甘味資源の自給力強化総合対策について

昭和34年2月20日 閣議了承

収載資料:食糧管理史 各論5 食糧管理史編集室食糧管理史編集委員会 食糧庁 1971.5 pp.389-393 当館請求記号:DM173-3

1 基本方針
国民食生活の必要物資である砂糖類の約70%を海外よりの輸入に依存しているわが国の現状にかんがみ,速かにてん菜糖・甘蔗糖・結晶ぶどう糖等甘味資源の国内自給度の向上をはかり,国際収支の改善及び民生の安定に資するとともに畑作農業の振興を図ることが緊要である。
この基本方針のもとに次の要領により甘味資源の国内自給力強化のため長期に亘る総合的対策を樹立するものとする。
2 砂糖類需給の長期目標
砂糖類の10年後(昭和43年度)における自給力強化の目標を次のように想定する。
(1)総需要量   152万屯
人口増及び所得増を考慮して算出する。
(2)供給量       152万屯
(イ)国内産      75 〃
イ てん菜糖    40 〃
ロ 甘蔗糖     20 〃
ハ 結晶ぶどう糖  15 〃
(ロ)輸入糖      77 〃
3 関税,消費税の適正化
国内甘味資源の対外競争力を強化し,てん菜糖工業の自立を促進するため税制を改正することとし,輸入粗糖の関税を現行kg当り14円(精糖換算600g当り8円84銭)より41円50銭(精糖換算600g当26円21銭)に引き上げるとともに,精製糖の消費税を現行kg当り46円67銭(600g当28円)より21円(600g当12円60銭)に引き下げるものとする。
4 てん菜糖の政府買入制度の存続
関税,消費税の改訂措置により,今後てん菜糖工場は自立できることとなると考えられるが,なお今後においててん菜の価格を維持し,てん菜生産及びてん菜糖工業の健全な発展を確保するため,てん莱生産振興臨時措置法は,存置することとし,次により政府の買上げを行うものとする。
(イ)既に建設を終え又は現に建設中の工場(北連及び台糖)については,それぞれ2年間買上を行う。この場合の価格は,従前どおり工場別価格とする。
(ロ)今後新たに建設に着手する工場については,1年間買上を行う。この場合の価格は(イ)に準ずる。なお,生産費が著しく低く買入を必要としないと認められるものは買入を行わない。
(ハ)当面糖価水準その他砂糖の関税,消費税の振替措置に伴う新しい事態の推移は予測しがたいものがあるので,上記(イ)及び(ロ)以外の工場については,なお生産費が著しく低いと認められるものを除き,申入により標準コスト(1本価格)による買入を行うものとする。
(1)日本てん菜振興会の設置
てん菜の生産に関する試験研究を行いあわせててん菜生産の振興及びてん菜糖工業の経営の安定を図るための事業を行う特殊法人日本てん菜振興会を設立し,これに対し政府が出資する。
なお,固定資産の償却が著しく進んでいることにより関税及び消費税の改訂措置により特別な利益が生ずるものと見込まれるてん菜糖製造業者より政府は納付金を徴収するものとし,これに相当する金額を振興会に出資又は補助する。
(2)小かん練粉乳に対する措置
従来,消費税が免税されていた小かん練粉乳については,消費税と関税との振替に伴う不利益を避けるため,時価より安く政府所有のてん菜糖を小かん練粉乳製造業者に随意契約により売り渡すこととする。
(3)てん菜糖工場の設立及び原料てん菜集荷区域の調整
北海道におけるてん菜の健全な増産を図るため、市町村別にてん菜の長期栽培計画を樹立し,この計画に基き適正規模の新工場を適切な立地に逐次設立せしめるものとする。
工場の原料てん菜の集荷区域については適正化を図るための指導を行うものとする。
この場合工場と生産者とのてん菜取引の公正,合理化を図るため要すれば工場と生産者団体との団体協約の途を開くものとする。
(4)種子対策
原々種及び原種は日本てん菜振興会において生産配付するものとするが,種子の生産,配付についても必要な調整を行うものとする。
(5)暖地ビートの試験,研究の推進
暖地ビートについては試験研究を推進し,適正品種の選定,適地の選定・製糖方式の確立等を期するものとしその結果をまって企業化を検討するものとする。
5 甘蔗糖対策
奄美群島,沖縄,種ケ島等西南諸島の主要産物である黒糖については,経済事情の変化に伴い漸次需要が減退したので,黒糖の消費税の優遇措置を講じ品質の改善,製造方法の合理化を図るとともに砂糖の税制の改訂に伴い分蜜糖製造への切換を捉進しうるよう工場建設等に所要の便宜を図るものとする。
なお,甘蔗の栽培及び精糖技術についての試験研究を推進し,あわせて黒糖の消費の促進を図るものとする。
6 原糖輸入の方針及び精製糖工場対策
(1)輸入砂糖については,粗糖輸入方式を継続するが,粗糖の輸入先をわが国の貿易拡大の方針の下に貿易上有利な国及び東南アジア諸国に逐次切り換えるよう指導するものとする。
(2)粗糖の外貨予算は国内産砂糖類製造の安定のため国内糖価が適正水準(73円程度)に維持されるよう考慮して決定するものとする。
また,国際糖価の暴騰暴落に際してはその国内糖価への影響を最小限に喰い止めるごとく弾力性ある運用をはかることとする。
(3)精製糖工場は従来の方針により,新増設を認めぬこととし,遊休工場は他に転用しうるごとき措置を考慮するものとする。
将来稼働率の低下を防止するため,てん菜粗糖の生産割当を検討するものとする。
また,てん菜糖工場の製品出廻り時期における糖価の下落を防止するための精製糖工場の溶糖,出荷等につき必要な調整を考慮するものとする。
7 結晶ぶどう糖及び水あめ対策
いもでん粉の新規用途を開拓し,あわせて甘味資源の開発を行うため,いもでん粉より製造する結晶ぶどう糖の増産をはかることとし,政府所有のでん粉の特別売却,工場設備資金の低利融資,機械等の特別償却の措置を講じ,結晶ぶどう糖製造工場の育成をはかるとともに,輸入結晶ぶどう糖の代替につとめるものとする。また,要すればチクロ,へキシルズルハミン酸ソーダ(シュガロン)との混合による甘味度の向上を図るものとする。
水あめの消費増大についても,価格の安定,品質の改善により,消費の増加をはかることとする。
なお,結晶ぶどう糖,水あめの消費拡大のためには,原料でん粉の価格が適正であり,かつ,安定することが前提となるので,このため政府手持でん粉の計画的且つ適切な販売,買入によりでん粉市価の安定を図ることとする。
なお,いもの品種改良及びでん粉製造合理化についての試験研究を推進する。
8 人工甘味料に対する措置
チクロ,へキシズルハミン酸ソーダは新製品のため物品税が課税をされていないので,他の人工甘味料と同様新たに課税対象とするものとする。