成 第12巻 農地改革資料編纂委員会編 農政調査会 1980 pp.674-678 当館請求記号:DM125-17
1 農地法案要綱
一 方針
農地法案は、「農地調整法」、「自作農創設特別措置法」及び「自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令」を一本にまとめ、農地改革の原則を保持するとともに、その内容の簡易明確化を図ることとする。
二 構成
農地法案は、五章九十四条から成り、その構成は次のとおりである。
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 農地及び採草放牧地
第一節 権利移動及び転用の制限(第三条-第五条)
第二節 不在地主の小作地等の制限(第六条-第十七条)
第三節 利用関係の調整(第十八条-第三十二条)
第四節 競売及び公売の特例(第三十三条-第三十五条)
第五節 国から売渡(第三十六条-第四十三条)
第三章 未墾地等の買収及び売渡
第一節 買収(第四十四条-第六十条)
第二節 売渡(第六十一条-第七十五条)
第四章 雑則(第七十六条-第九十一条)
第五章 罰則(第九十三条-第九十四条)
三 内容
(一)農地及び採草放牧地
1 農地及び採草放牧地(創設地を含む。)についての権利の設定又は移転は、法定の場合を除き、都道府県知事(使用貸借による権利及び賃借権については、市町村農業委員会)の許可を要する。但し、次の場合には許可されない。
(イ)その小作地又は小作採草放牧地の小作農以外の者が所有権を取得しようとする場合
(ロ)耕作又は養畜の事業を行う者以外の者が権利を取得しようとする場合
(ハ)権利を取得することによりその面積と所有する小作地の面積又は小作採草放牧地の面積の合計が一定面積をこえる場合
(ニ)権利を取得しようとする者が現に内地平均三反歩(北海道二町歩)未満の経営者である場合
(ホ)創設地を小作に出す場合(法定事由による一時賃貸を除く。)
(ヘ)転貸又は質入をする場合(法定事由による一時転貸を除く。)
(ト)農業生産力の低下が明らかな場合
2 農地及び採草放牧地(創設地を含む。)の転用及び転用にともなう権利の移転は、法定の場合を除き、都道府県知事(五、○○○坪以上は農林大臣)の許可を要する。
3
(イ)不在地主及び在村地主の所有制限に抵しょくする小作採草放牧地の所有を禁止し、該当する土地は、市町村農業委員会が公表し、一定期間内、1の許可を受けて譲渡をさせる。
(ロ)右の一定期間に他に譲渡しないときは、国が買収する。
(ハ)創設地を小作に出したときは、国が買収する。
(ニ)農地及び採草放牧地について所有者の申出があれば、国は買収する。
4 農地又は採草放牧地の賃貸借(薪炭林の有償の契約を含む。)の解除又は解約は都道府県知事の許可を要する。
5
(イ)小作料は、定額の金納制とする。小作料の最高額は、小作農の経営を安定させることを旨として農林大臣が定める基準に基いて市町村農業委員会が都道府県知事の認可を受けて定める。
(ロ)小作料の減額請求権を認める。
(ハ)小作契約を文書化せしめる。
6
(イ)薪炭林等に利用権を設定するにつき、市町村農業委員会の承認を受けて土地等の所有者と協議をすることができる。
(ロ)協議不調又は不能のときは、市町村農業委員会の裁定を申請することができる。
(ハ)裁定に不服な者は、都道府県知事に訴願することができる。
7 農地及び採草放牧地が競売又は公売に付され、買受適格者がないときは、農林大臣が政府の指定する価格で買い取ることができる。
8 政府の取得した農地及び採草放牧地は、適格者に年賦払で売り渡す。
(二)未墾地
1 国は、自作農を創設し、又は自作農の経営を安定せしめるため必要があるときは土地、物件又は権利を買収することができる。
2 買収する土地は、開拓適地基準に適合し、且つ、これを農業のため利用することが国土資源の利用に関する総合的な見地から適当と認められるものでなければならない。
3 未墾地買収の手続は次のとおりである。
(イ)都道府県知事は、その未墾地の自然的条件を調査し、その結果により国が買収することの適否を都道府県開拓審議会に諮問しなければならない。
(ロ)(イ)により買収を適当とする旨の答申があったときは、都道府県知事が公示する。
(ハ)(ロ)の公示に意見のある者は意見書を提出することができる。
(ニ)意見書の提出があれば再び都道府県開拓審議会に諮問し、買収を適当とする旨の答申があったときは、都道府県知事は、買収令書を交付する。意見書の提出がないときは、諮問することなく買収令書を交付する。
4 国は、自作農を創設し、又は自作農の経営を安定させるため必要であり、且つ、国土資源の利用に関する総合的な見地から適当であるときは、漁業権及び入漁権を消滅させ、公有水面埋立権を買収できる。その手続は3に準ずる。
5 国は、農地造成の建設工事に必要な土地及び施設の使用ができる。
6 国は、買収した土地の代地として与えるための土地を買収することができる。
7 政府が取得した未墾地の売渡は、土地配分計画に基いてする。
8 土地配分計画は、都道府県知事又は農林大臣が公示する。
9 未墾地を買い受けようとする者については、都道府県知事が都道府県開拓審議会に諮問して適格者か否かを決定する。
10 適格者に対しては、市町村農業委員会が売り渡すべき未墾地を決定する
11 都道府県知事は、10の決定に従って売り渡す。
12 売渡後成功検査を実施し、合格しないものは、国が買収する。
13 地区の開墾完了時期到来後三年間は、その土地に関する権利の設定移転は、農林大臣の許可を必要とする。
三 その他の事項
1 登記、土地台帳及び所属替の特例を設ける。
2 農林大臣は、不用地を売り払うことができることとする。
3 農林大臣、都道府県知事、農業委員会はその職員をして調査、測量を行わしめることができ、公簿等の無料閲覧ができることとする。
4 市町村農業委員会は毎年一回小作地及び小作採草放牧地の状況を縦覧する。
5 この法律の処分について訴願を認め、鉱業及び採石法に関するものについては、土地調整委員会の裁定を申請できることとする。
6 買収、売渡、補償の額は、政令で定める。
2 農地法施行法案要綱
一 「農地調整法」、「自作農創設特別措置法」及び「自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令」は廃止する。
二 農地法施行の際、措置法による買収及び譲渡今による強制譲渡の処分の手続中のものは、なお従前の例により行う。
三
1 農地法施行の際措置法の規定により国が管理している農地、採草放牧地又は未墾地は農地法の規定により売り渡す。
2 農地法施行の際、措置法の規定により国が買収した農業用施設等は、措置法の規定により売り渡す。
四 措置法による隣接市町村の区域の指定は、同法が廃止されてもなおその効力を生かす。
五 調整法による処分に対する訴願は、同法が廃止されてもなお従前の例により認める。
六 農地法施行の際措置法の規定により売り渡した未墾地についての売渡後の検査、買戻等は、農地法の規定により行う。
七 調整法、措置法、譲渡令又はこれらの法令に基く命令の規定によつてした処分、手続その他の行為は、農地法に相応規定があるときは、これらの規定によってした処分手続その他の行為とみなすようにする。
八 創設地について、その売渡の日から十年以内にその土地を譲渡したときは、国が譲渡価格と売渡価格との差額を徴収する。
九 土地改良法、農業委員会法、造林臨時措置法、土地調整委員会法、登録税法等の法律の整理をするため所要の改正をする。