Alternative Titleムセンツウシンノタメノカンイデンパンカイセキシュホウトデンソウトクセイレッカノカイゼンシュホウニカンスルケンキュウ
A Study on a Simplified Analysis Method for Multipath Propagation Environments and Countermeasures for Propagation Impairments
Note (General)円滑な無線通信の実現のためには、受信側に到来する電波の伝搬状況を把握して、問題がある場合には、機器側もしくは通信環境を改善することが肝要となる。本論文は、無線通信環境の電波伝搬を簡易に解析することと、通信環境が劣悪な場合において(機器側ではなく)簡易的な手段でその環境を改善する手法を提案することを目的とする。したがって、本論文の内容は大きく以下の二つに分かれる。① 無線通信のための電波伝搬の簡易的な数値解析手法② 無線通信における伝送特性劣化の改善手法(実際の手法)に関する研究論文の前半は、上記①に関する研究である。ここでは、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)通信の伝送特性を簡易的に評価できる伝搬特性解析手法を提案し、かつその手法の精度評価を行った。提案する簡易手法は3 種類であり、それらの概要は以下の通りである。提案手法の一つは、厳密ではあるが長い計算時間を要するレイトレーシングによる解析を、基準とする一対の送受信アンテナ間のみで実施し、その周囲の性質をアレーアンテナの原理に基づいた空間移動によって推定する方法である。よって、これ以降この提案手法を「空間移動法」と呼ぶこととする。そして、この空間移動法においてはMIMO 方式による屋内通信環境を想定した検証を行った。その結果、室内に什器等の物体が存在しない「空」の部屋の場合、空間移動法は基準点を中心とする数波長の範囲で、レイトレーシング(厳密解)と比較して非常に良く一致することを示した。また、室内に什器等が設置されて伝搬経路がより複雑化した場合であっても、幅広い条件下でこの提案手法が適用できることを確認した。そして、空間移動法を用いることで、レイトレーシング単独計算と比較して計算所要時間が大幅に短縮されることを立証した。他方、(1)部屋と什器類が複数の材料で構成されていてかつそれらの材料間の電気的性能の差違が大きい場合や、(2)パーティション等が設置されて室内に見通し通信領域と見通し外通信領域が存在する場合の両者の境界領域においては空間移動法の誤差は大きくなる。すなわち、空間移動法の適用範囲の限界を明確化した。さらに、無線LAN の帯域幅より広い帯域を活用するコグニティブ無線を考慮し、空間移動法を空間領域から周波数領域に拡張した場合について検証を行った。この拡張手法を二番目の提案手法とし、「周波数移動法」と称する。なお、この検証においては、空間移動法の式を周波数領域に対応するためにFourier 変換することに加えて、Friis の伝達公式に基づく伝搬損失の周波数依存性も考慮に入れた。その結果、基準周波数を中心としたある一定範囲の周波数移動においても提案手法の精度が高いことを示した。第一の手法として述べた「空間移動法」では、MIMO 通信のサイトスペシフィックな伝搬特性を短時間で把握することを主眼としており、対象とする測定点数は102 オーダを想定している。一方、BER 評価等にまで繋がるような「基準点周囲のエリアにおける伝搬特性の統計的性質」を把握しようとする場合、要求される測定点数のオーダは少なくとも105 である。このようなケースでは、「空間移動法」を用いても計算時間が数時間かかることも有り得るため、さらに短時間で計算可能な簡易手法が求められることになる。そこで、三番目の手法として、レイトレーシングとクロネッカーモデルを組み合わせた手法を提案し、これを「クロネッカー法」と呼ぶ。このクロネッカー法においても、やはり第一段階として、レイトレーシングによる解析を基準とする一対の送受信アンテナ間のみで実施する。次に、得られた送受信点における空間特性をクロネッカーモデルに組み入れて、基準点を中心とするある一定範囲内での伝送特性の統計値を求める。そして、このクロネッカー法の検証については、見通し環境におけるMIMO、MISO(Multiple-Input Single-Output)、SIMO(Single Input Multiple-Output)方式での車車間通信の場合を想定し、チャネルの特性行列を直接波成分と散乱波成分とに分離して表現することで、より一層の精度向上を目指した。その結果、このクロネッカー法は、特に第一固有値を使用するシングルモード伝送の場合で高い精度が得られることが分かった。また、クロネッカー法を用いることで空間移動法を超える計算時間の大幅な短縮化が図れることも示した。論文の後半は、上記②に関する研究である。ここでは、屋内無線通信を対象とし、室内反射環境を自在に制御できる実験室を用いて遅延の広がりが大きいマルチパス環境を構築し、IEEE802.11a に準拠した5GHz 帯無線LAN 機器及びIEEE802.11b に準拠した2.4GHz 帯無線LAN 機器を対象としてデータ伝送実験を実施した。その結果、遅延スプレッドが200ns程度の高反射環境下ではガードインターバル(GI)を超える遅延波が存在するため、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)を備えた機器であってもデータレートが低下してしまう。これに対して、本論文では電磁波吸収天井板施工による環境改善策を提示し、この対策効果によりデータレートが向上することを実験で確認した。また、実験を通して遅延スプレッドとデータレートの関係を定量的に明らかにし、遅延スプレッドを100ns 以下に抑制できれば効果として十分であることを示した。
開始ページ : 1
終了ページ : 110
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2016-11-02T12:02:18+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション