物価安定総合対策について

昭和37年3月9日 閣議了解

収載資料:資料戦後二十年史 2 経済 有沢広巳・稲葉修三編 日本評論社 1966 p.462 当館請求記号:210.76-Si569

政府は、昨秋来、総合的な景気調整策を実施し、漸次その効果も浸透しつつあるが、依然として消費者物価の上昇は続いており、また、卸売物価の下落もわずかなものにとどまっている。
このような物価上昇の要因としては、ここ数年来の経済成長の速度があまりにも早過ぎたために、経済全体の構造変化がこれに追いつけず、社会的間接資本の立遅れ、労働の流動性不足、流通機構の欠陥等の現象が漸次顕在化してきたことのほか、工業製品における生産性の向上にもかかわらず価格の低下がこれに伴わないこと、協定価格等が増加してきたことなどが指摘されるにいたっている。
経済の安定的成長を確保するためには、このような各種の歪みを取り除いて、物価特に消費者物価を安定させることが是非とも必要であるが。本来、物価はあらゆる経済活動の集約的表現であるので、その対策は、当然に経済政策全般との関連を十分考慮しつつ多角的総合的なものでなけれはならない。かかる観点より、政府は、この際、あらゆる行政機能を通じて、一本としての有機的連携のもとに、下記の施策を講ずることとする。

1.今後の財政金融政策の実施にあたっては、消費者物価を含めて物価の動向に特に配慮するものとし、当面引締め基調を堅持するとともに、以下の各施策の実施と平行してその適切な運営を期する。
2.貿易自由化を既定方針どおり推進するとともに、当面自由化されない物資についても消費者物価に影響の多いものは、その輸入を弾力的に考慮する。
3.独占禁止法の運用にあたっては、違法な価格協定の取締りを一層厳重に行なうとともに、行政指導による勧告操短等についても消費者の利益がそこなわれることのないよう十分配慮する。
4.労働需給の部分的ひっ迫を緩和するため、労働力の産業間、企業間および地域間の流動性を増大するよう措置する。
5.流通過程における能率向上と中間経費の圧縮を図るため、中間取引段階の簡素化、出荷包装の集団的処理などを推進するとともに、輸送力の増強に努める。
6.間接税の改正にあたっては、その物価に及ほす影響をも十分考慮するものとし、その引下げが消費者価格の低下に着実に反映するよう措置する。
また、関税政策の実施にあたってもこの趣旨に沿って措置する。
7.中小企業を中心として、企業の生産性向上について助成措置の効率的推進と積極的な指導に努める。
8.農林水産物の価格安定のため、消費需要構造の変化に応じた生産構造の改変、経営の合理化と規模の拡大、貯蔵、加工設備の拡充、流通機構の整備改善などを行なうほか、価格の変動を防止するための制度については、消費者の利益も十分考慮して、その適切な運営を図る。
9.地価および家賃を抑制するため、宅地造成および住宅建設の促進、既存土地の合理的利用ならびに土地の投機的取引きの抑制に努めるとともに、土地に関する所要の基本的調査を推進する。
10.公共料金の値上げ抑制措置は、引続きこれを堅持するとともに、生産性の向上等により値下げする余地の生じたものについては、積極的に値下げを指導する。
11.商品の品質低下や量目不足などによって、消費者価格の実質的引上げが行なわれることのないよう、品質表示の励行、計量検査の徹底など所要の措置を推進する。
12.消費需要の行過ぎを抑制するため、景気調整策と平行して、社用消費の節減、個人消費の健全化、合理化および貯蓄の増強を推進するよう措置する。
13.生産性向上による利益の一部をまず製品価格の引下げにふり向ける経営態度の急速な一般化を図ることとし、労使の協力を求める。