昭和4年度予算編成方針ノ件
閣議決定年
昭和3年5月25日 閣議決定
収載資料:昭和財政史 第3巻 大蔵省昭和財政史編集室 東洋経済新報社 1975.9 pp.606-607 当館請求記号:342.1-O635s
昭和四年度予算編成ニ当リ従来懸案トナレル幾多重要ノ政策アリ且第五十五回帝国議会ニ於テ中外ニ声明セル政策ニシテ又多大ノ財源ヲ要スルモノアリ例ヘハ地租ノ地方委譲営業収益税ノ国税撤廃陸海軍下士以下待遇改善等之ナリ今之等ノ所要財源ニテモ毎年度一億数千万円ヲ要シ之ニ対シ地租委譲ノ為留保セル財源其他百方新規財源ヲ工夫スルモ尚数千万円ノ不足ヲ免レス更ニ幾多ノ新政策ヲ遂行セントセハ勢ヒ多大ノ財源不足ヲ来スヘシ而モ自然増収ノ如キ殆ト之ヲ期待スヘカラサレハ昭和四年度予算編成ニ当リテハ新規事項ハ真ニ国策ト認ムヘキモノニ止ムト共ニ他方極力既定経費ノ節約ヲ計ラサルヘカラス
然リ而シテ昭和三年度実行予算ハ歳出総計十七億九百余万円ナルモ其ノ内大体半額ハ義務的経費ニシテ整理節約ヲ難シトスヘキヲ以テ節約ヲ期待シ得へキ基本額ハ自然半額前後ニ止ルヘシ而モ其ノ内俸給給料ニ属スルモノ三億五千万円内外ニ就テハ節約ノ余地頗ル乏シカルヘキヲ以テ結局節約ノ目標トスヘキ基本額ハ六億円内外ニ過キサルヘシ仮ニ此ノ基本額ニ対シ一割ノ節約ヲ為スモ単ニ前述ノ重要政策遂行ノ為要スル財源不足ヲ辛ウシテ補填シ得ルニ止ルヘク他ノ政策事項ニ対シテ要スル財源ヲ調達セントセハ勢ヒ相当ノ犠牲ヲ払ヒテ更ニ既定経費ノ整理節約ヲ為スヲ要ス
国運ノ進展ニ伴ヒ幾多施設スヘキ事項ノ存スルニ拘ラス此ノ間更ニ行政費節約ヲ計ルハ頗ル難事ナリ然レトモ財源ニ乏シキ現状ニ顧ミ、之亦已ムヲ得サルニ出ツ加之支那時局ノ変転遽ニ測断シ難シ之カ為ニ亦相当財源留保ノ考慮ヲ要ス各省ニ於テモ十分這ノ覚悟ヲ以テ臨マレンコトヲ切望ス殊ニ今秋十一月ヲ期シテ大典ノ行ハセラルルアリ事務処理ノ見地ヨリシテモ亦予算編成ノ促進ヲ要ス依テ昭和四年度予算ハ大体左記方針二依リ編成スルコトト致度
一、新規事項ノ要求ハ重要政策卜称スヘキモノニ局限スルコト
二、前項以外ノ経費ニ付テハ極力緊縮ノ方針ヲ採リ万已ムヲ得サルモノニ於テハ既定経費ノ節約ヲ以テ之カ財源ニ充ツルニ努ムルコト
三、前項ノ外一般的ニ既定経費ニ付整理節約ヲ為スコトトシ其ノ事項金額ハ別ニ案ヲ具シテ閣議ノ決定ヲ経ルコト
四、各省歳入歳出概算ハ必ス昭和三年六月三十日限之ヲ提出スルコト
五、各特別会計予算ニ於テモ亦一般会計ノ例二準シテ概計書ヲ調製シ昭和三年七月三十一日限之ヲ提出スルコト
右至急閣議ヲ請フ
昭和三年五月二十四日
大蔵大臣 三土 忠造
内閣総理大臣男爵 田中 義一殿