Alternative Title電子移動反応を用いた有機化合物の還元法とその有機合成への応用
Note (General)本論文序論第1章に続く第2章から第5章においては、その高い還元電位のためにこれまで電極還元することが困難であった脂肪族エステル、脂肪族アミド、クロロシラン類、クロロゲルマン類などの有機化合物の電極還元を可能とするマグネシウム電極を用いた電極還元法について述べている。通常電極反応では、電極の役割は電子のドナーもしくはアクセプターであり、反応試薬として反応に関与しないが、申請者が見出したマグネシウム電極を用いる電極還元法では、電極は電子のドナーもしくはアクセプターとして働くだけでなく、反応試薬としても作用する。 上述のマグネシウム電極を用いた電極還元法を用いることにより、様々な反応を見出し、代表例として脂肪族エステル、脂肪族アミドを、プロトン源としてt-ブタノール存在下に還元することにより、対応する1級アルコール、アルデヒドを、またアプロティック条件下では1,2-ジケトン、アシロイン縮合物、ならびに他の特異なカップリング化合物を得た。また、クロロシラン類ならびにクロロゲルマン類を電極還元した場合には、機能性ポリマーとして知られているポリシラン、ポリゲルマン、シランゲルマンコポリマーの合成に成功した。 本論文第6章ではポリシランの実用的製法について述べている。申請者は上記電極反応を用いたポリシランの工業化検討を通じて、還元剤として取扱い容易な粒状の金属マグネシウム、触媒として塩化リチウムと塩化亜鉛などのルイス酸触媒、溶媒としてテトラヒドロフランを用いることにより、汎用の化学反応装置を用いて室温程度の温度条件で撹拌するのみでポリシランを合成できる製法を見出した。さらに本反応の反応機構解析を行い、シリルアニオンを活性種とするアニオン機構で進行していると考えるのが妥当であるという結論に至った。本製法を用いることにより様々なタイプのポリシランを合成できることを見出した。本成果を活用してポリシランを工業生産することに成功し、大阪ガスケミカル株式会社にて2001年以降ポリシランを工業生産するに至り、工業的にも学術的にも有意義である。 本論文第7章では、前章で得られたポリシランを用いる用途開発研究について述べている。都市ガス導管に幅広く用いられているポリエチレン管の接合には、融着界面に通電して溶融接合させるEF継手が主に用いられている。屋外で融着作業を行う場合、融着界面に砂などの異物が付着することがあり、融着強度の低下を招く可能性のあることが知られている。本章ではポリシランを融着界面にコーティングすることにより、砂が付着した場合においても融着強度の低下を抑制できることを見出した。また、その機構解明を行った結果、ポリシランがポリエチレン層深くにまで浸透しており、ポリエチレンと相溶することによりポリエチレンの溶融粘度を低下させていることがわかった。その結果、融着界面に砂などの異物が存在した場合であっても空隙を埋め、融着強度の低下を抑制しているものと考えらえる。本成果はポリシランの独創的な新用途として期待される。
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2020-07-06T20:31:19+09:00
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