Alternative Titleポリブチレンテレフタレートおよびポリエーテルエステルエラストマーの熱劣化反応に関するスピントラッピング分析と特性解析
Note (General)type:Thesis
本論文は序論、第1章および第2章から構成される。序論では、高分子材料の劣化とその解析についての歴史,本研究で用いた手法である電子スピン共鳴(ESR)およびスピントラップ法について記載した。第1章では、スピントラップ法によるポリブチレンテレフタレート(PBT)の熱劣化によって生じるラジカル種を検出,同定するため,スピントラップ法を適用した研究内容を記載した.スピントラップ剤として2-メチル-2-ニトロソプロパン(MNP)を添加し,まず分子量が数万以上のPBTポリマーの熱劣化により生成するラジカルの検出および同定をESR測定により試みた.その結果,100 °C付近から劣化によるラジカルのシグナルが現れ,昇温と共にその強度が増加することを確認した.しかし,予想通り,スペクトルの大部分は強い異方性を示し,分子構造解析が不可能であった.次に分子量が数千程度のPBTオリゴマーを合成し,モデル化合物として用いた.その結果,異方性を示す成分のほか,ベンゾイルラジカル由来の狭い0.8 mT間隔の3本線,およびMNPの熱分解に由来する1.5 mT間隔の3本線の,計3成分のラジカル種が出現した.スペクトルシミュレーションにより成分分離したのち,各スピンアダクトの分子構造の帰属と濃度の算出を行い,それらの経時変化から,PBTの熱劣化過程は,主鎖?炭素上の水素引き抜きによって第二級炭素ラジカルが生成することで始まり,ここから主鎖エステル結合のβ切断が起こると推察した.さらに,PBTの低分子モデル化合物であるジブチルテレフタレート(DBT)を用い,加熱によって生成する反応中間体からのスピンアダクトを検出すると共に,高速液体クロマトグラフ-イオントラップ型質量分析法(HPLC-ESI-MS)を用いてプロダクトアナリシスを実施した.ESRスペクトルは,MNPの熱分解に由来する3本線のほか,第二級炭素ラジカルの6本線およびベンゾイルラジカル由来の狭い3本線が観測された.一方で,HPLC-ESI-MSにおいては,DBTの水素引き抜きによって生成したラジカルに由来するスピンアダクトの質量数m/z 364(酸化型)および365(ラジカル型)のイオンを検出した.以上の結果を合わせることにより,PBTの熱劣化反応は,主鎖α炭素の水素引抜に始まり,続くエステル結合部位のβ切断によってベンゾイルラジカルとアルデヒド末端が生じる分解反応であると結論付けた. 第2章では,ハードセグメントとしてPBT,ソフトセグメントとしてポリエチレンオキサイド(PEO)を有する熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(PBT-co-PEO)を対象材料とした.組成の異なるPBT-co-PEOを用いて,加熱によって生じるラジカル種をスピントラップ法によって同定を行ってラジカル反応機構を推測し,さらにゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)や動的粘弾性測定(DMA),熱重量分析(TGA)を用いて,加熱による分子量分布,動的粘弾性特性,ならびに重量の変化を測定し,それらの結果も合わせて劣化反応機構を多面的に考察した.PBT-co-PEOの熱劣化過程はTGA測定によって4つの重量減少段階に分けられた.第1段階は室温から120 °Cであり,スピントラップ法によって,第二級炭素ラジカル(O-?CH-CH2)および第一級炭素ラジカル(?CH2-)を検出,同定した.PBT-co-PEOの初期の分解はPEO部位におけるOCH2-CH2O結合で起こると考えられる.GPC測定の結果より,120 °C一定加熱において,PBT-co-PEOはランダムな主鎖切断が起こる一方で,PBT成分多いほど,ゲル化が見られ,PBT-PEO-PBTの構造に由来する特徴的な生成物が存在することが分かった.ゲル化はPBT部位の二つのO-?CH-CH2の間で架橋したことに起因すると考えられる.120 °C一定加熱におけるDMA測定から,ゲル化に由来する弾性率の上昇も観測することができた.第2段階は120 °Cから340 °Cの範囲であり,PEOセグメントの熱酸化劣化が起こるとともに,スピンアダクト量の増加が観測された.第3段階はPBT成分の熱酸化劣化が観測された.
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Date Accepted (W3CDTF)2021-09-06T03:11:00+09:00
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