Note (General)近年,化石資源の使用削減,エネルギー消費削減,二酸化炭素排出削減の観点から,資源の有効活用,特にバイオマス資源の活用の必要性が高まっている.一方で,未利用資源が多いにも関わらず,経済的要因,技術的な要因によりバイオマス資源の活用が十分になされているとは言えない.これらを踏まえて,本研究では大規模製造システムが確立されているポリ乳酸,収集と製造方法が確立され高い特性が期待できるセルロース,および製糖工場で発生し排出源が集中しているバガス等をベースとして,バイオマス材料比率の高い複合樹脂の創出を試み,バイオマス材料の有する弱点を補い,付加価値を増大すべく,ナノテクノロジーにより,物性の改善を試み,その結果の解析により今後の材料設計の指針の策定,および汎用的技術の提唱に繋がることを目指した. 第1章では,バイオマス資源およびバイオマス材料の現状とそれらの特徴,課題について述べた. 第2章では,ポリ乳酸とバガス繊維の複合材料について開発を行った.ポリ乳酸とバガス繊維の複合にあたってポリ乳酸の改質やバガス繊維の表面処理を行って引張強度,衝撃強度,耐熱性等の物性評価を行うとともに,SEM観察,熱分析,FT-IR分析などを用いて物性の向上メカニズムの検証を行った. 第3章では,ポリ乳酸とセルロースの複合材料について機械的特性と熱特性を測定し,添加剤の構造と添加効果の相関について調べた.3種のセルロースと4種の異なる特性を有する添加剤を用いて複合材料を作製し,引張強度,衝撃強度等の機械的特性,DSCを用いた熱特性を測定した. 第4章では,ポリ乳酸とセルロースナノファイバー(CNF)の複合材料について,一般的にトレードオフとなることが多い曲げ強度,弾性率,衝撃強度,耐熱性の同時向上を図った.ポリ乳酸に再分散しやすい状態で乾燥させたCNFを加え,反応性添加剤,非反応性添加剤を加えた場合の物性について比較し,その物性発現機構についてSEM観察,DSC熱分析を用いて考察を行った. 第5章では,ポリ乳酸を変性した生分解性インフレーションフィルムについて,チタニアナノ粒子によって分解速度の制御を試みた.粒径・分散性の異なるチタニアナノ粒子を加えて射出成形試験片を作製し,引張試験,衝撃試験を行うとともに,インフレーションフィルムを作製し,分解加速試験と分子量測定を行い,機械的特性と分解特性の両面から評価と考察を行った. 第6章では,ポリプロピレン(PP)とセルロースの複合樹脂を作製し,引張特性とIZOD衝撃強度の比較を行い,セルロース/添加剤比率,添加剤の構造と特性による物性の発現の差異を評価するとともに,SEM観察により分散性の違いの検証を行った. 本研究の成果により,多官能基を有する添加剤等を用い,フィラーと樹脂を架橋・相溶化し,一体化させるという基本的なコンセプトを示すことができた.これにより単なる可塑剤の添加や表面修飾では難しい,複数の特性を両立させて向上させることが可能であることを実証した.また,その機構について分析・考察することにより,今後の配合最適化や,本技術の他材料への適用時に有用となる知見を得ることができた.
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Date Accepted (W3CDTF)2017-10-02T17:34:20+09:00
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