昭和34年度予算編成方針

昭和33年12月19日 閣議決定

収載資料:資料戦後二十年史 2 経済 有沢広巳・稲葉修三編 日本評論社 1966 p.282 当館請求記号:210.76-Si569

昭和34年度における財政運営の基本は、さきに閣議の了解を経た「昭和34年度の経済見通しと経済運営の基本的態度」に応じ、わが国経済の安定的成長と質的改善を図り、もって国民生活の向上と雇用の増大に資することにある。
昭和34年度予算及び財政投融資計画は、この基本方針に基き、
(1)長期にわたり通貨価値の維持と国際収支の安定を確保するため、財政の健全性を堅持することとし、一般会計の規模は税収その他普通歳入と経済基盤強化資金の使用によって支弁しうる範囲にとどめ、財政投融資は新規財源を加えて産業投資特別会計の資金等の繰越資金を使用し、民間資金の有効適正な活用と相俟って弾力的運用に努めるとともに
(2)国民生活の向上と経済基盤の充実等を図るため、後年度における財政の健全性の保持を十分考慮しつつ、減税の実施、国民年金の創設、道路及び港湾の整備拡充並びに公立文教施設の整備充実等重要施策を推進することを重点として、左記により編成する。

1.税制の改正
(1)国民負担の軽減合理化のため国税においては所得税、地方税においては事業税及び住民税を重点として、平年度700億円程度初年度(500億円程度)の減税を行う。
(2)租税特別措置の整理合理化、道路整備のための揮発油税等の増徴、国内産糖対策のための砂糖消費税と関税の振替等を行う。
2.最重点施策の推進
次の諸点について経費及び資金の重点的配分を徹底する。
(1)国民年金制度の創設
国民生活の向上、社会福祉の充実のため老齢、障害、母子の3年金を創設する方針のもとに、昭和34年度においては経過措置として無拠出制の3年金の支給を開始する。
(2)経済基盤の拡充強化
(イ)道路整備の拡充 昭和33年度以降5カ年間に約1兆円の資金を投入して道路の整備を推進する。
(ロ)重要港湾の整備 重要港湾について港湾建設特定工事特別会計(仮称)を新設し、輸出専用埠頭並びに石油、鉄鋼及び石炭の各港湾の急速な整備を行う。
(ハ)治山治水と災害復旧の促進 治山治水事業の促進、国土の総合開発を図るほか、災害復旧の進捗に配慮する。
(3)農林漁業の振興
土地改良事業の促進、林道の開発、漁港の整備に努めるとともに、農林水産物の流通の改善合理化を図り、農林漁業の生産基盤の強化とその経営の安定に資する。
(4)教育及び科学技術の振興と青少年婦人対策
公立文教施設の計画的整備と教員の充実を行って、5カ年間にすし詰教室、危険校舎の解消等を図るとともに、科学技術の振興と技術者の優遇等を行う。青少年及び婦人対策の充実を図る。
(5)中小企業対策
事業税等の軽減、中小企業金融の充実金利の引下げ等により、中小企業の経営の強化を図り、あわせて設備の近代化に資する。中小企業従業員退職共済制度を創設する。
(6)貿易振興及び海外経済協力
日本輸出入銀行の資金の大幅な増額、国連特別基金への加入、海外市場の開拓、技術援助の強化、経済外交の展開等により、貿易の振興、対外経済協力の推進を図る。
3.経費の節約合理化等
(1)最重要経費の財源を確保するため、経費の節約及び補助金の整理合理化を行う。
(イ)経費の節約 旅費、物件費、施設費等につき節約を行う。
(ロ)補助金の整理合理化 補助金の整理を重点的に行うとともに補助金の国庫負担率について所要の調整合埋化を図る。
(2)機構の拡充及び人員の増加は極力抑制する。
(3)特別会計等の新設の抑制 港湾建設特定工事特別会計(仮称)を新設するほか特別会計及び公団公庫等の特別法人の新設は原則として行わない。
4.地方財政
地方財政についても国の財政と同一の基調により、経費の節減合理化を推進するとともに、国民の負担軽減のため事業税を重点とする地方税の減税を実施するものとし、減税に伴う地方財源の減少については、中央、地方の財政状況を勘案し、所要の措置を講ずる。
(附記)昭和34年度予算の執行に当っては、経済金融情勢の推移を見て、財政と金融の一体的運用について特に考慮を払う要がある。