Alternative TitleAberrant localization of cornified cell envelop proteins related to abnormal keratinization in oral lichen planus
Note (General)【緒言】口腔扁平苔癬(Oral lichen planus; OLP)はTリンパ球による上皮結合組織境界部(境界部)の傷害性病変である。病理組織学的には帯状リンパ球浸潤と基底層の液状変性に加え、しばしば角化亢進がみられる。しかし、角化異常に関する研究は乏しく、その発生機序は未だ不明である。角化には、周辺帯(Cornified cell envelope; CE)関連タンパク質が重要な役割を担っている。そこで我々は、OLPの角化異常の機序を明らかにするため、CE関連タンパク質の局在を免疫組織学的に検索し、上皮の傷害性変化や増殖性変化との関連を統計学的に解析した。【実験材料及び方法】両側頬粘膜の網状白斑型OLPの20例を実験材料とし、病理学的に著変のない頬粘膜5例を対照群とした。対照群の上皮厚径を基準に、OLP群の上皮を菲薄部と肥厚部に分類した。上皮の各層の厚径を計測し、基底層の細胞傷害の程度をG0からG3に分類して検討した。境界部の変化を確認するためにCollagen IV (COL4)、Keratin 19 (K19)、Desmoglein 1 (DSG1)、Ki-67に対する一次抗体を用い、角化異常の検討のためにCE関連タンパク質であるInvolucrin(IVL)、Transglutaminase 1(TGM1)、Transglutaminase 3(TGM3)に対する一次抗体を用いて免疫染色を行った。COL4、K19、DSG1、Ki-67は陽性率(陽性細胞数/一定領域の総細胞数)を、CE関連タンパク質は陰性率(下層部の陰性細胞層の厚径/上皮全層の厚径)を算出して解析した。【結果】OLP群の上皮では菲薄部と肥厚部が混在し、肥厚部より菲薄部で傷害の程度が有意に高かった。K19とCOL4陽性率は、対照群に比べOLP群で有意に低下したが、肥厚部と菲薄部の差はなかった。一方、DSG1陽性率は、対照群とOLP群間に有意差はないが、OLP群の肥厚部のDSG1陽性率は菲薄部よりも有意に高かった。Ki-67陽性率は対照群とOLP群間、肥厚部と菲薄部間でも有意差はなかった。IVLは対照群の有棘層下部から細胞質に陽性だが、OLP群では最下層から細胞膜に陽性であった。TGM1は対照群とOLP群の有棘層中央部から細胞膜に陽性だが、OLP群では下層部の細胞質にも陽性を示し、陰性率は対照群よりOLP群で有意に低かった。TGM3は対照群の有棘層下部から核と細胞質に陽性で、OLP群では有棘層中央部から細胞膜にも陽性を示した。陰性率は、対照群よりOLP群で高い傾向だった。TGM1とTGM3の陰性率は弱い負の相関関係を示し、OLP群の肥厚部のDSG1陽性率とTGM3陰性率の間で強い負の相関がみられた。【考察】OLP群ではK19とCOL4発現が減少し、境界部で傷害性変化が生じていることを確認できた。K19の減少は、上皮厚径、COL4およびKi-67と関連性はなく、対照群とOLP群間のみで有意差があり、基底細胞の形質の変化と考えられる。また対照群とOLP群ではKi-67とDSG1陽性率に差はなく、上皮性異形成症といえる明らかな所見はなかった。なお、OLP群の肥厚部でDSG1が有意に高値であった結果は、棘細胞症に伴う基底細胞の形質変化と考えられる。以上のように、実験に用いた試料は、研究対象として適切と考えられる。OLP群ではIVLの細胞膜移行像とともにTGM1が下層部の細胞質から広く発現していた。表皮と同様に、OLPでも基底細胞の細胞質内TGM1がIVLの膜移行を促して、IVLの表皮型の細胞内局在を示していると考えられる。興味深いことに、TGM3は本来細胞質に局在するが、OLPでは細胞膜に発現していた。このような報告はこれまでなく、TGM3の異常な膜発現もIVLの膜移行に関与する可能性がある。OLPではTGM1とTGM3は相補的な関係で分布していた。この関係は表皮のTGM1とTGM3の分布に類似している。また、OLPの上皮肥厚部でDSG1とTGM3の発現に強い相関があり、肥厚部の角化亢進にTGM3が関与する可能性がある。IVLの膜移行は周辺帯形成に必須である。正常粘膜と異なり、TGM1とTGM3の表皮型の上皮内発現が、IVLの細胞膜移行に関与すると考えられる。以上のように、TGM1やTGM3の異所性の局在が、OLPの角化亢進に重要な役割を担っている可能性が示された。
2015
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2016-11-02T12:02:18+09:00
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