Note (General)本論文は、「日本における歴史的価値を転用する街のイメージ形成の枠組み」と題し、以下の6章から構成される。第1章「序論」では、研究の背景と目的、研究の資料と分析の方法、および論文の構成と概要を位置づけるものである。本章ではまず、 本論文が既存の歴史的価値の転用による街のイメージ形成の枠組みを検討するものであり、それに際して江戸、京都という我国を 代表する歴史都市を転用の対象とすることの優位性、およびそうした転用を示す街の行政や観光協会により制作される観光パンフレットを資料とすることの妥当性を、イメージ形成の枠組みに関与するメディアの役割を論じることで位置づけている。そして、 資料とした街の価値の意味内容とその階層構造を捉えるとともに、それらを総合的に比較・検討することで、日本における歴史的価値の転用による街のイメージ形成の枠組みを明らかにすることが本論文の目的であることを述べている。第2章「江戸を転用する街の価値の意味内容」では、江戸という都市に関連する事柄を転用する街の観光パンフレットを資料に、 その言語表現から、街の価値を構成する要素である価値対象と、価値対象の歴史性を形容する歴史属性を抽出した。そして、資料 から複数抽出される価値対象の意味的な階層関係をモデル化し、それらの資料単位での集合をその内容から整理し江戸を転用する 街の価値の類型として位置づけた上で、言語表現に示される街全体の履歴との関係を検討した。その結果、江戸を転用する街の価 値の意味内容は、1つの価値対象を基点とした階層関係により集約的に構造化されるものと、複数の価値対象を基点とした階層関 係により分散的に構造化されるもので位置づけられ、特に価値の意味内容が集約的に構造化される資料において宿場町や城下町と いった近世との関連性の強い履歴が示される傾向にあることを明らかにした。第3章「京都を転用する街の価値の意味内容」では、京都という都市に関連する事柄を転用する街の観光パンフレットを資料に、 その言語表現から、街の価値を構成する要素である価値対象と、価値対象の歴史性を形容する歴史属性を抽出した。そして、資料 から複数抽出される価値対象の意味的な階層関係をモデル化し、それらの資料単位での集合をその内容から整理し京都を転用する 街の価値の類型として位置づけた上で、それらの資料単位での集合と、対象地の地理的な分布との関係を検討した。その結果、京 都を転用する街の価値の総体は、街全体の特性を示す要素を基点とした階層関係により構造化されるものと、街の空間を構成する 要素を基点とした階層関係により構造化されるもので位置づけられ、京都より東側に位置する資料は街全体の特性を示す要素が、 京都より西側に位置する資料は街の空間を構成する要素が、それぞれ階層関係の基点となる傾向を明らかにした。 第4章「歴史的価値を転用する街の価値の階層構造」では、第 2 章および第 3 章で得られた価値対象の意味的な階層関係を示す モデルについて、その階層構造の細分化に関する深度と集中の度合いを価値対象の結合の形式から位置づけた上で、それらの資料 単位での集合を検討した。その結果、歴史的価値を転用する街の価値の階層構造は、単一の場合と複数の場合の双方がみられ、さ らに複数の場合は主従と並列の2種の関係図式で捉えられることを示した。そして江戸を転用する街では京都を転用する街に比べ て、単一の階層構造では細分化の集中が、複数の階層構造では並列の関係図式がそれぞれ多い傾向にあることを明らかにした。第5章「歴史的価値を転用する街の価値の特性」では、第2章から第4章で得られた知見の比較から、江戸を転用する街と京都 を転用する街の双方に共通する内容および独自にみられる内容を検討した。その結果、双方の街の独自性を示す価値の内容は、江 戸を転用する街では空間や生活を基点とした階層関係により構造化されるもの、京都を転用する街では街全体の特性や周縁の自然 環境を基点とした階層関係により構造化されるものであり、これより双方の都市の転用におけるイメージ形成の枠組みの特徴とし て、江戸を転用する街では江戸の断片的な記憶を想起させる価値が街の中の具体的な要素と関連付けて示されるのに対し、京都を 転用する街では根拠が特定されない漠然とした歴史性を伴うイメージによって街を俯瞰的に捉える視点から価値が示されるという 対比的な傾向を明らかにした。第6章「結論」では、以上各章で得られた結果をまとめ、本論文で得られた知見を総括した。
identifier:oai:t2r2.star.titech.ac.jp:50404344
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2018-04-03T03:53:09+09:00
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