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北支事変ニ適用スベキ国家総動員計画要綱

昭和12年9月4日 閣議決定

収載資料:資料日本現代史 10 吉田裕 吉見義明 大月書店 1984.4 pp.16-20 当館請求記号:GB631-39

第一章 総則
第一条 本要綱設定ノ目的ハ今次事変処理ノ為総動員基本計画綱領及第二次総動員期間計画綱領ニ準拠シ総動員実施ノ範囲及程度ヲ定メ以テ実施及実施ノ準備ニ必要ナル基準タラシムルニ在リ
別ニ第三国ノ事変参加ニ因ル最悪ナル場合ヲ考慮シ帝国ノ全面的戦争ニ対スル準備トシテハ現ニ作成中ナル第三次総動員期間計画ヲ現状ニ即応スル如ク速ニ完成スルト共ニ之ニ関連シ国力充実ニ必要ナル諸施設ヲ為スモノトス
第二条 本要綱ニ基キ定ムル事項ハ差当リ第一半年ニ対スル所要計画トシ爾後ニ対スル計画ハ事変ノ進展ニ伴ヒ之ヲ定ムルモノトス
第三条 本要綱二定ムル事項ノ実施ハ適時現況ニ即応スル様之ヲ行ヒ本要綱ニ定メザル機宜ノ措置ニシテ重要ナルモノニ付テハ其ノ都度閣議ニ於テ之ヲ定ムルモノトス
第四条 軍需ハ陸海軍省ノ提示スル数額トス、民需ハ需要増加ノ趨勢ヲ考慮シタル平時需要ノ程度トシ必要アルモノニ付テハ所要ノ節約ヲ加フルモノトス
第五条 総動員実施ノ為必要ナル戦時法令ノ制定又ハ通用ニ付テハ必要ニ応ジ速ニ之ヲ実現シ得ル様措置ヲ講ズ

第二章 資源ノ配当及補填
第六条 特定重要資源ニ付テハ新ニ其ノ需給対照並ニ配当及補填計画ヲ定ム
自余ノ資源ニ付テハ第二次総動員期間計画綱領ニ準拠シ適宜必要ニ応ジ実施スルモノトス
第七条 資源需要官庁ハ取得シタル特定重要資源ニ付毎三ケ月末ニ其ノ数量ヲ総動員統轄事務機関及資源担当官庁ニ通知スルモノトス
資源担当官庁及関係官庁ハ特定重要資源ニ付毎三ケ月末ニ其ノ生産数量、現存額及輸入数量ヲ総動員統轄事務機関及関係官庁ニ通知スルモノトス

第三章 精神作興
第八条 国論ノ統一及国民精神ノ作興ニ関シ必要ナル措置ヲ講ズ

第四章 労務
第九条 労務ニ関シテハ労務者ノ需給調整ヲ目途トシ特ニ之ヲ適時適職ニ従事セシメ得ル様概ネ左ノ事項ニ付必要ナル措置ヲ講ズ
一 技術職員及職工ノ争奪防止
二 労務者需給調整機関ノ整備
三 一部国民登録ノ準備
四 技術職員及職工ノ養成

第五章 産業
第十条 産業指導統制上ノ要項概ネ左ノ如シ
一 重要資源ノ自給ヲ目途トシ特ニ軍需産業ノ生産力拡充ヲ促進ス
二 輸出産業ハ軍事上大ナル支障ナキ限リ極力之ガ維持ニ力ム
三 必要ニ応ジ一部ノ工場又ハ事業場ヲ管理ス
四 重要産業ニ付テハ統制機構ノ整備ヲ図ル
五 輪入抑制ニ伴ヒ国民生活ニ必要ナル資源ノ生産ヲ奨励ス
第十一条 差当リ生産ノ促進又ハ生産力ノ拡充ヲ要スル重要物資概ネ左ノ如シ
一 金
二 鉄鋼及製鉄用原鉱
三 銅、鉛、亜鉛、錫、ニッケル、アンチモン、水銀、アルミニウム、マグネシウム等ノ非鉄金属類
四 ベンゾール及トルオール
五 石炭酸
六 硫安
七 パルプ
八 工作機械
九 石炭
一〇 石油及其ノ代用品
一一 鉄道車輌及船舶
一二 貨物自動車
一三 航空機
第十二条 左記物資及之ヲ材料トスル成品ニ付テハ一般ニ消費節約ヲ奨励スルノ外用途ノ制限、代用品使用ノ指定等必要ナル措置ヲ講ズ
一 鋼材
二 銅、白金、鉛、亜鉛、錫、ニッケル及アンチモン
三 ゴム
四 皮革
五 綿花
六 羊毛
七 紙類
八 木材
九 然料特ニ石油及其ノ代用品
一〇 電力
右ニ関連シ所要代用品ノ増産及研究ニ付特ニ考慮スルモノトス
第十三条 差当リ左記物資ニ付配給ノ適正円滑ヲ図ル為必要ナル措置ヲ講ズ
一 米麦及飼料
二 鉄鋼
三 化学肥料
四 工作機械
五 石炭
六 石油
七 前各号以外ノ主要輸入物資
第十四条 左記物資及之ヲ材料トスル成品ニ付国民運動其ノ他適切ナル方法ニ依リ回収ノ措置ヲ講ズ
一 屑鉄
二 銅
三 鉛
四 錫
五 アルミニウム
六 ゴム
七 綿花
八 羊毛
九 紙
第十五条 電力ニ関シテハ需給ノ円滑適正ヲ図ル為必要ナル措置ヲ講ズ
第十六条 暴利ノ取締其ノ他物価、運賃、料金等ノ規正ニ関シ必要ナル措置ヲ講ズ
物価ノ規正ニ付テハ鉄鋼、化学肥料、石炭、石油、電力等ノ重要物資及生活必需品ニ付考慮ス
第十七条 補填計画実施ノ為必要ナル資金ニ付テハ緩急ヲ考慮シ之ガ調達ニ便宜ヲ与フ

第六章 貿易
第十八条 輸入ニ関シテハ重要資源ノ需給状況及国際収支ノ状況ヲ考慮シ輸入優先順位ヲ定メ適切ナル指導統制ヲ行フ
第十九条 輸出ニ関シテハ特ニ必要アルモノヲ除クノ外差当リ制限又ハ禁止ヲ行ハズ
第二十条 支那ニ対シテハ兵器其ノ他作戦資材ノ輸出ヲ禁止スルノ外経済的打撃ヲ与フルニ有効ナル貿易上ノ措置ヲ講ズ
第二十一条 対支貿易変化ノ状況ニ応ジ之ガ対策ヲ講ズ
第二十二条 米国ノ中立法発動其ノ他ニ因ル輸入杜絶ノ場合ヲ考慮シ適時之ニ対応スべキ方途ヲ講ズ

第七章 食糧
第二十三条 食糧二関シテハ其ノ生産、配給等ニ付所要ノ指導統制ヲ行フ外概ネ左ノ措置ヲ講ズ
一 輪入食糧ニ付消費節約及代用品ノ使用
二 応召者多数ナル農山漁村ニ於ケル生産維持ニ関スル指導援助
三 肥料及飼料ノ自給奨励並ニ購入肥料及飼料ノ消費節約

第八章 運輸
第二十四条 鉄道及船舶ニ依ル重要物資ノ輸送ニ付必要ニ応ジ優先順位ヲ定メ且各輸送ノ連絡ヲ確保シ運輸全般ノ円滑ヲ図ル
第二十五条 船舶ハ必要ニ応ジ政府之ヲ管理ス
尚之ニ関連シ必要ナル措置ヲ講ズ
第二十六条 船腹ノ増加ニ付テハ左ノ措置ヲ講ズ
一 造船能力ノ拡充ヲ図リ造船材料ノ供給ニ付便宜ヲ与フ
二 外国船ノ傭購入ニ関シテハ現在及将来ノ関係ヲ考慮シテ之ヲ行フ
第二十七条 海上保険ニ関シ機宜ノ措置ヲ講ズ
第二十八条 自動車徴発ニ伴フ補充ニ関シ機宜ノ措置ヲ講ズ
第二十九条 航空施設ノ整備ニ関シ必要ナル措置ヲ講ズ

第九章 財政金融
第三十条 中央、地方及外地ヲ通ジ不急ノ既定経費ノ節約ヲ断行ス
第三十一条 戦費ノ調達ハ主トシテ公債ニ依ルモ一部増税ヲ併用ス
両者ノ調整ニ関シテハ国民負担ノ公平ニ付特別ノ考慮ヲ払フ
尚公債消化ニ関シテハ適切ナル措置ヲ講ズ
第三十二条 金融ノ混乱及恐慌防止ニ対シ適時必要ナル措置ヲ講ズ
第三十三条 国防其ノ他公益上ヨリ観テ不急ナル事業ニ対シテハ投資、増資及起債ヲ抑制ス
第三十四条 非常時産業金融ノ便ヲ図ル為資金統制其ノ他必要ナル措置ヲ講ズ
第三十五条 為替維持ノ為適時必要ナル措置ヲ講ズ、特ニ対外決済ニ充当スベキ資金ノ充実ヲ図ル
第三十六条 北支ニ対スル金融政策ニ付機宜ノ措置ヲ講ズ

第十章 社会施設
第三十七条 出動軍人並ニ其ノ家族及遺族ノ慰問、保護及救済ニ関シ必要ナル措置ヲ講ズ、之ガ為考慮スべキ事項概ネ左ノ如シ
一 応召者ニ対シ召集前ノ勤務先ヨリ給与ノ支給
二 応召者ノ保険ニ関スル特別措置
三 応召者ノ家族及遺族ノ診療、職業紹介、扶助、救護等
四 農山漁村ニ於ケル応召者ノ家族及遺族ノ生業助成及負債整理ニ関スル必要ナル措置
五 応召商工業者ノ家族及遺族ニ対スル金融
六 入営者ニ対スル職業保障
七 戦傷者ニ対スル職業再教育
八 出征者及戦死傷病者ニ対スル慰問
第三十八条 事変地罷災者及避難者ノ救済ニ関シ必要ナル措置ヲ講ズ
第三十九条 物資ノ徴発其ノ他事変ノ為生業困難ヲ来シタル者ニ対シ必要ナル保護救済ノ措置ヲ講ズ

第十一章 防疫
第四十条 防疫ノ徹底ヲ図ル為必要ナル措置ヲ講ズ、之ガ為特ニ考慮スベキ地域概ネ左ノ如シ
一 戦地トノ交通頻繁ナル地域
二 衛戍地、軍港及要港
三 主要港
四 重要工場地帯
五 食糧ノ大集散地
六 重要都市

第十二章 総動員ニ必要ナル警備
第四十一条 中央、地方及外地ニ警備協議会ヲ設置シ迅速適切ナル総動員警備ノ実施ニ当ラシム
第四十二条 機密保護上各主務官庁ハ必要ナル措置ヲ講ズ、特ニ我国在留外国人、特定本邦人及此等周囲ノ人物ノ言動ニ注意ヲ払フ
第四十三条 反軍、反戦的ノ記事言論ノ取締及外国ヨリスル思想工作防止ニ重点ヲ置ク出版物ノ検閲ヲ厳ニシ流言蜚語及運動ノ取締、銃砲火薬類其ノ他危険物ノ取締等特ニ治安維持上必要ナル措置ヲ講ズ
第四十四条 警察職員、消防職員及刑務職員ノ召集ニ伴フ補充ノ為必要ナル措置ヲ講ズ
尚警察力補助ノ為必要ニ応ジ地方諸団体利用ノ措置ヲ講ズ
第四十五条 要警備対象物ノ警備ニ付各主務官庁ハ必要ナル措置ヲ講ズ
第四十六条 警備用通信網ノ整備及通信取締ニ付必要ナル措置ヲ講ズ
第四十七条 空襲ノ虞アル地方ニ於テハ防空ニ対スル準備ヲ行フ、防空実施ノ時期ハ別ニ命ゼラルル所ニ依ル
第四十八条 私設無線電信電話施設ノ取締ヲ厳ニス

第十三章 情報及宣伝
第四十九条 今次事変処理ノ為必要ナル情報及宣伝ニ関シ所要ノ措置ヲ講ズ

第十四章 其ノ他
第五十条 科学研究ノ指導、発明ノ助成等ニ付必要ナル措置ヲ講ズ

入力者注:決定日は「国家総動員史 上巻」(AZ-668-5)目次による。