Note (General)生活習慣病の1次予防には栄養が重要な役割を果たす。これまで成人に対しての病気のリスクと栄養の関係について多くの報告があるが、それらを予防するには栄養改善が重要である。本論文は、まず、成人での生活習慣病と尿による栄養評価とその改善方法についてまとめ、成人で得られた成果を発育期である中高生にあてはめ、若い世代の健康状態と健康リスクの評価、およびその改善方法である食育の提案まで科学的根拠に基づいて検討を行った。 まず第1章では本論文の目的を述べ、第2章では、世界25ヶ国61地域の様々な食習慣の成人の栄養摂取状況を24時間採尿から得られる栄養バイオマーカーを分析することで、生活習慣病と栄養の関係を証明し、生活習慣病のリスク軽減に有効な栄養素を明らかにした。それらのことから、24時間採尿による栄養評価を実施することで、生活習慣病の一次予防や栄養改善が可能となり、尿による栄養評価が世界中の健康政策や病気予防に貢献する事が期待される。 一方、生活習慣病予防は成人だけの問題ではないことが、日本の女子中高生を対象に行った健康診断の結果から明らかとなった。見た目は健康そのものである女子中高生でも、血圧高め、脂質異常、血糖値高めなどメタボリックシンドロームのリスクを持ち合わせていることがわかった。また、日本では若い女性の痩せが問題とされている。それは痩せた女性が出産すると、生下時体重が2500g未満の低出生体重児の生まれる割合が高くなるからであり、この低出生体重児が成人になった時に生活習慣病の発症リスクが有意に高いという報告が多くなされているからである。そこで第3章では低出生体重児は中高生という若い世代でも高血圧、脂質異常症やインスリン抵抗性など高血糖のリスクが有意に高いことを報告し、将来の生活習慣病を予防するには、若い頃から食事の大切さを学ぶ事と、次世代のリスクを回避するために痩せすぎを予防するような食育が重要である。また、たとえ低出生体重児であっても、より良い食習慣の実践が生活習慣病予防に有効であることから、低出生体重児も含め、より有効な食育が実施できることが望まれる。 そんなことから、第4章ではより有効な食育法を検討するため、第2章で報告した尿による栄養状態の評価法を用いた手法にて食育の効果の検討を行った。我が国では平成17年に食育基本法が施行され、多くの学校で食育が実践されている。しかし、それらの効果を客観的に評価する有効な方法が確立されていない。そこで約30名の小学生を対象に適塩で野菜の摂取量を増やすための2か月間の食育介入プログラムを実施し、プログラムの参加前と参加途中と参加後に尿による栄養状態の評価を行った。そして食育効果の評価を試みたところ、食塩の摂取量(尿中ナトリウムから換算)と野菜の摂取量(尿中カリウムから評価)が改善し、尿中のナトリウムとカリウムの比率が有意に改善した事が証明できた。このことから、食行動が変化するような有効な食育では、尿による栄養バイオマーカーが改善するため、食育をする際には、尿による栄養バイオマーカーを用いて評価することが望ましいと考える。 さらに、第5章では食育で栄養状態を改善する際に、より有効な栄養改善方法を検討するために、野菜の水溶性の栄養素に着目し、調理法による栄養効果の差の検討を行った。食生活が不規則で野菜の摂取量が少ないことが問題となっている大学生に我が国が推奨する1日350gの野菜摂取を勧めると共に、野菜の栄養価をより有効に利用できる方法として無水調理に注目した。この無水調理は普通調理をするよりも水溶性の栄養素が野菜に残る割合が高いことがわかっているが、実際に無水調理した野菜を摂取することでビタミンCやカリウムの体内への吸収量が増え、それにより動脈硬化の誘因とする酸化LDLコレステロールの有意の減少を証明した。このように野菜の栄養素は生活習慣病を予防するには有効であり、野菜の栄養素は調理の仕方によって、その利用効率が変わるため、より有効利用できる方法を食育する必要性がある。 将来の生活習慣病を予防するためには若い世代からの食育が重要であるが、その食育方法は、食行動の改善が期待できるような内容が望まれる。そのためには、栄養状態を客観的に評価できる24時間採尿やスポット尿の栄養バイオマーカーを用いることが有用である。そして、これらの栄養バイオマーカーの活用により食育の有効性を評価でき、科学的根拠に基づいたより効果的な食育プログラムの開発が可能になり、この新しい栄養評価法が、発育期からの生活習慣病の一次予防や、国民の健康寿命の延伸に貢献できる手法になると期待したい。
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Date Accepted (W3CDTF)2017-10-02T17:34:20+09:00
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