Note (General)本研究は、涙液層の不安定化による眼疾患の機構解明と治療に関するものである。ドライアイは多因子性疾患であり、世界中で多くの患者が存在することから一般的な眼疾患として認識されている。治療薬について、投薬期間が長いことからアドヒアランスの低下を招きやすく、より効果的な治療薬の開発が望まれている。ドライアイの原因として涙液の過度な蒸散に伴う乾燥ストレスや高浸透圧ストレスが挙げられ、これらが酸化ストレスを誘導すると報告されていることから酸化ストレスとドライアイ発症の密接な関係が示されている。一方でドライアイの罹患率は年齢と共に増加することから、加齢に伴う疾患であるとも考えられている。酸化ストレスが関与する生命現象として老化があり、ドライアイの発症にも関連していることが考えられることから、乾燥ストレスにより生じる酸化ストレスが、 p21、 p53 及び p16 といった老化関連因子の遺伝子発現亢進を誘導するのではないかと仮説を立てた。この仮説に基づき、 in vitro ドライアイモデルを用いて乾燥ストレスが酸化ストレスや老化関連因子に及ぼす影響を評価した。その結果、乾燥ストレスにより細胞内 related oxygen species (ROS) 量が増加し、老化関連因子の遺伝子発現が亢進することを確認した。続いて抗酸化物質が酸化ストレスの増加を抑制することで老化関連因子の遺伝子発現亢進を抑制しドライアイ治療薬になり得るとの仮説を立て、 in vitro ドライアイモデルを用いて抗酸化剤であるAstaxanthin (Asx) を含有したリポソーム製剤が細胞内ROS量及び老化関連因子の遺伝子発現に及ぼす影響について評価した。その結果、細胞内ROS量の増加及び老化関連因子の遺伝子発現亢進はAsx含有リポソーム製剤処理により抑制され、わずかに正に荷電したリポソーム製剤は中性リポソーム製剤に対し細胞親和性が高くより効果的であった。更に in vivo ラットドライアイモデルを用いて、乾燥ストレスと点状表層角膜症並びに老化関連因子の関係について評価し、抗酸化剤のドライアイ治療薬としての可能性について検証を行った。その結果、点状表層角膜症の悪化に伴う老化関連因子の遺伝子発現亢進を認めた。Asx含有リポソーム点眼製剤反復投与を行った結果,点状表層角膜症の悪化及び老化関連因子の遺伝子発現亢進が抑制された。 In vivo ラットドライアイモデルにおいても、正荷電Asx含有リポソーム製剤で高いドライアイ予防効果を確認した。正荷電Asx含有リポソーム製剤は細胞との親和性が高く、角膜上皮から角膜内皮への拡散が少なく角膜上皮中のAsx濃度が高いことから、より効果的であると推察された。今後 in vitro 及び in vivo ドライアイモデルを用いた抗酸化作用に基づくドライアイ治療薬の探索が活性化され、更には物理化学的特性により眼疾患への適用が困難であった薬物に正荷電リポソーム製剤技術を適用することによるドラッグリポジショニングが推進されることにより、ドライアイの治療が発展していくことが期待される。
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Date Accepted (W3CDTF)2021-07-05T22:24:43+09:00
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