Alternative TitleInvestigation of optical properties in rare-earth silicates toward development of an integrated-optical amplifier
Note (General)LSI(大規模集積回路)の性能向上は,プロセス技術の進化に支えられてきた.Moore氏の提唱した“Si半導体のトランジスタ集積度は18ヶ月で倍になる”という法則に従いプロセス技術の進化と共に劇的な性能向上をたどってきた.しかしLSI 技術が隆盛を極めるにつれ,ゲート長の微細化が顕著になり量子限界を迎えつつある.つまりMore Mooreではなく,新たなパラダイムシフトとなるMore than Mooreが必要とされている.また近年,FTTH(Fiber to the home)のように光による高速通信が幅広く普及しており,サーバ間,コンピュータ間といった情報伝達手段において大きな変化をもたらしたことは記憶に新しい.これは光を通信に利用することで配線抵抗や容量による信号遅延や消費電力の増大といった問題を解決し,所謂通信におけるパラダイムシフトとなった.この技術を応用し,Si 微細加工プロセス技術を基盤とした光集積回路をSi基板上に実現しようと研究が盛んに行われている.この取り組みは“Siフォトニクス”を呼ばれ,Si系材料による光導波路や変調器等の光デバイスの研究開発が進められている.しかし,Siは間接遷移型半導体であるため発光効率が低く,発光素子の開発が進まず,その進展が渇望されている.Siは室温下においてバンドギャップ1.12eV の半導体であるため,バンドギャップ以下の光子エネルギーの近赤外波長帯の光に対しては透明となる.本論文ではCバンド帯に相当する1.53μm付近で発光を示すエルビウム(Er)を構成元素とするEr シリケート(Er2SiO5)結晶について着目した.ErシリケートはEr を構成元素とした結晶であるため,光学活性なEr3+を1022cm-3オーダーまで含有することが可能で,Erを不純物として添加する材料系の固溶限界である1019cm-3を超えるEr 濃度を実現している.また均一に配列したEr3+は強い結晶場を受け,その発光特性は半値全幅7nmのシャープなスペクトルを示すことが報告されている.しかし,このErシリケート結晶は最近接のEr イオン間距離が0.4nm程度と非常に短く,Er3+間のクーロン相互作用が非常に強くなり,励起エネルギーの移動が起こりやすくなる.このエネルギー移動の末の非発光中心への到達は非発光緩和(クエンチング)の要因となる.さらに光増幅やレーザ発振時の反転分布を引き起こす強励起状態では,励起したEr3+間のエネルギー移動に伴う協同増感(Cooperative Upconversion:CUC)が1.53μm帯の光増幅利得や発光効率を減少させる.本研究では優れた高濃度発光中心を持つErシリケート結晶を母材とする集積化光増幅器の開発を目指し,希土類シリケート結晶作製法の検討と新しい結晶作製法を提案するとともに,エネルギー移動による非発光過程およびCUCを評価・検討し,非発光遷移の抑制に基づく小型高利得光増幅器の可能性を調べた.Er3+間エネルギー移動を低減・制御するため,Er2SiO5結晶中Erの一部をイットリウム(Y)に置換したEr/Yシリケート(ErxY2-xSiO5)結晶に着目し,Er3+間距離の制御を行った.YはErとほぼ同じイオン半径でありかつ4f 内殻電子を持たないので,Er→Yのエネルギー移動がない.このためEr/Yシリケート結晶は,Erシリケートの結晶構造が反映され,Er3+間エネルギー移動を制御することが出来ると考えられる.Er/Yシリケート結晶の発光特性を調べた結果,Er/Yシリケート結晶はY置換量に因らずEr シリケート同様の発光スペクトル微細構造を示し,XRDの測定結果を含め結晶構造の顕著な変化は見られなかった.一方蛍光寿命の測定から,Y置換によるEr濃度の減少に伴い非発光遷移の減少(発光効率の増大)がみられ,その傾向はEr濃度~1021cm-3で飽和した.この消光特性は結晶粒サイズに依存し,結晶粒サイズが大きいほど消光が小さいことが分かった.これらの結果よりEr/Yシリケートの非発光遷移過程について,エネルギー移動により生じる微結晶粒界での消光モデルを提案し,非発光遷移過程に与えるエネルギー移動の効果を調べた.このモデルでは,非発光遷移過程が結晶粒内のエネルギー拡散で律速される.Er3+間エネルギー移動について双極子-双極子遷移を仮定すると,伝達確率はEr3+間距離dEr の-6乗に比例する.この伝達確率を利用し結晶粒内のエネルギーの拡散を利用し,非発光遷移確率が結晶粒サイズおよびEr濃度により決定されている事が明らかとなった.これからEr/Yシリケート結晶におけるエネルギーマイグレーション係数Cmig は3×10-38cm6s-1であるとわかった.以上の発光特性をもとにEr/Yシリケート結晶を用いた導波路型光増幅器の設計・作製を行った.まず,導波路構造の見直しを行い,新たにSi光ガイド層埋め込み型構造を提案した.この構造はストリップ装荷型導波路と比べ,劇的な散乱損失の低減を可能にした.さらに新しい結晶作製方法としてRAS(ラジカルアシスタントスパッタリング)法と誘導自己組織化による結晶薄膜作製を提案した.RAS法は単原子層金属スパッタと酸化を分離した堆積方法であり,均一堆積だけでなく大量生産をも可能にする.このRAS法を利用しEr0.45Y1.55SiO5結晶光導波路を作製した.RAS法により作製した導波路はsol-gel法と比較して散乱に起因する損失が82cm-1低減出来た.RAS法で作製した導波路のCUC特性について評価を行った.導波路端面から入射した1.486m波長の励起光により530および550nmの2つのピークを持つ緑色発光が観測された.この緑色発光はEr3+の2H11/2および4S3/2から基底準位へのエネルギー差にそれぞれ相当し,3回の協同増感と考えられる.しかし緑色光強度の励起光依存性は1.74 の相関係数であった.この相関係数を利用しCUC係数Cupを求めた.解析には,簡略化したEr3+の4準位系のレート方程式と導波路中の進行方向に沿って励起および自然放出光の空間的強度変化をレート方程式化したものを利用し,CUC係数Cupにたいする励起準位のEr3+数を評価した.解析結果からErシリケート結晶におけるCupは3.5×10-17cm3s-1であった.CupはCmig と結晶内Er3+密度との積であることから,Er 濃度3.6×1021cm-3を利用するとCUC特性から求められる励起状態間のCmigは1.0×10-38cm3s-1程度であった.以上からEr/Yシリケート結晶におけるCmigは(3±0.5)×10-38cm3s-1になることが3つの評価方法により多角的に確かめられる結果となった.さらにここからEr シリケート結晶の最適なEr濃度が2×1021cm-3をであると考えられ,今後の光増幅デバイス実現へ向けたマイルストーンを確立することが出来た.
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Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2016-07-07T04:28:02+09:00
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