Note (General)私たちの生活の中で樹脂材料は多用されている。近年では、研究によりその強度は向上し、構造材料にも利用されている。しかし一般に樹脂材料は金属やセラミックスといった他の材料に比べて、光、熱、湿度など自然環境の影響を受けやすく劣化しやすい傾向にある。材料形成時においては十分その用途を満たすものであっても劣化によって急激に強度が低下したり少しずつ劣化して機能が失われたりして思わぬアクシデントになる場合がある。 したがってその強度を予測することは重要である。樹脂の強度予測に関しては、以前より様々な研究が行われており樹脂材料の寿命予測がなされているが、実際の強度試験では非常に時間がかかること、サンプル形状が違えば劣化箇所も異なるために再度別のサンプル試験を行う必要があることなどから十分とは言えず、サンプリングが比較的簡易で、寿命を適切に見極め可能な評価手法が必要とされている。そこで、情報も多く、比較的身近にあり、測定が簡便な分析評価機器であるFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)に注目した。FT-IRが、多くの高分子分析に利用されていること、近年,1回反射ATR(Attenuated total reflection)法の開発によってさらに測定が容易になり測定者を選ばない結果が得られるようになったこと、可視化技術の向上によって結果が一目で理解できるようになったことは、煩雑な製品を評価する上で大きな利点となる。そこで、本研究では、FT-IRを用いて、ポリエチレンに関して、簡便で結果のわかりやすい劣化評価法の確立に取り組んだ。 第1章では,本研究の着想にいたる経緯など研究の背景に関して述べている。本研究の目的と意義、FT-IRのFT-IRの特徴などの既知の知見を調査し、本論文の構成について記述した。 第2章では、FT-IRイメージング法を使用し、120℃熱劣化促進ポリエチレンの熱劣化機構を評価し、その過程を可視化した。劣化過程を酸化防止剤量、酸化状態、配向および結晶化の4因子で可視化し、比較することによって、状態変化が容易に理解でき、力学強度試験結果と構造変化との関連性が明確になった。熱劣化は、配向が緩和し、酸化防止剤が減少することから始まった。その後、酸化は表面から始まり、酸化速度は表面では速いが、成形体内部では遅いことがわかった。また、酸化が進行してくると、それに伴って、力学強度も大きく変化することがわかった。酸化劣化のパラメータとしては、カルボニル基のみならず、カルボニル基中の酸およびアルデヒドタイプのピークおよび1600 cm-1領域のピークを比較評価することによって劣化機構を追跡できることがわかった。 第3章では、温水劣化と熱劣化による劣化比較を行った。温水および大気放置試験片はいずれも放置時間の増加と共に表面形状に変化が見られ、試験片の色に変化があった。さらにFT-IRイメージング法およびSEM-EDS測定で可視化することによって、温水劣化部は、表面にC2O42-に起因する官能基が存在し、表面近傍に-R-COO- 層が存在ることがわかった。また、表面にFeイオン、表面近傍にCaイオンの分布が確認され、C2O42- はクラック表面部分では特に多く存在していることを明らかにした。 第4章では、第2章および第3章のFT-IRイメージング測定では明確な差が確認できないサンプルに関しての知見得ること、および劣化評価を短時間にするために、加熱ATR法を用いた評価法を確立した。常温FT-IR測定では差がわからなかったサンプルは、加熱ATR-IR法で酸化時間を比較することにより明確な差が確認できた。DSCを用いたOIT測定結果とも良い相関が得られた。加熱ATR-IR法では、酸化開始時間測定と同時にその構造変化スペクトルが確認されるため、測定温度における構造変化の追跡が可能であることがわかった。 第5章では、加熱ATR法およびイメージング法を用いて、成形体の酸化時間予測を行った。FT-IRのATR法で100℃、200℃、210℃、および220℃での酸化開始時間を求めることによって、見かけの活性化エネルギーおよび実用温度での表面酸化までの時間を求めた。さらに100℃での断面酸化速度をFT-IRのイメージング法で可視化しながら求め、見かけの活性化エネルギーを一定とすることで実用温度の速度定数を計算し、断面厚みの1/3が酸化劣化する時間を求めた。この結果は、引張試験の破断伸びが50%になる時間と近い値になっていることが確認できた。 第6章では、前処理なしに簡便に測定可能な近赤外分光法を用いて、力学試験結果との相関を考察した。近赤外域の分光法を用いた場合、中赤外域の光よりもエネルギーが高いことから、サンプルへの透過性が大きくなる。したがって、多くの高分子成形体をそのままの状態で測定できる。一方、近赤外分光法でのスペクトル情報は中赤外域の倍音であり、非常に弱いため、そのもののスペクトル解析で得られる情報は中赤外スペクトルほど多くはない。そこで多変量解析法を用いた測定を行い、熱劣化では力学試験と良い相関を示すことが確認された。 第7章では、得られた知見を総括し本研究の結論とした。
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2020-07-06T20:31:19+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション