国際司法裁判所(International Court of Justice / ICJ)
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議会官庁資料室 作成
設立及び目的
国際司法裁判所(以下、ICJ)は、国連憲章に基づいて1946年に設置された、国連の主要な司法機関です。
主な役割は、次の2つです。
(1)国家間の法的紛争(領土問題など)が提訴された場合の司法的解決
(2)国連および国連付属機関から法的問題に関して意見を求められた場合の勧告的意見の提供
国家間の法的紛争に係る判決は、当事国を法的に拘束します。他方、勧告的意見に法的拘束力はありませんが、意見を受けて国際機関や当事国が行動を決定することが多く、実質的には国際機関が有する法的問題の解決手段として機能しています。
本部:ハーグ(オランダ)
外務省 > 外交政策 > 日本の安全保障と国際社会の平和と安定 > 国際社会における法の支配 > 国際司法裁判所(ICJ)(概要)(PDF)
組織構成
ICJの裁判官は15名から成り、任期は9年です。
15名の裁判官は3年毎に5名ずつ改選され、国連総会及び安全保障理事会の双方で過半数を得た候補者が選任されます。
なお、裁判所が取り扱う事件の当事国で、自国の国籍を所有する 裁判官を持たない国は、当該の事件についてのみ、特別選任裁判官(judge ad hoc)を選定することができます。
訴訟記録
ICJは、領土問題など国家間の法的紛争が提訴された際、裁判により司法的な解決を行います。
全ての紛争で提訴が可能な訳ではなく、提訴可能なのは、条約・協定を根拠とする場合や、被告国が義務的管轄権の受諾を宣言している場合等に限られます。(詳細は、ページ末尾のICJへの提訴が認められる場合および義務的管轄権を参照)
過去にICJで審理された各事件の記録は、ICJのウェブサイトで公開されています。
List of Cases referred to the Court since 1946 by date of introduction
(当館所蔵の紙資料については、ページ末尾のPleadings, Oral Arguments, Documents - [訴訟記録] 参照)
掲載されている文書の種別は下記のとおりです。(裁判は概ねこの順序で進められ、結審までに数年を要します)
提訴申請(Application) | 提出された請求訴状 |
付随手続(Incidental Proceedings) | 付随する事案の手続き。主に下記の2つ。 ・先決的抗弁(preliminary objection) ・仮保全措置(provisional measures) |
本案(Merits) | 訴訟の中心となる事案 |
書面手続(Written Proceedings) | 書面手続 |
口頭手続(Oral Proceedings) | 口頭手続 |
命令(Orders) | 訴訟手続きに関わる命令事項 (書面の提出や仮保全措置など) |
判決(Judgments) | 本案に関する事実認定、賠償要請など |
留意点
- ICJの審理は一審制であり上級審は存在しません。(ただし、重大な新事実が発覚したときは再審が行われます)
- 原則、文書は英語とフランス語で作成されますが、当事国がフランス語圏の場合はフランス語のみで文書が作成されることがあります。(例:ベイルート港埠頭及び倉庫会社並びにラジオ・オリアン会社事件 (Compagnie du Port, des Quais et des Entrepots de Beyrouth and Societe Radio-Orient ) )
- 公式の日本語訳はありませんが、判例集や論文集等に、特定事件の判決要旨の日本語訳が掲載されることがあります。(例:国際法判例百選(第2版). 別冊ジュリスト)
勧告的意見
ICJは、国連機関および国連専門機関から要請された場合に、法律問題について勧告的意見を作成・提出します。
このうち、国連総会と安全保障理事会は、いかなる法律問題についてもICJに勧告的意見を要請することができます。その他の国連機関や国連専門機関は、総会の許可の下で、その活動の範囲内において生ずる法律問題についてICJに勧告的意見を要請することができます。
ICJ発足以降に提出された勧告的意見(advisory)は、すべてICJのウェブサイトでPDF形式で公開されています。
List of Advisory Proceedings referred to the Court since 1946 by date of introduction
(当館所蔵の紙資料については、ページ末尾のPleadings, Oral Arguments, Documents - [勧告的意見]参照)
その他基本資料
- Report of the International Court of Justice (GAOR Supplement No.4)
- 所蔵:(Y518-B441ほか)1993-2007
- 国連総会に提出されるICJの年次報告(冊子)です。ICJのウェブサイトでは、Report of the International Court of Justiceの1985-86 年版以降のバックナンバーをPDFで見ることができます。
- Yearbook of the International Court of Justice
- 所蔵:1993-2003【Z61-D691】
- 国連総会提出分とは別に、ICJが刊行する年報です。組織、財務状況、刊行物紹介のほかに、次のような情報が掲載されています。・当該年に取り扱われた訴訟案件の詳細・特別選任裁判官(judges ad hoc)の氏名と略歴・義務的管轄権を受諾している国の、国別の受諾宣言ICJのウェブサイトでは、出版物紹介のページで、Yearbook of the International Court of Justiceの最新版のみがPDFが提供されています。
- Report of Judgments, Advisory Opinion and Orders
- 所蔵:(C2182-7ほか)1947-2004(欠あり)
- 判決、勧告的意見、命令を年ごとにまとめて掲載したものです。ICJのウェブサイトでは、同様に年ごとの判決、勧告的意見、命令(Judgments, Advisory Opinion and Orders)を見ることができます。
- Pleadings, Oral Arguments, Documents
- 事案ごとに、訴答書面、口頭弁論、関連文書等を収録した資料。提出言語(英語あるいはフランス語)のみで公表されます。訴訟記録および勧告的意見の項でご紹介したオンライン資料の紙版に相当します。
当館では1947年から1990年代までの資料を所蔵しています。所蔵状況は下表のとおりです。詳しい書誌事項は、国立国会図書館所蔵 国際連盟・国際連合刊行資料目録 第1巻 【A111-14】の260頁以下を参照してください。
当館所蔵の訴訟記録
カメルーン・ナイジェリア間の領土・海洋境界画定事件管轄権判決の解釈請求事件 | A99-C2N6-A1 |
ウィーン領事関係条約事件(パラグアイ対アメリカ) | C2182-A5 |
スペイン・カナダ漁業管轄権事件 | C2182-A8 |
グレートベルト海峡架橋事件(フィンランド対デンマーク) | C2182-A7 |
イラン航空655便撃墜事件(イラン対アメリカ) | C2182-A6 |
エレクトロニカ・シキュラS.p.A.(ELSI)事件(アメリカ対イタリア) | C2182-33 |
陸・島及び海洋境界紛争事件(エルサルバドル対ホンジュラス) | C2182-A9 |
国境および越境の武力行為に関する事件(ニカラグア対ホンジュラス) | C2182-A3 |
国境および越境の武力行為に関する事件(ニカラグア対コスタリカ) | C2182-31 |
チュニジア=リビア大陸棚事件判決(1982年)の再審および解釈請求事件 | C2182-29 |
ニカラグア事件(ニカラグア対アメリカ) | C2182-A4 |
大陸棚事件(リビア対マルタ) | C2182-27 |
メイン湾地域における海域の設定に関する事件(カナダ対アメリカ) | C2182-24 |
テヘランにおける米国外交官・領事館職員事件(米国対イラン) | C2182-14 |
大陸棚事件(チュニジア対リビア) | C2182-17 C2182-29 |
エーゲ海大陸棚事件(ギリシャ対トルコ) | C2172-2 |
パキスタン捕虜事件(パキスタン対インド) | C2182-10 |
核実験事件(ニュージーランド対フランス) | C2182-12 |
核実験事件(オーストラリア対フランス) | C2182-12 |
漁業管轄権(西ドイツ対アイスランド) | C2182-8 |
漁業管轄権(英国対アイスランド) | C2182-8 |
北海大陸棚事件(西ドイツ対オランダ) | C2182-18 |
北海大陸棚事件(西ドイツ対デンマーク) | C2182-18 |
バルセロナ・トラクション事件(ベルギー対スペイン) | C2151-13 C2151-14 |
北部カメルーン事件(カメルーン対イギリス) | C2151-5 |
南西アフリカ事件(リベリア対南アフリカ) | C2151-2 |
南西アフリカ事件(エチオピア対南アフリカ) | C2151-2 |
プレア・ビヒア寺院事件(カンボジア対タイ) | C2151-4 |
1954年11月7日の航空機事件(米国対ソ連) | L-H147a |
ベイルート港湾岸壁倉庫会社およびラジオ・オリエント会社事件(フランス対レバノン) | L-H147c |
バルセロナ・トラクション・ライト・アンド・パワー株式会社事件(ベルギー対スペイン) | C2151-14 C2151-13 |
1954年9月4日の航空機事件(米国対ソ連) | L-H147a |
国境地区の主権に関する事件(ベルギー対オランダ) | L-H147a |
1955年7月27日の航空機事件(イギリス対ブルガリア) | L-H147a |
1955年7月27日の航空機事件(米国対ブルガリア) | L-H147a |
1955年7月27日の航空機事件(イスラエル対ブルガリア) | L-H147a |
インターハンデル(商工業参加国際会社)事件(スイス対アメリカ) | L-H147a |
未成年者の後見に関する1902年の条約の適用に関する事件(オランダ対スウェーデン) | L-H147a |
インド領通行権事件(ポルトガル対インド) | C2151-7 |
ノルウェー公債事件(フランス対ノルウェー) | L-H147a |
1952年10月7日の航空機事件(アメリカ対ソ連) | L-H147a |
南極大陸事件(イギリス対チリ) | L-H147a |
南極大陸事件(イギリス対アルゼンチン) | L-H147a |
1953年3月10日の航空機事件(アメリカ対チェコスロバキア) | L-H147a |
アメリカの航空機およびその乗員のハンガリーにおける待遇 | L-H147t |
ベイルート電気会社事件(フランス対レバノン) | L-H147a |
1943年にローマから移送された貨幣用金に関する事件(イタリア対イギリス、アメリカ) | L-H147c |
ノッテボーム事件(リヒテンシュタイン対グアテマラ) | L-H147a |
マルキエ・エクルオ諸島事件(フランス対イギリス) | L-H147a |
アングロ・イラニアン石油事件(イギリス対イラン) | L-H147a |
アンバ・テイロス事件(ギリシャ対イギリス) | L-H147a |
アヤ・デ・ラ・トーレ事件(コロンビア対ペルー) | L-H147h |
モロッコにおけるアメリカ国民の権利に関する事件(フランス対アメリカ) | L-H147c |
コロンビア・ペルー事件 | L-H147a |
エジプトにおけるフランス国民と保護民の保護 | L-H147f |
イギリス・ノルウェー漁業事件 | L-H147f |
コルフ海峡事件(イギリス対アルバニア) | L-H147c |
当館所蔵の勧告的意見
カメルーン・ナイジェリア間の領土・海洋境界画定事件管轄権判決の解釈請求事件 | A99-C2N6-A1 |
国際連合の特権及び免除に関する条約第6条第22項の適用性 | C2182-37 |
1947年6月26日の国際連合本部協定第21条に基づく仲裁義務の適用性 | C2182-26 |
国際連合行政裁判所の判決第333号の再審の申立て | C2182-28 |
国際連合行政裁判所の判決第273号の再審の申立て | C2182-16 |
1951年3月25日のWHOとエジプトとの間の協定の解釈 | C2182-15 |
西サハラ事件 | C2182-13 |
国際連合行政裁判所の判決第158号の再審の申立て | C2182-9 |
ICAO理事会の管轄権に関する提訴 | C2182-4 |
安全保障理事会の決議276(1970)にもかかわらず南アフリカがナミビアに引き続き存在することの諸国に対する法的効果 | C2182-11 |
国連のある種の経費事件 | A159-72 |
政府間海事協議機関海上安全委員会の校正 | L-H147c |
南西アフリカ委員会にある請願人の聴聞の許容性 | L-H147a |
南西アフリカ地域に関係した問題の投票手続 | L-H147v |
国際連合行政裁判所によって下された補償判決の効果 | L-H147e |
南西アフリカ事件 | 968.8-H147i |
国家の国際連合への加盟を承認する場合の総会の権限 | L-H147c |
ブルガリア、ハンガリーおよびルーマニアと締結した諸平和条約の解釈 | 323.4-H147i |
国際連合における公務傷害に関する補償 | L-H147r |
国際連合における加盟国の地位を国家に承認する場合の条件 | L-H147c |
ICJへの提訴が認められる場合
ICJへの提訴が認められるのは、次のいずれかの場合に限られます。
- 被告となる国家が義務的管轄権を受諾している場合
- 当事国同士が合意の上で付託する場合
- 当事国同士の間で結ばれた条約・協定の中でICJへの付託が規定されている場合
義務的管轄権(compulsory jurisdiction)
義務的管轄権とは、ICJが当事国に対して強制的に裁判を行うことができる権利のことです。各国は、この管轄権を任意に受諾することができますが、受諾宣言を行った国は、他国からICJに訴えられた場合、受諾事項の範囲内で、これに応じる義務を負います。
現在、約70か国が義務的管轄権を受諾しています。(受諾国の一覧)