Note (General)医療現場での感染予防対策は非常に重要な課題であり、感染対策のための標準予防策(スタンダードプリコーション)が定められている。スタンダードプリコーションでは、「患者の血液・体液や患者から分泌及び排せつされる全ての湿性生体物質(尿・痰・便・膿など)は感染の恐れがある」とみなし、湿性生体物質に触れる可能性のある時は、手袋・ガウン・マスクなどの個人防護具を使用するとしている。個人防護具の中でも直接感染源に触れるのはグローブのみであり、個人防護具の中でも特に重要であるといえる。また、スタンダードプリコーションはすべての患者及び医療従事者に応用される感染予防対策であり、医療従事者はグローブを着用して様々な施術を行わなければならないが、その施術には当然、安全で確実な技術が求められる。本申請論文では医療現場の感染予防対策において重要な役割を果たすグローブの操作性に着目し、グローブの操作性にかかわる要因を分析し、操作性の良いグローブの選択指針の構築に寄与することを目的としている。 まず、グローブの操作性には指の長さと手掌周囲のフィット感が大きくかかわっていることから、フィット感と手の指長及び手掌周囲長との関連を明らかにしてフィット感の良いグローブの指長及び手掌周囲長の条件を明らかにしている。さらに、フィット感の良いグローブの操作性を評価し操作性の良いグローブの条件について考察している。 本申請論文は6章から構成されている。以下に各章の概要を示す。 第1章では本研究の背景、目的、本研究の対象と位置づけ、本論文の構成について述べた。 第2章では臨床現場の歯科衛生士を対象に、グローブのフィット感の実態およびグローブのフィット感の良し悪しが操作性に与える影響を把握するために質問紙調査を行った。歯科衛生士のグローブの指でのフィット感をみると指長がフィットしているのは約5割から6割であり、指先が余る人が約3割から4割、グローブの方が短いとする人は約1割であることが判明した。歯科衛生士においてグローブの着用によって仕事の操作性困難を感じている人は約5割であった。 またグローブの着用による仕事の操作性困難を感じている人は感じていない人よりもグローブのフィット感の悪い人の割合が有意に高かった。指長のフィット感の悪さと操作性困難との間にも相関関係が認められており、グローブの指長のフィット感が仕事の操作性に影響を与えていると示された。 第3章ではフィット感の良いグローブの指長と手掌周囲長を示すために、グローブと被験者それぞれの指長と手掌周囲長を計測して、両者の差を求めた。その差と被験者の主観的評価から得たグローブのフィット感との関連を検討した結果、フィット感が良いグローブの指長の割合は、拇指では90%~93%、示指では96%、中指では100%~103%、薬指では97%~101%、小指では85%~95%であった。グローブの指長の割合は、やや短めからやや長めの間でフィット感が良いと評価されていた。手掌部については、手掌周囲長の割合が80%~110%のグローブできつくないと評価されていた。 第4章では操作性に優れたラテックスグローブの指長の割合を示すことを目的に、指長の割合の異なるラテックスグローブ(指長よりもやや短い95%、指長と同じ100%、指長よりもやや長い105%)のつまむ操作の操作性を評価し比較した。その結果、細い鋼線をつまむ際は、指の動きを制限しにくい指長よりやや長目のFL105%グローブがつまみやすいことと、物を把持することが主となる作業の際には指先のぴったりしたFL100%グローブの操作性が良いと考えられた。また、主観的評価では指を動かしやすいとの評価が高かったのはFL100%グローブとFL105%グローブであり、指長より短いFL95%グローブは指の動かしやすさの評価が低いことが分かった。指長より短いFL95%グローブはつまむ操作特に細い鋼線をつまむ際の評価が低かった。従って、指長よりも短いグローブは指の動きを制限して操作性を低下させる恐れが高いと指摘できる。 第5章ではつまみ操作の操作性の良いグローブの指長と手掌周囲長の選択指針を示した。 第6章では各章で得られた知見をまとめて本論文の結言とした。
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2017-08-02T04:31:34+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション