国民所得倍増計画について
閣議決定年
昭和35年12月27日 閣議決定
収載資料:内閣制度百年史 下 内閣制度百年史編纂委員会 内閣官房 1985.12 pp.364-366 当館請求記号:AZ-332-17
政府は、別冊「国民所得倍増計画」をもつて、昭和三十二年十二月十七日閣議決定の「新長期経済計画」に代えるものとするが、今後における経済の運営にあたつては、内外経済の実勢に応じて弾力的に措置するものとし、とくに別紙「国民所得倍増計画の構想」によるものとする。
国民所得倍増計画の構想
(1)計画の目的
国民所得倍増計画は、速やかに国民総生産を倍増して、雇用の増大による完全雇用の達成をはかり、国民の生活水準を大巾に引き上げることを目的とするものでなければならない。この場合とくに農業と非農業間、大企業と中小企業間、地域相互間ならびに所得階層間に存在する生活上および所得上の格差の是正につとめ、もつて国民経済と国民生活の均衡ある発展を期さなければならない。
(2)計画の目標
国民所得倍増計画は、今後一〇年以内に国民総生産二六兆円(三三年度価格)に到達することを目標とするが、これを達成するため、計画の前半期において、技術革新の急速な進展、豊富な労働力の存在など成長を支える極めて強い要因の存在にかんがみ、適切な政策の運営と国民各位の協力により計画当初三カ年について三五年度一三兆六千億円(三三年度価格一三兆円)から年平均九%の経済成長を達成し、昭和三八年度に一七兆六千億円(三五年度価格)の実現を期する。
(3)計画実施上とくに留意すべき諸点とその対策の方向
経済審議会の答申の計画は、これを尊重するが、経済成長の実勢はもとより、その他諸般の情勢に応じ、弾力的に措置するとともに、経済の実態に即して、前記計画の目的に副うよう施策を行わなければならない。とくにこの場合次の諸点の施策に遺憾なきを期するものとする。
(イ)農業近代化の推進
国民経済の均衡ある発展を確保するため、農業の生産、所得及び構造等の各般の施策にわたり新たなる抜本的農政の基底となる農業基本法を制定して農業の近代化を推進する。
これに伴い農業生産基盤整備のための投資とともに、農業の近代化推進に所要する投融資額は、これを積極的に確保するものとする。
なお、沿岸漁業の振興についても右と同様に措置するものとする。
(ロ)中小企業の近代化
中小企業の生産性を高め、二重構造の緩和と、企業間格差の是正をはかるため、各般の施策を強力に推進するとともにとくに中小企業近代化資金の適正な供給を確保するものとする。
(ハ)後進地域の開発促進
後進性の強い地域(南九州、西九州、山陰、四国南部等を含む。)の開発促進ならびに所得格差是正のため、速やかに国土総合開発計画を策定し、その資源の開発につとめる。さらに、税制金融、公共投資補助率等について特段の措置を講ずるとともに所要の立法を検討し、それら地域に適合した工業等の分散をはかり、以つて地域住民の福祉向上とその地域の後進性克服を達成するものとする。
(ニ)産業の適正配置の推進と公共投資の地域別配分の再検討
産業の適正配置にあたつては、わが国の高度成長を長期にわたつて持続し、企業の国際競争力を強化し、社会資本の効率を高めるために経済合理性を尊重してゆくことはもとより必要であるが、これが地域相互間の格差の拡大をもたらすものであつてはならない。
したがつて、経済合理性を尊重し、同時に地域格差の拡大を防止するため、とくに地域別の公共投資については、地域の特性に従つて投融資の比重を弾力的に調整する必要がある。これにより経済発展に即応した公共投資の効果を高めるとともに、地域間格差の是正に資するものとする。
(ホ)世界経済の発展に対する積極的協力
生産性向上にもとづく輸出競争力の強化とこれによる輸出拡大、外貨収入の増大が、この計画の達成の重要な鍵であることにかんがみ、強力な輸出振興策ならびに観光、海運その他貿易外収入増加策を講ずるとともに、低開発諸国の経済発展を促進し、その所得水準を高めるため、広く各国との経済協力を積極的に促進するものとする。
(別冊 項目のみ掲載)
第一部 総説
Ⅰ 計画作成の基本的態度
Ⅱ 計画の課題
Ⅲ 目標年次における経済規模と構造
第二部 政府公共部門の計画
Ⅰ 計画における政府の役割
Ⅱ 社会資本の充足
Ⅲ 人的能力の向上と科学技術の振興
Ⅳ 社会保障の充実と社会福祉の向上
Ⅴ 財政金融の適正な運営
第三部 民間部門の予測と誘導政策
Ⅰ 民間部門の地位
Ⅱ 貿易および経済協力の促進
Ⅲ 産業構造の高度化と二重構造の緩和
第四部 国民生活の将来
Ⅰ 雇用の近代化
Ⅱ 消費水準の向上と高度化
Ⅲ 国民生活の将来