Alternative TitleVisual Behavior and Performance in Volleyball
Note (General)本研究では,迅速な視線の切り替えが求められるバレーボールにおいて,知覚-運動スキルを定量的に評価することを目的とした.そのために,まず基礎的研究として,これまで視線計測が困難であった移動およびジャンプを伴う状況において実運動中の視覚探索活動の特性を明らかにした上で,応用的研究としてウェアラブルカメラを用いて安価で簡便な視線推定法を提案するとともに,最終的にバレーボールのブロックにおいて視覚探索活動とステップ動作の同時計測による知覚-運動スキルの定量的評価を行った.第1章では,スポーツ場面およびバレーボールにおける視覚探索活動の研究など,本研究の背景となる事柄をまとめた. 第2章では,バレーボールにおける知覚-運動スキル研究の基礎的研究として,これまで視線データの採取が困難であった移動およびジャンプを伴う,かつ対象物が動く状況に着目し,大学女子バレーボール部員を対象に4対4のミニゲームを実施した.実験参加者1名の53ケースにおける視線移動推移について類型化および定量化を行った.その結果,類型化では,ボール接触無の場合,ボールを受ける場合,ボールを出す場合の3つに大別され,定量化では,送り手からボールへの視線移動開始には,ボール接触の有無に関わらず,ある一定のタイミングが存在すること,受け手への視線移動開始はボールの頂点付近で開始されることが明らかとなり,移動およびジャンプを伴う状況において初めて実運動中の視覚探索活動を評価することができた. 第3章では,第2章の応用的研究として,従来の高価な眼球運動測定装置を用いずにウェアラブルカメラだけで視線を推定する手法の提案を行った.バレーボールのブロックを題材として,ウェアラブルカメラを用いたシミュレーション実験において視線推定のための判断基準を抽出し(実験1),その基準の有効性を検証した上で(実験2),同カメラを用いたフィールド実験において視線移動パターンおよび時刻の技量差の検討を行った(実験3).実験1・2の結果から,ボール追従時間およびスパイカー注視初発時間は眼球運動測定装置を用いなくとも,ウェアラブルカメラによって簡便に推定できることが検証された.また実験3の結果から,視線移動パターンは「ボール追従型」と「視線切替型」に分類され,技量による違いが確認されたものの,ボール追従時間およびスパイカー注視初発時間については技量による違いは検出できなかった. 第4章では,第2章の発展的研究として,バレーボールのブロックにおける視覚探索活動とステップ動作のデータを同時に収集し,異なる技量レベル間で定量的に評価した.その結果,熟練者はセッターに視線を移動させた後,トスインパクト直前までは動き出さずにセッターの顔・顔付近に視線を配置し,その後トスインパクト直前にトスインパクト予測位置,すなわちトスの出所へ視線を移動させ,予備ステップを開始していた.一方,経験者はトスの出所に終始視線を置いていた割合が高く,トスインパクト直前まで待ち切れず,トス方向を予測するというより憶測で動き出していた.これらのことから,熟練者はトス方向を判断するための知覚を優先させているが,経験者は動き出すための運動を優先させている可能性が高いことが示唆された. これらの研究を通して,知覚-運動スキルの定量的評価に役立つ知見を得ることができた.移動およびジャンプを伴うゲーム場面での視覚探索活動が評価可能であることを検証できた点は,今後,本来の(in situ)環境での検討が求められる知覚-運動スキル研究に有用であると考えられる.また,手間のかからないデータ採取を望む,かつ高価な眼球運動測定装置の購入が困難な指導現場には,ウェアラブルカメラを用いた簡便な視線推定法が未熟練者のフィードバック用のツールとして役立つと考えられる.さらに,熟練者は知覚を優先させていることが明らかとなったことから,「見てから動け」という熟練者の経験的な感覚に基づく指導の客観性を得ることができた.今後,知覚を優先させる指導の有効性を検証するとともに,知覚-運動スキルの観点から複合的な研究および指導を深め,現場のコーチングに活きる真に有用な知見を蓄積していく必要がある.
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2021-05-20T03:24:30+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション