Alternative TitleStudy on chemical evolution in titan's liquidosphere
Note (General)タイタンは、表面上に液体と気体を持ち、もっとも大きな衛星で直径は5150kmである。主な気体は窒素とメタンである。表面の大気圧は約1500hPaで温度は約94Kである。ボイジャーの赤外干渉計スペクトルメータにより、エタン、アセチレン、プロパン、シアン化水素、アセトニトリルや様々な有機物が検出されている。そしてカッシーニに搭載された熱分解GC/MSによりタイタン上空にてサンプルが集められ分析された結果、ニトリルやアミンなどを含む揮発性有機物が含まれていることが報告されている。タイタンの大気を模擬した地上実験も数々行われている。タイタンの大気を模擬したガスに紫外線や放電などのエネルギーを照射し、褐色な有機物を生成した。泥のようなという意味で、ギリシャ語でソーリンと名付けられた。その生成物は、熱分解GC/MSによって分析され、脂肪族、芳香族、ニトリルそしてピロールやピリジンを含む含窒素化合物が確認された。またソーリンはポリマーではなく、ケロジュンのような構造体をもつ複雑な構造物であることが報告されている。炭化水素を有する湖がタイタン表面上にあることは光化学のモデルにより予測されていた。カッシーニのレーダーにより高緯度地域にエタンやメタンから成る湖があることがわかり、川が流れたような地形や海岸線のように見える地形がみられた。また、角のとれた岩のような物体が見られた。これは水の氷であり、川に流され角がとれて丸くなったと考えられる。最近の研究により低緯度付近にも炭化水素で形成される湖があることが分かった。タイタン表面上の氷は隕石の衝突によって102~104年液体でいられる試算されている。また、タイタンの地下にはアンモニア水が存在することが示唆されており、15wt%でPHが11.4以下であることが推測されている。生命の存在には水が必要不可欠であり、地球においては水が液体として存在でき、表面上に海や川を形成している。水は蒸発して水蒸気となり、上空で冷やされて雲になり、そして雨が地表に降り注ぐ。このサイクルが地球での生命維持に必要なため、惑星での液体の存在が必要不可欠とされていた。一方、タイタンでは表面温度が平均94Kのため、水が液体として存在することができない。そこで、この温度で液体として存在できるメタン(融点91K,沸点112K)、エタン(融点90K、沸点184K)が地表面の水の役割を担っていたと考えられる。では、もしタイタンで存在する液相圏、つまり地表では液体エタンやメタン、地下ではアンモニア水、で生命が存在するとしたらどのようなタイプが存在するであろうか?おそらく、地球、火星・エウロパで存在する生物とは全く異なるタイプであろう。本研究は、タイタンの上空大気をシミュレーションするため、プラズマ放電装置(NASAAmes研究所)を利用した。大気圧を26Paと133Paでメタン(10%)窒素(90%)の混合気体を用いてプラズマ放電を行った。生成物ソーリンは基盤上にスライドガラスを置き、付着したものを回収した。これらのサンプルを用い、タイタンの液体の相互作用が考えられる液体圏を模擬した実験を行い、タイタンでの液体圏での化学進化及び生命の可能性を検証した。また、これらのデータを用いてタイタンの生命探査法について検討した。本論文は全5章で構成されていて、それぞれの概要は以下の通りである。第1章では諸論である。タイタンについて今までの地上波の観測、ボイジャーミッションそしてホイヘンス・カッシーニミッションにて明らかになった物理的特性・化学的特性を述べ、そしてタイタン環境を模擬して生成された有機物ソーリンに関して今まで行われてきた研究に関して述べた。また、分析に使用した分析機器の詳細について記載した。第2章ではタイタンソーリンの自己集合体に注目した。なぜなら、地球上ではあらゆる生物が膜をもっているからである。原始膜を考える上で自己集合体は必要不可欠である。本実験では、液体エタン・メタンの代わりに室温でも存在する非極性溶媒であるヘキサンと微極性であるクロロホルムを用いた。ソーリン自体は、非極性溶媒である液体エタン・メタンにはほとんど溶けなく、極性溶媒であるアンモニア水に溶解する。少しでも極性を持っている溶媒には溶解することができる。また、ソーリンは両親媒性の性質をもっており、親水基であるアミノ基(-NH2)、疎水基である炭化水素をもっていることが分かった。蛍光スペクトルメータを用いてソーリンが励起波長350nm蛍光波長427nmあたりにピークをもつことが分かった。そこで、ソーリンをクロロホルムに溶かしスライドガラス加え、アンモニア水を加えたところ、ソーリンの自己集合体が蛍光顕微鏡にて確認できた。また、ソーリンをヘキサンに溶かしてスライドガラスに加え、アンモニアを加えたところ、凝集体を生成した。この実験結果はタイタンにて地上に存在する液体エタン・メタンの非極性が地下に存在であろう極性溶媒のアンモニアと相互作用を起こし、原始膜ができる可能性を示唆した。第3章では、低圧ソーリン(26hPa)・高圧ソーリン(133hPa)を用いてアミノ酸を分析した。ソーリンの各溶媒に対するアミノ酸の回収率に注目した。なぜなら、タイタンの表面に非極性溶媒として液体エタン・メタンそして地下には極性溶媒のアンモニアの存在が示唆されているからである。そしてアミノ酸は地球上のすべての生物に用いられている。本実験では室温でも存在するヘキサン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、水そしてアンモニア水を用いて低圧ソーリン(26hPa)・高圧ソーリン(133hPa)を溶解させた。そして、Vアミノ酸分析及び紫外線吸収スペクトルを用いて溶解度について評価した。高圧ソーリンは低圧ソーリンに比べ、多様なアミノ酸を検出できた。なぜならC/Nの割合が高くCH基が多く含まれているからである。タイタン地表では、液体メタン・エタンにて微極性溶媒が溶ければソーリンが溶解することが確認できた。また地下に存在するであろうアンモニアには十分な溶解が確認できる。タイタンの環境化において液相圏において化学進化が可能であることを示唆した。第4章では熱水噴出孔のサンプルを用いた生命探査法の検討をおこなった。なぜなら、熱水噴出孔は地球上での生命の起源の場所と考えられており、熱水噴出孔周辺または地下にて地球上とは異なる生物が見つかっている。そこで、沖縄トラフの多良間海丘周辺のサンプルを採取した。また、生命の存在を評価する方法としてアミノ酸分析、フォスファターゼ活性、蛍光顕微鏡等を用いて評価した。また、同サンプルのメタン同位体とのデータとの比較を行った。HD1034N1とHD1034N2のサンプルは高いフォスファターゼ活性及びメタン濃度を示した。この結果は海水に含まれる高いメタン濃度により微生物が増えフォスファターゼ活性が高い値を示した。また、どれくらいのサンプルの量において生物が検出できるか検討した。この結果を惑星探査、エウロパ、エンケラダスそしてタイタンの生命探査法に応用について考察した。第5章では本研究の統括と意義及び今後の課題について述べた。また、現在検討されているタイタンミッション及び今回得られた実験結果を考察し、さらに今後の展望や応用について述べた。
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2016-08-04T09:59:51+09:00
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