火災保険図
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地図室 作成
「火災保険地図」「火災保険特殊地図」「火保図」とも呼ばれます。保険料率の算定のため、昭和のはじめ頃から30年頃まで作られた地図です。いくつかの製図会社が現地調査をして原図をつくり、それを複製して保険会社に納めていました。収録地域は火災保険が売れると見込まれた市街地が主です。
特色として、大縮尺の地図であり(製図会社やシリーズにより1:600~1:1,200など)、一戸ごとの情報が記載されていることが挙げられます。地番だけのシリーズもありますが、 細かいものは、建築物の構造、業種、住民の名前まで記入されています。そのため、昭和期の街並み再現など、歴史研究にしばしば使われます。同様の目的で使用できる地図として商工地図があります。
1.国立国会図書館の所蔵
当館では、横浜市・鎌倉市のごく一部のものしか所蔵していません。
- 土井正造著『〔横浜市火災保険図〕』シリーズ(横浜火災保険図協會 1942.7)一覧(地図室所蔵)
青写真。地番入り。戸別の名称はなし。現在の横浜市金沢区にあたる。 - 土井正造著『〔鎌倉市火災保険図〕』シリーズ(横浜火災保険図協會 1942.7)一覧(地図室所蔵)
青写真。地番入り。一部居住者名(姓のみ)入り。御門方面は現在の鎌倉市二階堂付近。塔の辻は鎌倉市御成町付近。
1-1. 火災保険図を収録している地図帳
一部の火災保険図は、公刊された地図帳に収められています。
参考として、一例を紹介します。
『中央区沿革図集』(東京都中央区立京橋図書館 1994.3-1996.3 【YP6-131】)(地図室開架)
それぞれに「昭和7~11年の火保図」「昭和20年代の火保図」の当該部分が収録されています。
1-2. 火災保険図を収録している復刻集成もの
『戦前期外地火災保険特殊地図集成』シリーズ(地図室開架)
- 戦前期台湾火災保険特殊地図集成(台北・基隆・台中・彰化)【YP7-L4】
- 戦前期台湾火災保険特殊地図集成(台南・嘉義・高雄・屛東・花蓮港)【YP7-L5】
- 戦前期樺太火災保険特殊地図集成(付・樺太庁発行市街図・旧版海図ほか)【YP7-L7】
昭和8~9年に地図研究所(のちの都市整図社)が作成したもので、千代田区立日比谷図書文化館の所蔵資料を復刻集成したものです。地番のほか、学校、病院等の公共施設、寺院、旅館など主な建物名はわかりますが、居住者・所有者がわかる個人名の記載はありません。台湾篇と樺太篇があります。
『都市整図社版火災保険特殊地図集成』シリーズ(地図室開架)
昭和3~15年頃に地図研究所(のちの都市整図社)が作成した戦前期の東京市の火災保険特殊地図を復刻集成したものです。地番のほか、一部の建物の名称などが記載されています。なお荏原区、滝野川区、王子区、城東区、江戸川区は原図が確認できず、収録されていません。全27巻の刊行が予定されています。
2.他館の所蔵
各地の図書館で、地域資料(郷土史料)として所蔵していることがあります。また、「都市整図社」が発行した『火災保険特殊地図旧35区』シリーズ (1987年)、『火災保険特殊地図(戦後分)』シリーズ(1999年?)を所蔵している図書館もあります(例:東京都立中央図書館)。これは電子式複写を冊子にしたもので、当館では所蔵していません。
3.海外の事例
米国では,fire insurance mapといい、米国議会図書館などに特別コレクションがあります。
- Sanborn Maps(Library of Congress:米国議会図書館)
4.参考文献
以下へ刊行年月順に示します。
- 「貴重な住宅地図,数千枚寄贈?製図会社社長が都内の図書館に」(『朝日新聞』 1982.9.23 【YB-2】)
- 井沢龍暢「沼尻長治の火災保険地図について」(『災害の研究』vol.30 1999 pp.49-56 【Z43-1972】)(国立国会図書館デジタルコレクション:図書館・個人送信)
- 松島茂「空襲体験と図書館」(『図書館雑誌』vol.97 no.8 2003.8 pp.513-515 【Z21-130】)(国立国会図書館デジタルコレクション:図書館・個人送信)
- 牛垣雄矢「昭和期における大縮尺地図としての火災保険特殊地図の特色とその利用」(『歴史地理学』vol.47 no.5 (通号226) 2005.12 pp.1-16 【Z8-1263】)(国立国会図書館デジタルコレクション)
- 伊東理「虫ぼし抄 サンボーンの都市の『火災保険地図』」(『関西大学図書館フォーラム』(11) 2006 pp.30-34 【Z21-B301】)(国立国会図書館デジタルコレクション)