Alternative TitleResearch of availability and re-examination for the theoretical framework on the next-generation inter-firm network in the small and medium-sized companies
Note (General)わが国の経済において,中小企業は長きに渡り大企業の下支えや地域産業の中心として重要な役割を果たしてきた。一方で,中小企業が従来のように大企業に頼らず,中小企業同士が自主的に不足する資源を提供し合う企業間ネットワークについては,その取り組みが遅れていることも事実である。本研究は,「中小企業における次世代の企業間ネットワーク」について,ICTの進化をふまえ,階層構造的に,多くの先行研究から従来の企業間ネットワーク理論を再検討し,新たな理論的枠組みの追加を行うとともにその理論的妥当性ないし有効性を現実の中小企業の企業間ネットワークに関する実態調査によって確認するものである。「第Ⅰ部 理論的枠組みの再検討」では,中小企業における企業間ネットワークの機能と役割を分析するための理論的枠組みの再検討を行っている。まず,様々な先行研究の到達点を明らかにし,その有効性を確認したうえで経済・社会環境の変容や技術の進化がもたらす新たな現象を視野に入れた新たな理論的枠組みの必要性について分析し,それを提案している。まず,確認できた理論的枠組みを先行研究の成果をとりまとめながらやや具体的に示してみよう。中小企業ネットワーク構築の経済構造的特性として,中小企業の多くが,大企業中心の垂直型の企業間ネットワークに参加するという日本的分業システムの特性がまず指摘される。その中では,中小企業は,その異質性と多様性こそが自らの存在価値を主張できることに繋がっていたのであった(「2. 中小企業における競争優位のドメインの変化」)。しかし,その後,このような垂直系列型ネットワークが崩れ変容してきたのは,中小企業側から特定の大企業に依存することなしに多様な産業への進出を図ろうとする動きがあったことがその重要な要因の一つとなっていた。そしてその背景には,中小企業には高い専門性と独自技術があったこと,および新たな「生産分業システム」を生みだそうとしていることなどがあったのである。そしてこの中小企業の進化の推進力は,経営者のイノベーションへの高い意識と進化への意欲によって生み出されていることが共通に見いだされることであり,企業の高いポテンシャルの源泉になっていたのであった。また,「3. 企業間ネットワークの質的変化」では,ネットワーク化にともなう新たな資産の概念や競争次元にかかわるブレッサン理論(1991)を取り上げ,それが1990年代前半の「連結の経済」を解析するためにはきわめて有効であり,さらに現代の企業間ネットワークの分析のためには依然として基礎的枠組みを提供していることを評価しつつも,当時のシステム間接続技術としてのITの技術的特性から,ネットワーク設計の段階で企業間連携も確定してしまうという「固い紐帯」のネットワークを前提とするという時代的制限をも持っていることを指摘している。さらに,インターネットの爆発的な普及とWebテクノロジーの進化によって,「オープンソースソフトウェア」や「クラウドコンピュ-ティング」,「ソーシャルメディア」の有効性が指摘されており,これらは大企業のような重層化された大掛りなシステムが必要でないことから,企業情報システムは従来の「所有するシステム」から「利用するシステム」にパラダイムが大きく変化してきており,中小企業の情報活動への有効性を確認することができた。(「4. 最近の企業情報システム」)これらの先行研究で明らかになった新たな観点を整理し,「5. 次世代企業間ネットワークの理論的枠組み」として新たな理論的枠組みに必要な要素を①異質で多様な主体による協働/協調②広域オープンネットワーク化(参加のプラットフォーム)③無形資産の結合資産・共有資産化(企業間ネットワークの進化1)④強み(中核資産)の連携(企業間ネットワークの進化2)として剔出した。一方,「第Ⅱ部 理論的枠組みの有効性-実態編」では,「6. 実態調査」において,先の理論的枠組みの新たな側面について,実際に存在する最近の企業間ネットワークや企業情報システム構築に関する9つの事例について実態調査を行い,理論的枠組みの効果や有効性についての確認を行った。なかでも,ファイブテックネット(東京都多摩市)のように,広域間ネットワークを構築してモジュール単位での生産分業を展開している事例やウィンク㈱(東京都台東区)のようにボランタリーチェーン方式で全国的な店舗展開を行い,商品の集中仕入や自社ブランドの開発を行っている事例がみられた。さらに2つのケースではソーシャルメディアを活用した商品の紹介や消費者の意見収集などの取り組みなどもはじめている。また,カールストルツ・エンドスコピー・ジャパン㈱では,オープンソースERPによる関連企業との企業間ネットワークについて,筆者自ら,その適合性の検証に参画する機会を得ることができた。これらの実態調査の結果から,中小企業においてもICT基盤を有効に活用したプラットフォームによって新たな企業間ネットワークを構築し始めており,自社の強みとなる経営資源を互いに提供しながら「競争優位の獲得」や「事業の継続性」を実現しようとする動きがみられた。さらに,「第Ⅲ部 考察」において,実態調査の結果から,中小企業においてもICT基盤を有効に活用したプラットフォームによって新たな企業間ネットワークを構築し始めており,自社の強みとなる経営資源を互いに提供しながら「競争優位の獲得」や「事業の継続性」を実現しようとする動きがみられた。また,理論的枠組みの有効性から,さらに一歩進んだ企業間ネットワークの将来的な展望について「あるべき姿」として整理した。筆者は,数年前まで新しいICTを活用した企業間ネットワークは,大企業でしか展開できないものと考えていたが,最近のICTの進化は激しく,さらに,それらを基盤としたプラットフォームの存在も多様化しており,これらのソリューションを提供するベンダーも多く,これらのソリューションは以前よりも身近なものになっており,大企業並みのプラットフォームを適用できる時期にあるのではなかろうか。
2013
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2018-01-02T17:18:43+09:00
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