Note (General)第1章の「緒論」では本論文の研究分野である、フッ素樹脂コーティング、シリコーン樹脂コーティング、有機無機ハイブリッドコーティング、色素増感太陽電池の概要、これまでの研究例、現在の動向について述べた。 第2章「低温焼成フッ素樹脂コーティング膜の物性と耐摩耗性に及ぼす焼成温度の影響」では、低温焼成フッ素樹脂塗料を用いて焼成温度を変えたコーティング膜を作製し、コーティング膜の物性と耐摩耗性についてまとめた。焼成温度が高いほど、コーティング膜の鉛筆硬度、非粘着性、耐摩耗性が良好であることを明らかにした。全反射フーリエ変換赤外分光とX線光電子分光分析により、耐摩耗試験における未摺動部と摺動部を分析した結果、摺動部ではフッ素樹脂の減少を確認し、コーティング膜の劣化メカニズムを明確にした。 第3章の「有機・無機ハイブリッドコーティングの特性に及ぼす焼成温度の影響」では、メチルトリメトキシシランの加水分解と縮合反応により得られる有機・無機ハイブリッドコーティング膜を作製し、コーティング膜の物性と耐摩耗性における焼成温度の影響についてまとめた。コーティング膜の鉛筆硬度、水の接触角及びテープ剥離荷重は80,150,200,250℃の各焼成温度においてほぼ同じ値となったが、耐摩耗性については焼成温度が高いほど良好な結果となることを明らかにした。全反射フーリエ変換赤外分光により、耐摩耗試験における未摺動部と摺動部を分析した結果、摺動部ではSi-CH3の減少を確認し、コーティング膜の劣化メカニズムを明確にした。 第4章の「有機・無機ポリマーハイブリッドコーティング膜の作製と特性評価」では、メチルトリメトキシシランを出発原料としたセラミックコーティング塗料にポリ(N-ビニルピロリドン)を添加して、有機-無機ポリマーハイブリッドコーティング膜を作製した。表面粗さ分析と表面観察より、表面に凹凸の多い特異的な形状になることがわかり、撥水性が向上することを明らかにした。全反射フーリエ変換赤外分光とX線光電子分光にてコーティング膜を分析した結果、メチル基を含むシロキサン(Si-O-Si)とポリ(N-ビニルピロリドン)がハイブリッド化して有機・無機ポリマーハイブリッドコーティング膜になっていることを確認し、コーティング膜の設計指針を得た。 第5章の「色素増感太陽電池色素の共吸着剤の物質と効果」では、D908色素を用いた色素増感太陽電池の光起電力性能において、共吸着剤としてのマロン酸誘導体と酢酸誘導体の効果を調べた。フェニルマロン酸(PMA)またはシクロペンチル酢酸(CPEAA)を共吸着させると、色素の吸着量は減少したが、太陽電池の光電流と光電圧が向上すること明確にした。全反射フーリエ変換赤外分光スペクトルよりPMAまたはCPEAAの共吸着がチタニア表面に結合した色素の量を増加させること、電気化学インピーダンスよりPMAまたはCPEAAの共吸着が逆電子移動抵抗R2を増加させ、電解液の拡散抵抗R3を減少させることを確認し、共吸着剤の分子設計指針を得た。 第6章の「色素増感太陽電池電解液の高性能化」では、色素増感太陽電池のチタニア負極と界面を接する電解液の電解質と溶媒の高性能化について述べた。第1節では、電解液中の1,3-アルキルイミダゾリウムヨージドの効果について調べた。ヨウ化リチウムと1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドの組み合わせで、光電変換効率は8.6%と、1-メチル-3プロピルイミダゾリウムヨージドと1-ブチル-2-メチルイミダゾリウムヨージドを使用した電解液よりも高い値になることを見出し、インピーダンス測定により、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドは逆電子移動抵抗を増加させ、チタニアからのリーク電流を抑制することを明確にした。第2節では、電解液の溶媒として大気圧での沸点が200℃以上である5種類の含窒素ヘテロ環化合物を選択して性能を調べた。沸点270℃の3-メチル-2-オキサゾリドンを用いた場合に光電変換効率は7.0%と最も高い値を示すことを明らかにした。また、-24.4℃と低い融点を有するN-メチルピロリドンに高い比誘電率を有するN-メチルホルムアミドを容量比1:1で添加した場合、光電変換効率は5.0%から6.5%まで向上することを確認し、実用可能性を示唆した。 第7章の「色素増感太陽電池負極材料の高性能化」では、カーボンナノチューブをテンプレートとして合成した、新しい材料であるチタニアナノチューブを合成し、チタニアナノ粒子に2重量%添加した負極を用いることにより、5mm角の小型セルで変換効率10.4%を達成した。チタニアナノチューブの添加により、チタニア負極内の電子の移動を促進して電子の漏れを防止し、電解液のイオン移動を促進して電子の受け渡しをしやすくし、短絡電流密度とフィルファクターを向上させることを考察し、チタニア負極材料の設計指針を得た。 第8章では結言として、本論文の総括を述べた。 以上、有機・無機コーティングの応用分野である、フッ素樹脂コーティング、有機・無機ハイブリッドコーティング、色素増感太陽電池の3つの分野について、製造プロセスの最適化や添加材よる性能向上の指針と、耐久性評価による劣化メカニズムを明らかにした。
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Date Accepted (W3CDTF)2020-07-06T20:31:19+09:00
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