Alternative TitleStudy on the formation process of landscape in Kyoto
Note (General)本論文は、景観は人々の思想に基づく生活や活動の結果が表層として現れたものであるという観点から、京都の景観の価値付けの実態を構造的に研究するものである。本論文では、特定の関係者が時代の要請や彼らの属性を踏まえ景観の「価値」、即ち目標となる景観を定めることを「価値付け」という。 前述の通り、景観は人為的作用の表層でしかなく、今後、これらの景観を守っていくにはその形成過程の構造を把握し、その上での保全計画が必要となってくる。現在のような表面的な景観のみを捉えた方針では対応しきれず、今、新たな視点での景観対策が求められていると考える。 では今後どのような景観対策が成し得るか。本論文ではその課題を明らかにするために、2つの手法により京都における価値付けの実態を分析する。 ひとつは都市全体に作用し得る景観の要素による分析であり、第1部で取り上げる。都市の様々な場所をひとつの媒体によって横断的に読みとこうという試みである。そして、その媒体として京都の代表的な植栽景観であるサクラの景観を取り上げた。もうひとつは都市における生活や生業に焦点をあてた分析であり、第2部で論じる。その対象として、近世から京都の食を支えてきた市場としても有名な錦市場を取り上げた。 本論文は序論、5章からなる第1部、5章からなる第2部の二部構成による本論、結論により構成される。 第1部では京都のサクラ景観の形成過程の構造を解明する。 第1章では、分析の対象となるサクラを提示し、類型化を行った。 第2章では、「風致」の概念に注目が集まる戦前期の京都中心部のサクラを対象に、その景観形成を分析した。その際、京都府や京都市所蔵の植樹に関する一次史料を用いることで、京都市内全体のサクラの実態、すなわち、どの主体が、どのような意図をもって、どの空間に桜景観を現出させたのかをより厳密に明らかにした。また、都市史の観点からサクラが植樹される過程を都市全体の動きとして捉えることによって景観形成の文脈としてのサクラの植樹を論じた。 第3章では、戦後期の京都中心部のサクラの植樹過程を分析した。その際、戦後期は「価値付け」により景観が形成されたと仮定した。その上で、計画が企画されてから実施されるまでの過程で作成された資料から、価値付けを行う機関・関係者の属性、彼らの目標とする景観、そして時代の要請の3点を明らかにし、どのような人為的作用によって景観が成り立っているのかを解明した。 第4章では、戦後期の嵐山のサクラが分析の対象である。京都中心部のサクラ植樹の動きとも合わせて、嵐山における価値づけの実態を解明した。 第5章では、以上で明らかとなった京都のサクラ景観の形成過程を図示し、その構造を示した。 第2部は、第2部では食にまつわる場として錦市場を取り上げ、文化的景観という考え方により、京都の生業により形成された景観を分析した。 第1章では、錦市場の現状と現在の錦市場に対するイメージを提示した。 第2章では、魚問屋の特権制度が廃止されて以降の錦市場の空間的、組織的構成を解明した。 第3章では、昭和2年に京都市中央卸売市場が開設したことにより、錦市場の空間的、組織的構成がどのように変化したのかを生業に即して分析した。錦市場は問屋と仲買の移転により小売市場と転身するが、このことが錦市場を構成する空間や組織へも影響を与えたことを考察した。 第4章では、百貨店の誕生により、これに対抗するため小売市場において「横のデパート」化が目論まれ、アーケードの建設が進んだことを、当時の商店街に関する研究や新聞記事などにより裏付けた。その上で、錦市場でも同市場組織が「横のデパート」という価値付けにより空間構成を変化させたことを明らかにした。 第5章では、錦市場が旅行雑誌により価値付けされ、受動的に観光地化していく様子を旅行雑誌『るるぶ』により考察した。また、錦市場による主体的な価値付けも分析するため、伊藤若冲のブランディングについて考察を行った。 第6章では、前章までの成果をまとめ、錦市場の今後の景観対策について考察した。 以上の考察の結果をまとめ、結論としている。
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2020-10-06T21:18:06+09:00
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