Note (General)本論文は14章から構成され,1章では,本研究の背景と目的について述べている.本論文はシームレス仮想境界法により魚類モデルまわりの流れの解析を行い,尾鰭後方における渦構造を再現し,遊泳のメカニズムを解明するものである.従来,複雑形状を有する物体まわりの流れの解析においては境界適合座標系が用いられるが,魚類のように変形を繰り返す物体に対しては,その都度計算格子を再生成する必要があり,計算時間の増大を招いてしまう.そこで本研究では,デカルト座標系において複雑形状を有する物体を表現する手法として提案されたシームレス仮想境界法(Seamless Immersed Boundary Method)を用いて魚類モデルまわりの流れの解析を行っている.デカルト座標系においては,格子上での物体境界の位置を特定するだけで良く,魚類モデルの変形に対応した計算格子をその都度再生成する必要はない.仮想境界法とは,物体面と格子線が交わる点を仮想境界点とし,仮想境界点における速度条件を満足するように支配方程式に外力項を付加して計算を行う方法である.従来の仮想境界法では,外力項を付加する格子点は仮想境界に隣接する格子点に限定されていたが,仮想境界近傍において非物理的な圧力振動が生じてしまう.シームレス仮想境界法では,物体内部の格子点においても物体の速度条件を満足するように外力項を付加して計算を行うことで境界近傍における圧力振動を抑えることができる. 2章から4章では,本研究に用いられる流れの支配方程式とその離散化および解法,シームレス仮想境界法などについて述べている. 5章では,シームレス仮想境界法の本計算コードの検証として,二次元静止円柱まわり流れの解析を行っている.定量値の算出方法として,補間により求めた円柱表面における圧力とせん断応力を用いて形状データ上で算出する方法とシームレス仮想境界法において評価される外力を用いて算出する方法の二通りの方法で評価を行い,どちらの方法においても良好な結果を示し,後者の方法を用いることで定量値を容易に算出することが可能であることを示している. 6章では,本計算手法の移動境界問題への拡張を行い,7章において,二次元振動円柱まわり流れの解析を行っている.計算格子上で物体を移動させその都度仮想境界を再決定する方法とALE法により物体と同時に計算格子を移動させる方法による結果を比較検証し,互いによく一致した良好な結果を得ている.後者の方法では移動する物体と計算格子との位置関係が変わらないため,前者の方法のように仮想境界を再決定する必要がなく計算時間の大幅な低減が可能である. 8章では本手法を三次元に拡張し,その検証として球まわり流れの解析を行っている.静止球に一様流が流入する場合と静止流体中を球が一定速度で移動する場合の互いに等価な条件に対して解析を行い,三次元流れにおいても本手法の有効性が示されている. 9章では,本計算手法をLESと組み合わせることで乱流解析への適用を行い,10章,11章において三次元チャネル乱流,球まわり流れのLESを行っている.三次元チャネル乱流のLESでは,壁面を境界条件により設定した場合とシームレス仮想境界法により設定した場合において良い一致が得られており,シームレス仮想境界法にLESを組み合わせた本手法の乱流解析に対する有効性が示されている.球まわり流れのLESでは,静止球に一様流が流入する場合と静止流体中を球が一定速度で移動する場合の互いに等価な条件に対して解析を行い,本手法による前者の結果と本手法にALE法を組み合わせた後者の結果において互いに良い一致が得られ,本手法にALE法を組み合わせた方法の有効性を示している. 12章では,三次元任意形状物体への拡張を行っており,三角形ポリゴンにより形成された球と解析的に与えられた球のまわりの流れ解析を行い比較検証している. 13章では,本手法を用いて実際の魚類の遊泳する条件を設定し,魚類モデルまわり流れのLESを行っている.魚類モデルの運動を遊泳動作,並進運動および回転運動に分け,周期的な動作である遊泳動作はフレームごとに仮想境界を事前に設定し,並進運動および回転運動についてはALE手法により計算格子ごと移動させることで,計算時間ステップごとに仮想境界を再設定する手間を省略し,計算の簡略化を行っている.遊泳動作による推進力を算出する際は,シームレス仮想境界法において評価される外力を用いて算出する方法により抗力および揚力を求めることで算出している.本計算の結果,尾鰭後方において実際の魚類の遊泳においても観察される逆カルマン渦をシミュレーションすることに成功している.また,魚類モデルの推進に関して,並進および回転について推進速度を算出した結果,前方への大きな推進速度が得られている. 14章では,13章までで得られた成果および知見を総括して述べており,魚類の遊泳に関するメカニズムを解明するための比較的容易なシミュレーション手法を提案している.
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Date Accepted (W3CDTF)2017-08-02T04:31:34+09:00
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