Title Transcriptionマントル ガンセキ ノ コウオン コウアツ ソウカンケイ ト クロムスピネルケイ コウブツ ノ コウアツテソウ テンイ ケッショウ カガク
Alternative TitleHigh-pressure high temperature phase relations of mantle-constituent rocks and high-pressure transitions and crystal chemistry of chromium-spinel minerals
Note (General)地球内部は高温高圧状態であり、そこで起こる複雑な対流によって、地球規模での物質循環が起きていることが現在では明らかになっている。その物質循環は、地震や火山の噴火など、私たちが住む地球表層にまで様々な影響を及ぼしている。そのため、地球深部物質を研究することは、地球内部を理解することに止まらず、自然災害のメカニズムの解明にもつながる重要なテーマの一つである。地球内部の構造は、地震波伝播速度の不連続な変化から地殻、マントル、核に分けられる。地球の大部分の体積を占めるマントルは、パイロライトと呼ばれるモデル岩石組成(Ringwood, 1975)で近似されるとする説が広く受け入れられている。地震波伝播速度分布に見られる不連続な変化によって、マントルは上部マントル、遷移層、下部マントル、D"層に区分されており、この地震波速度の不連続な変化は高温高圧条件でのパイロライト中の鉱物の高圧相転移によるとされている。この中で最も密度変化が大きい不連続面が、深さ660 km付近にある遷移層と下部マントルの境界面(660 km不連続面)である。この大きな密度変化により、沈み込むスラブや上昇するプリュームといったマントル物質の移動を妨げ、または促進する効果があるとされている。この660 km不連続面(圧力は約23 GPa)でのマントル物質の挙動がマントル全体の物質循環に大きく影響するため、それを解明することは重要である。また、マントルから上昇してきた超高圧変成岩を調べることでも、マントル内の物質循環を解明する一つの手がかりを得ることができる。最近、マントルの温度圧力条件でのみ安定な鉱物と共に高圧相を経たとされるクロムに富んだスピネル鉱物を主とするクロミタイトと呼ばれる岩石が発見され、マントル深部までの物質循環の挙動を解明する一つの指標となる可能性が提案されている(Yamamoto et al., 2009)。しかし、クロムスピネルの高圧相転移は詳細には明らかになっておらず、その相関係と高圧相の結晶構造を解明することは重要である。そこで本研究では、660 km不連続面付近の圧力温度条件において、マントル岩石として、平均的なマントル組成を表すパイロライト、沈み込むスラブのそれぞれ上部と中部を構成する中央海嶺玄武岩(MORB)とハルツバージャイトについての詳細な高圧相関係と各相の組成を調べた。それらの結果に基づいて、マントルの温度圧力条件でのそれらの岩石の密度を計算し比較した。またクロムスピネル鉱物の端成分であるFeCr2O4、MgCr2O4の高圧相転移を明らかにし、新規ポストスピネル相の結晶構造について研究を行った。これらの結果を基に、マントルにおけるスラブの沈み込みやプリューム上昇に伴う物質循環やクロミタイトの循環過程を議論した。1.660 km不連続面付近のパイロライト、MORB、ハルツバージャイトの高圧相転移パイロライト、MORB、ハルツバージャイトの相関係を20-28 GPa、1600~2200℃の範囲で、マルチセル法を用いて決定した。マルチセル法は、2~4つの異なる試料を同じカプセルに入れ、同一の圧力温度条件下に置くことにより、異なる試料間で相関係や組成を精密に比較できる方法である(Ishii et al., 2011)。マントル岩石に関する従来の多くの研究(総説としてIrifune and Tsuchiya, 2007)と異なる点は、2200℃に及ぶ高温領域までと従来より低圧側まで、マルチセル法で精密な比較を行ったことである。パイロライトでは、リングウッダイト(Rw)が約1700℃以上でガーネット(Gt)とマグネシオウスタイト(Mw)に分解しはじめ、約2100℃以上ではRwが消失しGt + Mwへと変化すること、Gt + Mwの安定領域が従来の研究よりも遥かに低い圧力の遷移層にまで広がっており、遷移層の鉱物量比は温度の上昇とともにGt量が増加することも明らかになった(Fig. 1)。さらに、660 km不連続面を形成する支配的な相転移が約2050℃以下ではポストスピネル転移であり、それ以上の温度ではポストガーネット転移であることが示された。この深さでのホットプリュームの温度が1800~2000℃程度であるとすると、ホットプリューム内ではポストスピネル転移が支配的であり、660 km不連続面の凸凹をポストガーネット転移によって説明することが困難であることが示唆される。従来の研究で詳しく調べられていなかったハルツバージャイトの相転移・密度をパイロライトのそれと比較すると、ポストスピネル転移では、ハルツバージャイトの方が1600℃でより転移圧力が高く、転移境界線のdP/dT勾配はより急な負の値になった。Fig. 2に1600℃におけるパイロライト、MORB、ハルツバージャイトの密度を比較する。23 GPa以下の遷移層内ではFig. 2. Density changes with pressure for pyrolite, MORB and harzburgite at 1600°C.Fig. 1. Temperature dependence of mineral proportions in pyrolite at 22 GPa.MORB、ハルツバージャイトの方がパイロライトより高密度だが、パイロライトのポストスピネル転移によりこの密度関係は逆転する。下部マントルでは、MORBのポストガーネット転移が起こることで、MORBはパイロライトよりも高密度となるがハルツバージャイトは低密度のままである。これらの結果から、MORBとハルツバージャイトがスラブから分離するならば、遷移層内にハルツバージャイトが堆積し、分離しないならば、それらが下部マントルまで沈下することが示唆される。2.FeCr2O4、MgCr2O4の高圧相転移とAB2O4ポストスピネル化合物の結晶化学クロムスピネル系鉱物の主要な端成分であるFeCr2O4とMgCr2O4の高温高圧相転移を、12-28 GPa、800-1600℃の範囲で決定した。また新規相については結晶構造解析を行ってRietveld法で精密化し、一部の試料については透過型電子顕微鏡(TEM)による微細構造の観察も行った。スピネル型のFeCr2O4とMgCr2O4は、どちらも約12-16 GPaでCr2O3+A2Cr2O5(A=Mg, Fe)に分解し、20 GPa付近でCaTi2O4(CT)型またはCaFe2O4(CF)型ACr2O4(A=Mg, Fe)に転移することが明らかになった。従来、スピネル型AB2O4は高圧下でCF型、CT型またはCaMn2O4型に転移するとされていたが(Ringwood, 1975)、FeCr2O4とMgCr2O4では分解相を経て、CF型やCT型に転移することが明らかになった。FeCr2O4では、3つの新規ポストスピネル相(CT型及びmodified CaFe2O4(mCF)型FeCr2O4、modified ludwigite(mLd)型Fe2Cr2O5)の構造解析に成功した。特にmCF型FeCr2O4はこれまで報告例のない新規構造であり、CF型構造のAイオンをb軸方向に約半周期シフトさせた構造である。FeCr2O4の高温高圧下その場観察実験の結果から、高圧下ではCF型構造であり、減圧過程でmCF型構造へ相転移することが示された。MgCr2O4では、2つの新規ポストスピネル相(CT型MgCr2O4、mLd型Mg2Cr2O5)の構造解析に成功した。Mg2Cr2O5はTEMにより微細構造の観察も行った。その結果、制限視野電子線回折パターンにはa軸方向に沿って[110]方向に分裂したスポットが観測された。a*-b*面の高分解能TEM像の観察から、mLd構造とa軸方向が2倍になった超格子構造の領域が存在し、後者は4つの単位格子が1つのユニットとなりユニット間に反位相境界を形成し、それが規則的に配列することで長距離規則(LRO)構造を形成することが分かった。そしてこのLRO構造により、電子線回折パターンの分裂が起こったことが分かった。上記2つのクロムスピネル端成分鉱物の高温高圧相関係から、マントル深部からCT型またはCF型(Mg,Fe)Cr2O4が上昇する場合、mLd型(Mg,Fe)2Cr2O5 + Cr2O3混合相に分解することが考えられ、天然のクロミタイト中でこれらの相が発見されていないことから、クロミタイトがマントルを循環する範囲は、上部マントル中部より浅い領域(約12 GPa以下)までであると結論される。また、A2+B3+2O4ポスト
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Date Accepted (W3CDTF)2018-06-04T01:14:06+09:00
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