Alternative TitleStudy on architectural design method based on city observation -Through concept of "adaptation" and "independence"
Note (General)type:Thesis
本論文は、都市の観察を通じて都市のコンテクストを読み取り、それを建築のデザインに定着するという「都市の観察に基づく設計方法」を提示する研究である。観察から設計に至る実践過程を記述・分析し、その有用性を検証した成果をまとめたものである。 第1章の序章では、研究の背景、研究の目的、研究の対象、既往研究と本論の位置付け、本論の構成について述べている。本章では、都市のコンテクストの読み取りの重要性を指摘した上で、建築設計の実践における都市の観察の役割を明らかにするという本論の目的を述べている。また、建築の設計者が設計することに先行して敷地およびその周辺の現地調査を行うことを「都市の観察」と定義し、それに類似する既往研究を整理・比較することで本論の独自性を述べている。 第2章では、3つの事例における都市の観察から得られた情報を整理している。都市の観察の際に撮影した写真に写り込んでいる要素(都市要素)を抽出し、その出現回数を分析している。それらを元に3つの事例における各都市の特性をキーフレーズとして記述している。 第3章から第5章では、研究対象である3つの建築作品を、それぞれ「ファサード」、「空間構成」、「材料とディテール」の観点からデザインの解説とその設計プロセスの分析を行っている。さらに、第2章で得られた都市の特性と建築デザインとを比較し、都市の特性を建築のデザインに定着する操作を「同化」と「異化」という概念を用いて考察している。 第3章では、事例1〈N邸〉のファサードのデザインに着目している。まずは、ファサードを屋根、軒樋、2階の窓、外壁、1階の窓、外構の6つの部位に分けて各々のデザインの設計プロセスについて分析している。デザイン操作のうち、周辺の街並みに馴染ませるような操作を「同化」、周辺の街並みから自立させるような操作を「異化」と定義すると、同化の操作は都市の具象物から引用する操作であり、異化の操作はそのデザインを抽象化する操作であると言い換えることができた。また、それぞれの部位における設計プロセスを分析すると、同化と異化の操作が交互に複数回行われることで、それらが複雑に絡み合ってデザインが決定していた。 第4章では、事例2〈赤い別邸〉の空間構成のデザインに着目している。本事例の基本設計段階における58のスタディ案について、建物の外形形状、平面分割と部屋の広さ、部屋の天井高さと断面計画、階段の配置と形状、採光とプライバシーへの配慮という5つの観点でそのスタディプロセスを分析している。第3章で用いた「同化」と「異化」という概念を用いることで、「同化」は都市に開くことであり、「異化」は都市から閉じることと定義できた。同化には、都市構造との類似化、外部環境(採光・眺望)の享受、都市と空間的に一体化するという3種類の操作が見られ、異化には、都市のプライバシーから守るという1種類の操作が見られた。住宅という建築は、都市という社会環境に開く必要がありながらも、居住者のプライバシーを守らなければならないという相反する性質を合わせもっており、設計者は、その二つ性質の最適なバランス見極めて設計を行なっていることがわかった。 第5章では、事例3〈ペインターハウス〉の材料とディテールのデザインに着目している。本事例では、低予算・短工期の建売住宅のオルタナティヴを提案するために、建売住宅の標準仕様書を入手し、そこからそのまま採用できる仕様と変更が必要な仕様を精査し、デザインとしてまとめている。その設計プロセスを分析すると、建売住宅で使われている材料は、コスト・性能・施工容易性を重視して選ばれているのに対し、本事例では、コスト・性能・デザインを重視して材料やディテールを決めていることがわかった。今日の日本においては、安価で高性能な量産品の供給システムが成熟しているため、それを利用することで、コスト縮減と安定した性能の確保が可能になっていた。一方、施工容易性に囚われず、オリジナルなデザインを実現するには、大工の技術と現場対応が必要不可欠であることがわかった。このような、量産品の供給システムの活用を都市との「同化」、大工の技術の利用を都市との「異化」と定義できた。各部分の仕様においては、一般仕様と同化するものはディテールで異化しているなど、同化と異化の双方の操作が行われていた。 第6章の総括では、「ファサード」、「空間構成」、「材料とディテール」がそれぞれ異なる指標を用いて、「同化」と「異化」の双方の操作が行われていることをまとめている。設計のプロセスにおいては、プロジェクトの条件(場所性、施主の要望、施主の性格、予算、性能要求、法令等)と照らし合わせながら、同化と異化の双方の操作の中で、設計者がその2つの性質が共存できる最適なバランスを発見することで、デザインを決定していることがわかった。さらに、ここまでの考察の客観的な検証として、3作品に対する第三者の作品批評や既往研究を分析している。終わりに、本論で分析した事例以降の設計実践例を取り上げることで、今後の課題と展望を提示し、最後に結びとしている。
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2022-05-09T11:57:37+09:00
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