Alternative TitleRequired Conditions in which Dawn Simulation Brings Better Awakening and Daytime Activity
Note (General)現代社会における睡眠問題のひとつに起床時の困難性があげられ,健常者であっても目覚めが良好とは限らず,子どもについても例外ではない.起床時の目覚め感を改善する一手段として,起床前から光を微弱に点灯させ始め,起床時に最大出力となる起床前漸増光(DS:Dawn Simulation)という照明制御手法があり,健常者の目覚め感の改善が報告されている.しかし,先行研究によってDSの光に関する要件が異なり,ヒトが受光する光量や受光中の睡眠状態を考慮した研究は少ない.また,季節性感情障害患者と比べて健常者についての知見は限定的で,とりわけ子どもへの影響,DSの影響がより明瞭にみられる属性についての研究は少ない.そこで本研究では,これら未解明のDSを受光するヒトにかかわる要件について検討した. まず,DS受光時の要件について,DSによって起床前に受光する光量と起床前の睡眠状態とに着目し,それらが起床時の主観的な眠気におよぼす影響について,20名の若年成人男性を対象として終夜睡眠実験により評価した.評価項目はPSG(Polysomnography;睡眠ポリグラフィ)による睡眠段階とOSA睡眠感調査票による起床時の主観的な眠気(OSAⅠ起床時眠気スコア)とし,DSの受光量は1秒毎の寝姿勢から推算した.起床時刻30分前から徐々に光の出力を増加させる漸増光条件(DS条件)と漸増光のない条件(No-DS条件)の2つを比較した.その結果,起床前の受光量が多い群(30分間の受光量が4[log (lx)・1/2 (hour)]以上)ではDSによって眠気が低減する傾向にあるが,受光量の少ない群では条件間に有意差はみられなかった.また,起床直前の睡眠状態がNREM睡眠の群ではDSで眠気が低減されたが,REM睡眠Phasic期(急速眼球運動が頻回に発生している睡眠期)から起床した群では,条件間に有意差はみられなかった.REM睡眠Phasic期から起床した被験者を除くと,漸増光の受光量とOSAⅠ起床時眠気スコアとの間に相関関係がみられ,受光量が多いほど眠気が低減することが示された.以上の結果から,起床時の眠気を低減させるためのDS受光時の要件として,十分な起床前漸増光の受光に加えREM睡眠Phasic期ではない睡眠状態からの起床が必要であることが示唆された. 次に,DSの小学生への影響を検討した.事前に同意を得た小学生33名を対象にDSが起床時や日中の気分におよぼす影響を評価した.LED天井照明を用い,起床時刻30分前から徐々に光の出力を増加させるDS条件とDSのないNo-DS条件の2条件で,連続して一週間同じ条件を2回実施し,計4週間,評価用紙への記入とミニテストを平日に毎日実施した.加えて保護者に子どもの機嫌や起床方法の評価を依頼した.その結果,DS条件で起床時気分や午後の集中感等の有意な向上が,ミニテストの成績が高い値を示す傾向が,保護者からみた子どもの機嫌や自立起床割合の有意な改善が示された.それらの改善は利用開始4日目以降にみられた.以上の結果から,DSの習慣的な利用によって,小学生の起床時気分に加え日中の気分や集中感が向上すること,起床後のパフォーマンス向上や自立起床を促す可能性が示唆された. 続いて,DSの影響と生活習慣との関係についても検討した.実験参加前に同意の得られた146名の健康な男女(81名の小学生;3年生~6年生),17名の大学生,48名の大人;30~50歳)を対象に,被験者宅においてDS条件とNo-DS条件の2条件を実施し,1条件につき平日に連続して5日間評価した.実験開始前に普段の生活習慣(睡眠時間など)に関する調査票の記入を依頼し,実験期間中には主観的な眠気や集中感などを日々評価した.被験者毎に各条件の主観評価値の中央値を求めて比較し,主観評価の項目毎に,改善した被験者をPositive群,それ以外をNon-positive群として,実験前に取得した生活習慣を群間で比較した.その結果, Positive群は,普段の起床時刻が早く,普段の睡眠時間が短く,運動習慣を有しない被験者比率が大きいことが示された.これらの結果から,起床前漸増光の影響は,相対的に良好でない生活習慣をもつ被験者に対してより明瞭となることが示唆された. 起床前漸増光がより良い目覚めと日中の活動をもたらす要件について,未解明の部分が残されてはいるが,本研究で明らかにできたDSを受光するヒトにかかわる要件として,DS受光時の要件では,起床時の目覚めを良好にするために,十分な漸増光の受光に加え起床前の睡眠状態がREM睡眠Phasic期を避ける必要性が示唆され,DSの影響と属性との関係については,習慣的な使用によって子どもに対し良好な影響をもたらすことが示唆され,大人まで年齢層を拡大すると,相対的に良好でない睡眠習慣を有する人々に対して,DSの影響がより明瞭となることが示唆された.これらの要件の活用によって,ひとつは起床前の生体情報と連動することで不適切な睡眠状態からの起床を避け,かつ十分に起床前漸増光を受光すると,1回の使用であっても健常者の目覚め感を改善できる可能性が考えられる.加えて,もうひとつの要件である子どもへの影響ならびに属性に関する要件については,本知見を活用することによって,確かな科学的裏付をもって啓発活動を推進し,漸増光の恩恵を社会に普及させて子どもの睡眠を守ることに貢献できるという展望が得られる.いずれの知見に関しても,起床時の眠気低減や気分改善にとどまらず,習慣的使用によって日中の活動を良好にし,睡眠の質向上につながり,ひいては生活の質の向上が期待できるため,社会の維持発展に貢献する研究成果であると考える.
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2020-10-06T21:18:06+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション