Alternative Titleシカクウンドウヘンカンガクシュウニオケルゴサシンゴウカクトクタイミングニカンスルジッケンテキケンキュウ
An Experimental Study on The Timing of Error Signal Acquisition in Visuomotor Learning.
Note (General)視覚で捉えた目標に対して手を伸ばしたり物を投げ当てたりするには，視覚情報を運動情報に適切に変換する必要がある．ヒトは環境の変化に柔軟に対応して正しく運動ができることから，このような視覚運動変換は学習によって逐次修正されていると考えられる．視覚運動変換学習の一つであるプリズム適応の実験では，くさび型プリズムにより視覚的に変形した環境を作り出し，その環境における運動学習過程を観察する．この学習過程において，脳が課題遂行中に得られた視覚情報を利用していることは自明だが，脳が視覚像に含まれるどのような情報をいつどのようにして利用しているかは明らかにされていない．この問題に関して，到達運動のプリズム適応では運動結果の視覚フィードバックが運動終了から50ミリ秒以上遅れると，適応の効率が有意に減ずることが報告されている．この知見は，視覚運動変換学習において脳が誤差信号を効果的に受容するタイミングが存在する可能性を示している．本研究の目的は，この問題をさらに追及し，脳がいかなるタイミングの視覚情報を視覚運動変換学習に利用しているかを行動実験により明らかにすることである．視覚運動変換学習の実験で課題に用いられることが多い到達運動では，手を目標に運ぶ身体運動そのものの終了時刻と手が目標に達するという課題の終了時刻が同一であるほか，到達時に知覚される視覚や体性感覚情報の人工的な操作が難しいという制約がある．本研究では，この問題を解決するため，投てき課題（ボール投げ運動）を課題に採用して実験を行った．投てき課題では，ボールを投げるという身体運動の終了時刻とボールが的にあたるという課題の終了時刻が一致しないほか，課題終了が視覚情報を通じてしか知覚できないために，運動学習に用いられる視覚情報操作の効果が観察しやすいという利点がある．本研究ではまず，いかなるタイミングの視覚情報が運動学習に必要であるかを探るため，実環境においてシャッタ眼鏡を用いて投てき運動中に得られる視覚情報を動的に遮断する実験を行った．具体的には，ボールが手を離れてから着弾するまでの軌道やボール着弾位置の視覚情報を遮断することがプリズム適応に与える影響を調査した．その結果，ボールの軌道が提示されれば適応は生じるという結果が得られた．この「ボールの運動軌道だけで適応が生じる」という結果は，課題の結果を知らなくてもボールの軌道を示す視覚情報が得られれば適応が進行することを示しており，視覚運動変換学習が課題の成否とは無関係に進行する可能性を示唆している．なお，ボール軌道の視覚情報そのものが適応を駆動しているか，軌道の視覚情報から予測される着弾点と目標との誤差が適応を駆動しているかは今後の検討課題である．次に，「到達運動終了後の一定時間以内に運動結果に関する視覚情報がフィードバックされないと適応の効率が減弱する」現象について，PC上での仮想的な投てき課題を対象にして実験を行った．この課題は，手首関節あるいは肘関節の屈曲運動によりPC画面上の仮想ボールを目標に投げ当てる課題である．この実験環境において，ボールの到達位置の視覚情報をフィードバックするタイミングを操作して視覚運動変換学習に与える影響を調査した．脳が運動課題の成否が判明するタイミングで誤差信号を効果的に取得していると仮定すれば，視覚フィードバックが課題終了（ボール到達）時刻付近で行われるときに視覚運動変換の学習効率が高くなると予想できる．しかし，実験の結果，課題終了時刻付近だけでなく，投てきする身体運動の終了直後に結果に関する視覚情報をフィードバックした場合にも学習の効率が高くなることが明らかになった．この結果は，課題内容を若干変更した追実験においても一貫して観察された．このように，二つの異なるタイミングで視覚運動変換学習の効率が高くなったという結果は，脳の中に少なくとも二つの誤差信号獲得メカニズムが並列して存在している可能性を示唆する．特に，課題の成否とは直接的に関係ない身体運動終了直後に適応の効率が向上したという結果は，上述した実環境における実験の結果と同様に，視覚運動変換学習が課題の成否とは独立した誤差信号により駆動されている可能性を示唆する．以上まとめると，本研究では，視覚運動変換学習における誤差信号獲得タイミングについて調査した．そして，脳は誤差信号を効果的に受容するタイミングを複数持つこと，運動課題の成否とは独立した誤差信号で適応が駆動されることを明らかにした．本研究の結果は，視覚運動変換学習において，脳が学習に用いる視覚情報を効率的に受容するタイミングや誤差信号が単一ではなく，並列的に複数存在することを示唆する．
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Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2016-07-07T04:28:02+09:00
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