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今後の経済の見通し

昭和32年8月30日 閣議了解

収載資料:国の予算 昭和33年度 財政調査会編 同友書房 1958 pp.889-890 当館請求記号:344.1-Z11k

「昭和33年度の経済運営の基本的態度」の策定に関し、「今後の経済の見通し」は次のとおりとする。
1 最近の経済情勢と下期の見通し
緊急総合政策実施後におけるわが国の経済活動は、施策の効果が時を遂つて顕著にあらわれ、在庫調整及びこれにともなう卸売物価の急落から生産調節の段階に進みつつあるが、政策の主たる目標とされた国際収支面においても、差し当りは抑制措置の影響もあつて輸入が急減し、一応均衡に達する望みを持ちうるに至つた。
現在の引締め基調に変更ない限り、本年度下期の動向としては、
先ず設備投資は、現状では過熱状態を完全に脱していないが、既定計画の繰延べ新親投資分の激減によつて逐月低下し、年度間としてはおおむね予定された水準を超えることとはならないであろう。
製造工業生産は、第1・四半期において対前年同期を19%上廻る高水準にあつたが、第2・四半期以降は操業短縮の動きが拡大し、尻下りに下降線を辿る結果として年度平均では前年度を約8%上廻る程度に止まる可能性がある。この場合の経済成長率は実質5%弱と見込まれる。
卸売物価は、年度末を俟たず、総合的には国際比価の割高を解消する見込もあるが、各品目間の価格不均衡の問題は明年度に持ち越されるであろう。
このような経済の実態面の動きを反映する金融の見通しとしては、現在資金需給が極端な不均衡に陥つている実情から判断して、年度内にはその不均衡が幾分か是正される程度に止まるものと予想される。
国際収支面においては、上記のような経済活動の推移に加え従来の過剰輸入による在庫増などを考慮すれば、下期の輸入は上期に比し相当縮少する可能性もあるので、他方輸出面において多分に努力を要するところではあるが、年度間28億ドル以上の線を確保するならば、32年度の国際収支の実質赤字は4億ドル台に止めることができる見込である。

2 33年度の見透し
32年度における国際収支の大幅な赤字のあとをうける33年度においては、将来における均衡的発展の基盤を整備するため、経済運営の第1義的目標は国際収支の改善におかなければならない。
しかるに最近の世界経済情勢は、米独をのぞく諸国のドル不足、デイス、インフレ策の強化、さらには邦品に対する輸入制限など、わが国の輸出伸長をはばむ各種の要因が介在し、現状において判断すれば、33年度の輸出が30億ドルを超える水準に達することは相当困難であると思われる。この場合には、借款を返済するに必要な国際収支の黒字を期待すれば過度に輸入を圧縮する結果、経済成長はほとんど停滞せざるを得ないこととなろう。
各般の事情を考慮した場合、33年度においては実質2億ドル程度の黒字を期待し、控え目ながら経済の成長をはかることが望ましい。これがためには、如上の困難にかかわらず、財政投資及び消費を通じて国内需要抑制の施策を強力に推進することによつて、輸出はすくなくとも32年度比3億5千万ドル程度の増大をはかる必要がある。これに対して輸入の面においては、対前年度比約3億ドルの削減が要請されることとなる。
以上のような条件の下においては、製造工業生産は前年度比おおむね4%、経済成長率は実質3%程度の伸びに止まるものと予測される。もつとも、経済活動は32年度末までにおおむね調整の過程を了えるものと思われるので、33年度においては所期の通り輸出の伸長がみられるならば、一般にゆるやかながら上昇の過程をたどることが可能となるであろう。
他面上述のような生産活動の推移に関連して、雇用面に一時的に若干の問題をもたらす可能性もあるが、生産の上昇にともない漸次その状態は改善の方向に向うものと期待される。
設備投資も32年度に比すればかなり減少するものと一応予測されるが、過度の投資熱が鎮静して再燃のおそれがなくなると断定することはできない。
なお消費の動向は、年々比較的着実な伸びを示しているが、その輸入に及ぼす影響も軽視し難いものがあるので、33年度においては内需抑制の基本的要請に沿うよう期待しなければならない。
したがつて、金融、財政等政府の施策面において、経済に刺激的な要因を与えるときは、内需の増大を通じて再び国際収支の悪化を招く危険がある点を充分に考慮しておくべきものと認める。