Note (General)遺物である土器は,多くの場合が砕けた状態で遺跡から出土する.よって,土器全体を把握するためには形状の復元作業が必要になる.土器形状の復元には専門的な知識や経験も必要となり,考古学分野では遺物の復元作業は大きな負担となっている.土器を復元する理由の一つに,実測図を作成することがあげられる.実測図の作成者は,計測用の特殊な道具を利用して,土器の大きさや形状の特徴を計測する.しかし,土器のどの部位を計測し記録するかは,作成者の判断に委ねられている.また,土器の分析を行う目的,手法が多岐に渡ってきているため,実測図だけでは,様々な分析要求に対して,十分な情報を提供することが困難であると考えられている.そこで,より多くの情報を提供するために,土器の形状を計測して3次元デジタルデータ化する手法やシステムが開発されている.3次元デジタルデータを生成する場合,形状データの欠落部を修正し,表面形状を完備することが重要である.完全な表面を構築することで,高品質な表面模様の再現や,展開図の作成が可能である. また,博物館でショーケースに入れられて展示されているような,手に触れることができない貴重な土器を,好きな角度から閲覧したり,専用の装置で接触したりすることが可能になる.3次元デジタルデータに対する従来の研究では,土器片の組み立ての補助を目的としているものが多く,欠落部補間を行う手法の研究は少ない.一般的に,欠落部の小さい土器を手作業で復元するには,欠落部の周辺形状を参考にして,滑らかに接続されるように欠落部を補間する.また,欠落部が大きな場合は,出土した土器の年代等による原型の統計情報に基づいて,土器の原型を予想し,欠落部を補間する.欠落補間を支援するため,人手で復元を行う場合の考え方を,3次元デジタルデータを用いた手法に置き換える場合,次の2つが課題となる.(1)欠落部が小さいときに,周辺の形状を用いて欠落部分を補間する形状を生成すること.(2)欠落部が大きいときに,形状の全体を予想して,補間する形状を生成すること.本研究では,これら2つの課題を解決した,新たな手法を提案する.課題(1)を解決するために,欠落部周辺の土器片から推定可能な,補間形状の生成方法を提案する.欠落部は,土器が断裂した断面で囲まれる部分で構成されるため,複雑な形状となる.そこで,本手法では,一般的なトリム曲面で欠落部を表現し,欠落部を覆う自由曲面を当てはめる.まず,トリム曲面の母曲面を推定するために,土器表面の文様と呼ばれる凹凸模様をノイズとみなし,球面形状を保つ凹凸除去手法を適用する.次に,母曲面の境界線を適切に決定するために,初期値に依存しない境界線を複数定義し,複数の境界線から,最適な境界線を選択する.また,口縁部などに欠落部が存在し,欠落領域が閉領域でない場合には,欠落部を閉領域とする仮想曲線を定義し,境界線を決定する.最後に,周辺部との接続性を高めるために,欠落部に隣接する土器片の表面データを利用して,トリム面の母曲面を欠落部の周辺部にフィッティングを行い,欠落部を覆うような曲面を当てはめる.課題(2)を解決するために,本研究では土器全体を回転体に近い周回する形状と仮定し,断面として,円および楕円の表現が可能な,2次曲面を用いた推定手法を提案する.2次曲面推定で用いられる手法の一つに,非線形の最小二乗法がある.非線形の最小二乗法は,局所的な探索手法のため,大きな誤差を含むデータでは,局所解が求まる可能性が高く,土器のように製造精度の低いものに適用することは困難である.そこで本手法では,2次曲面の当てはめに最小二乗法ではなく,代数的な解法を用いて,土器全体を複数の2次曲面で推定する.まず,2次曲面を推定するために,土器表面の文様と呼ばれる凹凸模様をノイズとみなし,課題(1)と同様に球面形状を保つ凹凸除去手法を適用する.また,土器全体を複数の2次曲面として定義するためには,土器のセグメンテーションが必要となる.そこで,セグメンテーションの基準線を決定するために,土器全体を一つの2次曲面と仮定して当てはめ,当てはめられた2次曲面の主軸を仮想主軸とする.次に,仮想主軸を法線とする,複数の平面を定義することで,土器を複数の部位にセグメンテーションする.セグメンテーションは,それぞれの区間が指定許容誤差以内で2次曲面を当てはめられるように設定をする.以上の2つの課題を解決することで,3次元デジタルデータに対し,土器の欠落部の補間形状の生成は可能である.3次元デジタルデータを利用した,欠落部の補間形状生成の有効性を検証するため,本手法を実際の土器から計測した,点群データに適用した.その結果,土器を復元するために,問題のない精度の補間形状の生成を確認し,手法の有効性を示した.
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Date Accepted (W3CDTF)2017-07-03T04:10:06+09:00
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