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電力国家管理案要綱

昭和11年10月20日 閣議了解

収載資料:電力国営の理論的根拠 ?清風荘出版部 昭11 pp.109-114 当館請求記号:715-124

A、電力国策の要

電力は其の国家民生に於ける根本的普遍的なる本質上、之を挙げて私企業に委すべきものに非ず、殊に(一)我国最貴重の天然資源たる水力の徹底的、合理的利用を為し、所謂水主火従主義の発電に依り燃料国策の遂行に資し(二)大規模の発電並に送電連絡をを完成し、周波数の整理を促進し、発送電の全国的統一運営に依り良質、豊富、低廉を目途とする電力経済の理想を実現し(三)全体主義の経営に依り、料金に産業政策、社会政策等に基く国家意識を反映せしめ (四)国力培養の根基たる農山漁村の更生振興の為電力の普及利用の全きを期し、軍需工業を平時に確立し、国防の目的を達成すると共に、有事の際に於ける動力資源の防備、敏速確実なる動力動員に遺憾なからしむ等の方途を講じ、以て国家の興隆安固、国民生活の安定、産業の振興を期するは、内外の情勢に処応する刻下喫緊の要務とすべく、斯の如き企業形態の現状を前提とする限り、到底之を達成し難し、之れ電力国策を樹立し、電力の国家管理を実施せんとする所以なり。

B、管理案の内容

一、政府は電力を管理しその中発送電事業を国営し、之に必要なる設備は特殊の設備会社をして提供せしむ。

発送電事業の経営を斯くするは現下の時局に鑑み、国家財政との関係を考慮するとともに民間資本を有効に活用し、設備の拡張改良計画の遂行を容易敏活ならしめ且つ出来得る限り民業伸長の余地を存せんとする用意に外ならず。尚例へば自家用発電等にして全国的統一運営を必要とせざるものは之を国営の範囲外に置く。

一、既存の発送電設備にして必要なるものは、政府の指定に依り設備会社に出資せしむ、但し出資後一定年限内に於て株主は設備会社に対し額面額にて株式の買入請求を為し得ることゝす、尚政府は必要に依り電力特別会計に於て設備会社の株式を買入れ得るの途を設くるものとす、出資せしむべき発送電設備は、凡そ電圧五萬ヴォルト以上の電線(地方に依り五萬ヴォルトより以下のものを含む)及び之に連絡を有する発電設備とす、其の見込概数凡そ左の如し。発電所約五二〇、内水力約四五〇(容量約二百八十萬キロワット)変電所約一四〇(容量約四百五十萬キロヴォルトアムペア)送電線路亙長約一八、〇〇〇粁

尚右発送電設備の原所有者が残存設備に依りて事業を継続すること能はざる時は、設備会社に対し残存設備の買収を請求することを得しむることゝす。

一、出資財産は評価委員会に付議決定す。出資財産の評価に就きては其の基準たるべき事項を法定し、朝野各方面の利害関係を代表する権威者を集めたる評価委員会に於て公正なる評価額を決定す、尚社債に就ては社債権者の権益を害せざるやう考慮し、慎重且妥当なる措置を講ずることゝす。

一、発電水利は政府の専用とす。

発電水利の使用は政府之を為す、既に許可せられたる水利の使用に就ては、之に要したる出資に対し相当補償するものとす。

一、電力の卸売を為し、其の料金を低廉にし且国家意識を加味す、政府の為す卸売電気料金は全般的に低減均衡を図るは固より社会政策、産業政策の国家意識を加味するものとす。

一、電力審議会を設け、発送電計画、電力料金その他重要事項に関する調査審議を為さしむ。

官民各方面の委員より成る電力審議会を設け、発送電設備の建設計画、電力料金、その他電力政策等に関し諮問に答へ建議を為さしめ、斯道の権威者を事業の経営に参与せしむるの途を講じ、官民一途の下に理想的運営を為さんとす。

一、政府は設備会社に対し設備使用の対価として相当の使用料を交付す、右使用料の算定に当りては設備の建設維持等の方面における会社の企業努力を反映せしむるやう考慮するものとす。

一、設備会社は発送電設備の建設保守を為し、業務遂行上必要なる諸種の特権を与へらる、設備会社は政府の樹立する発送電計画に基き、設備の建設保守を為す義務を有し、其の業務の遂行を容易ならしむる為、土地使用、資金調達等に関し諸種の特権を与へらる、尚会社は其の性質上政府より一定の配当保証を受くると共に、配当し得べき利益金が一定率を超ゆる揚合には或程度の配当制限を受くるものとす。

一、電力特別会計を設く、財政目的を有するものに非ざる趣旨の特別会計と為し、収支の吻合を明にし其の経営を合理的ならしむ。

一、地方財政に及ぼす影響に就ては相当考慮す、発送電事業の国家管理に伴ひ地方財攻に必然的に生ずる歳入欠陥に付ては、電力特別会計に於ても可及的影響を少からしむるやう考慮す。

一、配電事業は公営又は民営に委ぬ

配電事業は其の業務概ね地方的局部的にして且商的配慮を要すること多く、国営と為すことに依り得らるゝ技術上乃至経済上の効果発送電事業の如く顕著ならず、一面国営已むことを得ざる必要の最小限度に止むるを適当と認め、之を現状の通り公営又は民営に委ぬることゝし、配電区域の整理統合卸売料金を通じて行ふ料金監督の徹底等に依り、電力国家管理の精神を一貫せんとす。

C、実施準備

一、電力国策遂行の為左記法案を次期帝国議会に提出す

(イ)国家管理法案

発送電の政府管掌に関する根本事項を規定す。

(ロ)特殊会社法案

発送電設備を政府の用に供することを目的とする特殊の株式会社の構成、出資及評価の方法、特権、義務等を規定す。

(ハ)特別会計法案

電力卸売に関する歳入並に設備会社に対する使用料の支出等に関する事項を規定す、尚歳入総額の歳出総額を超過する金額は之を準備金と為し、歳計の不足を補足せしむべきことを明定す。

(ニ)電気事業法改正法案

供給区域の整理統合、料金その他事業監督の徹底化を図るやう改正す。

一、右諸法案の議会通過後実施準備局を設置し、可及的速かに諸般の準備を為し、昭和十三年度より電力の国家管理を開始せんとす。