此ノ際国民ノ消費節約ニ付テハ左記方針ニ依ルコト
閣議決定年
昭和12年10月5日 閣議申合
収載資料:国民精神総動員運動 第1巻 長浜功 明石書店 1988.6 pp.75-76 当館請求記号:GB631-E3
記
対事変経済政策ノ目標トスル所ハ直接間接軍ノ需要スル所ヲ充足シ軍事行動ニ支障ナカラシムルヲ主眼トシ、之ガ為ニハ物資及資金ノ需給ヲ適合セシムルト共ニ、国際収支ノ均衡ヲ保持シテ其ノ破綻ヲ生ズルコトナカラシメ、併セテ経済界ノ徒ラニ萎靡沈滞スルコトヲ防止スルノ要アリ。此ノ見地ヨリ国民ノ消費節約ニ付採ルベキ方針大要左ノ如シ
一、軍需資材並ニ輸入品及輸入品ヲ原料トスル国内製品ノ消費節約
(仮ニ選択的消費節約ト称ス)ヲナスコト
今回ノ事変ニ依リ軍需資材トシテ所要セラルル物資ハ極メテ多量ニ上リ、従ツテ海外ヨリノ輸入ハ一層増加スルノ傾向ニアリ、之ヲ以テ軍需資材ニ関係アル物資ニ付テハ輸入品ハ固ヨリ其ノ国内ニ於テ生産セラルルモノモ軍需以外一般ノ用途ヘノ使用ハ出来得ル限リ節約ヲ加フルノ要アリ。又軍需関係品ノ輸入増大ノ必要アルヲ以テ之ニ応ズル為メニハ、其他ノ物品ノ輸入ハ極力之ヲ減少スルノ必要アリ。従ツテ輸入品及之ヲ原料トシテ国内ニ於テ製造加工セラルル物資ノ消費ハ極力之ガ使用ノ節約ヲナスヲ必要トス。殊ニ綿花、羊毛等ノ如キ国内ニ於テ消耗セラルルト共ニ、海外輸出品ノ原料トナルモノニアリテハ輸出貿易ハ極力増進スルノ必要アルヲ以テ、其原料ノ供給ヲ確保スル為メ、特ニ国内消費ニ充テラルル部分ノ消費節約ヲ励行スルノ必要アリ。而シテ右ノ輸入品ト称スルハ其品物ガ現実ニ外国ヨリセラレザルモ夫ト同一物品又ハ同一用途ノ物品ニシテ国内ニ於テ生産セラルルモノ(例ヘバ国内産ノ銅、鉄ノ如シ)モ同ジク節約ノ必要アルコト勿論ナリ。何トナレバ斯カル物資ノ消費ハ必然同種物質ノ不足ヲ惹起シ、其海外ヨリノ輸入ヲ増進スレバナリ。現ニ輸入ヲ見ザルモ消費増加ノ結果輸入ヲ必要トスルガ如キモノ亦同様トス。尚日満一体ノ原則ニ鑑ミ満洲産品ニ付テハ之ヲ国内産品ト同一ニ考フベキモノトス。
二、時局ノ関係上所得ノ増大スル方面ニ於テハ原則トシテ従来ニ比シ其ノ生計ヲ向上拡大スルコトナク、因ツテ消費ヲ増加セシメザルコト
今後多額ノ軍事費ノ国内散布ニ伴ヒ国民ノ一部ニ於テハ相当収入ノ増加スル向モ多カルべク、此等ノ者ガ其ノ増加セル所得ヲ悉ク消費シテ其ノ生活程度ヲ上昇セシムルトキハ、一般ニ物資ノ需要増加、供給不足ヲ招来シテ物価ノ騰貴ヲ促進シ、国家経済、個人経済上ニ至大ノ悪影響ヲ及ボスノミナラズ、又之ヲ其ノ個人ノ生活ニ於テ観ルモ事変中一度生活ノ程度ヲ高ムルトキハ他日事変終了シ其ノ所得減少スル場合ニ於テ俄二之ガ程度ヲ低下スルコト事実困難トナルニ至ルベシ。依ツテ此ノ際此等増加セル所得ニ依ル消費ノ増加ハ之ヲ自制シ因ツテ生ズル余裕ハ之ヲ貯蓄スルコト国家的ニモ個人的ニモ必要ナリ。
三、右以外一般的ノ消費節約ハ其ノ必要無キコト
右一、及二、ノ消費節約以外一般ニ消費ノ節約ヲ行フコトハ現在ニ於テハ行過ノ感アリ。原料ガ国内ニ産シ其ノ製造加工モ国内ニ於テ行ハルル物資ハ其ノ供給ノ不足ヲ来サザル限リ特ニ消費ヲ節約スルノ要ナク、此ノ種物資ニ迄消費ノ節約ヲ為ストキハ、経済及産業界ヲ萎靡沈滞セシメ、却ツテ悪影響ヲ齎スコトトナルべシ。従ツテ消費ノ節約ハ大体前掲一、及二、ニ止ムルコトニ方針ヲ定ムルヲ適当トスべシ。