Note (General)ポリ乳酸は生分解性を有する材料として広く知られており、分子量が10万を超える種々のグレードの製品が既に工業的に製造されている。また、高い生体適合性を有することから人口骨や縫合糸にも用いられている。これらは開環重合や直接重縮合を経て、直鎖状ポリマーにより構成されている。この直鎖状のポリ乳酸については、数多くの研究がなされているが、環状物のオリゴマーに関する研究は多くない。医学分野においては、一般に14から16量体の環状エステルは抗生物質として作用する物があることが知られており、特に環状オリゴ乳酸は抗がん作用を有するという説があるが、この臨床的研究では、環状オリゴ乳酸と直鎖オリゴ乳酸の混合物が使用されている。一方、環状化合物には、ホスト分子として特定のゲスト分子を包接する機能を持つものがある。クラウンエーテル、シクロデキストリンなどは、その中心的な存在であり、例えば、シクロデキストリンの内部は6~10Åほどの空孔になっており、疎水基を内側に向けた構造となっているため、疎水性の分子を包接しやすい。 環状オリゴ乳酸はクラウンエーテルと類似した構造を有しており、包接機能を有する可能性が高く、生体内での物質輸送への影響も考えられることから、本研究では環状オリゴ乳酸と金属イオンとの相互作用解明のため、ポリ乳酸からの環状オリゴ乳酸の簡便な単離方法、環状物が重合に及ぼす影響、溶媒中でのアルカリ金属イオンとの相互作用につき検討を行った。 無触媒における直接重縮合により生成されたポリ-L-乳酸(PLLA)について、詳細に分析を行った。1H NMR質量分析の結果、PLLAは3~20量体の環状物を含むことがわかった。さらに、それらの環状物は低温(4℃)において、ヘキサン、シクロヘキサンで抽出、単離が可能であることを見出した。疎水性、トポロジー、抽出時の温度が環状オリゴ乳酸の選択的抽出に大きな影響を及ぼしている可能性がある。また、環状オリゴ乳酸には末端が存在しないにも関わらず、質量分析において容易にイオン化されることから、環内にイオンを取り込んでいる可能性が高く、環状物が直接重縮合に一定の影響を及ぼしている可能性もあると考える。 さらに、環状オリゴ-L-乳酸(c-OLLA)および、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを含むアルカリ金属イオンの相互作用について、検討を行った。PLLAから抽出された、重合度21以下のc-OLLAと、アルカリ金属イオン存在下でESI-MS、MALDI-MSによる分析を実施した結果、両者は、溶液中において、比較的強い相互作用を有することが明らかとなった。一方、溶液の存在しないバルク状態での解析である、MALDI-MS分析においては、相互作用を確認することはできなかった。ESI-MSによる分析から、c-OLLAはナトリウムイオンを含む各種イオンとの相互作用により、溶液中でイオンを内側に包接している可能性が高いことがわかった。さらに、水およびクロロホルムを溶媒として値板、液‐液イオン輸送試験からも、PLLAと比較しc-OLLAは高いイオン輸送性能を有していることが確認でき、強い相互作用の存在を示唆する結果が得られた。環状オリゴ乳酸はポリ乳酸同様、高い生体適合性と生分解性を有すことから、人体へも適用可能な新たなホスト分子の役割も期待できる。
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Date Accepted (W3CDTF)2020-07-06T20:31:19+09:00
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