Note (General)送受電回路に低損失の共振器を用いることで、数10cm から数m程度の無線給電を可能にする共鳴方式の無線電力伝送技術が注目されている。これまでIC カードや電子機器の充電などで実用化されている電磁誘導方式の伝送距離が数cm 程度であるのに対し、共鳴方式は数10cm を超える伝送距離を有することから、ロボット掃除機やモバイル機器、センサネットワークへの給電といったアプリケーションが期待されている。しかしながら、ロボット掃除機やモバイル機器の位置は常に一定ではないし、センサネットワークでは1対多の給電が必要となる。また共鳴方式の無線電力伝送は送受電端を整合させて使用するため、共振器間の結合度や負荷の個数が伝送効率に顕著に影響を与える。したがって、無線給電技術の実用化にあたっては、これらの制約を緩和し、複数機器への同時給電及び高い配置自由度の実現が必要不可欠である。 複数機器への同時給電という課題に対し、これまで送電部の共振器に対して並列に複数の受電側共振器を結合させ電力分配を実現する手法が報告されている。同手法はテーブル上に置かれた複数のモバイル端末に給電する用途などに適するが、センサネットワークへの給電といった用途では直列に並べた受電器に対して電力分配できることが望ましい。共鳴方式は送電側共振器と受電側共振器の間に中継共振器を配置することで電力をマルチホップさせることが可能であることが知られているが、各中継共振器に電力を分配する構成について検討された例はない。本論文では送受電共振器間に中継共振器を複数配置した無線電力伝送系に対して設定した電力分配比を実現する設計手法を提案する。また、提案手法を7 ノード,6 ホップの無線電力伝送系に対して適用し、実測評価において誤差± 1dB 以内で電力分配が実現されることを示す。 一方で受電器の配置自由度の改善という課題に対しては、大きく分け動作周波数の動的制御や可変整合回路の利用といった回路パラメータを制御する手法と、コイルの配置や構造を変えることで受電器の配置依存性を改善する手法の2 つのアプローチがとられてきた。後者の手法は、動作周波数を固定できることから法規制や他の無線通信との共存といった観点でメリットがある他、構造自体で課題を克服するため制御回路や大規模な整合回路を設ける必要がない。具体的な構成としては、無線給電を行う空間の上下に共振器を配置した閉空間に対して受電器の自由な配置を実現する構成や、複数の平面コイルを組み合わせることで水平面方向の配置自由度を改善する手法、直交するコイルを組み合わせることで受電器の角度依存性を改善する手法などが提案されている。しかしながら、共鳴方式の伝送条件に大きな影響を与える距離方向の配置自由度を、共振器構造により改善する方法については検討されていない。本論文では、水平方向に配置したコイル同士の結合と、垂直方向に配置したコイル同士の結合、導電板間の電界結合が、それぞれ距離に対して異なる分布をとることに着目し、これらを組み合わせることで距離に対する結合度変化を抑制する共振器構造を2 種類提案する。第1 の構造は垂直コイルと水平コイルを組み合わせた2 軸コイル構造であり、距離に対する結合度の変化をノイマンの公式により導出した結合度の計算式の1 階微分として表すことで、設定した距離で結合度変化が最小となるようなコイルの寸法を導出する手順を明らかにした。さらに、同手順を用いて導出した2軸コイル構造の寸法を基準に作製したプロトタイプが設計した距離で結合度変化を抑制する領域を有することを実験により示した。第2 の構造は垂直コイルの前面または背面に2枚の平板キャパシタを配置した構造であり、2 軸コイルと比較して構造の薄型化が可能である。同構造の等価回路モデルについてDifferential モードにおける結合度を表す式を導出し、2 軸コイルと同様に特定の距離において結合度変化が最小となる特性を有することを示した。さらに、作製したプロトタイプについて結合度の測定を行い、結合度変化を抑制する領域を有することを実験により示した。
2017
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2017-12-04T02:02:48+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション